「当該」と「その」

法令用語としてよく取り上げられるものに「当該」がある。この「当該」は、古風な漢語調の用語であり、「その」と意味がほとんど変わらないため、「当該」ではなく「その」を使うようにしたらよいとの意見もある(田島信威『法令用語ハンドブック(三訂版)』(P400〜)参照)。
実際にも「当該」と「その」は明確に使い分けられてはいないが、次のような例もある。

特別会計に関する法律
(借入金対象経費)
第36条 地震再保険特別会計における借入金対象経費は、再保険金(借り換えた一時借入金で、その年度における再保険料、積立金からの受入金及び積立金から生ずる収入(次項において「再保険料等」という。)をもって当該年度における再保険金を支弁するのに不足するためその借換えが行われたものの償還金を含む。)を支弁するために必要な経費とする。
2 (略)

ここで使われている「その年度」の「その」は、特に前にある語句等を受けているものではなく、次のような意味で用いられているのだろう。

  • 今述べる事柄に関係することを、相手の立場を基準に述べる形で指示する。従って「或る」の意に近く用いられることがある。(広辞苑
  • ばくぜんと物事をさし示す。(大辞林

これに対し、「当該年度」は、「その年度」を受けて、「まさにその年度」といったニュアンスで使われており、まさしく「当該」本来の意味として用いられている。
こうしたこだわりは、個人的には好感が持てる。