子どもの権利擁護のための条例

子どもの権利擁護のための条例を制定する自治体がある。これは、我が国が平成6年に「児童の権利に関する条約」を批准したことを契機としてのもののようである。
しかし、子どもの権利を主張することに対し、「子どもには権利より義務、責任が大事」といった反論もあり(子どもの権利条約総合研究所『子ども条例ハンドブック』(P7)参照)、議会の議決に苦労している例もあるようである。
子どもの権利についてどのように考えるべきかについて、私は見識を持っているわけではない。しかし「児童の権利に関する条約」の英語表記は、「Convention on the Rights of the Child」であり、この「Rights」は一般に権利と訳されるが、青木人志『「大岡裁き」の法意識 西洋人と日本人』(P116)では、「『権利』を意味するヨーロッパ語(ラテン語のius、英語のright、ドイツ語のRecht、フランス語のdroitが、いずれも『正』『直』というごく日常的な意味をもち、さらには『法』という意味もあわせもつのに対し、『権利』という訳語からは、そのような意味は理解しがたい」といった主張を紹介している。そうすると、ことさら権利のみを主張することが条約の趣旨であるとも一概に言えないように感じる。
それはともかく、子どもの権利を条例で規定することについて、田中孝男ほか「子どもの権利補償と施策メニューの条例化」『自治体法務NAVI Vol.7』(P19)では「子どもの権利保障のためには、具体的な権利の内容を明記することが望ましい」とあり、特別に子どもの権利の研究等をしていない方であっても肯定的に捉えている例もある。しかし、私は、誰の権利ということに関係なく、条例で権利を規定することにどうしても違和感を持ってしまう。それが自治体に対する権利を書こうというのであれば意味はあるが、世間一般における権利を書くとなると、そもそも条例事項とは言えないのではないかと感じる。どうしても規定するというのであれば、その条例は基本条例的なものとして、施策のメニューを規定するに当たり権利を実現するためのものであると位置付けるくらいがせいぜいだろうか。