情報公開制度における理由付記に関する雑感

行政機関の情報公開を取り上げた最近の書籍等を見ると、民主党政権化において第177回国会に提出されたものの、2012年11月の衆議院解散により廃案となった「行政機関の保有する情報の公開に関する法律等の一部を改正する法律案」について取り上げるものをよく目にする*1
この法案の内容は、目的規定に国民の知る権利を明記したこと、いわゆるヴォーン・インデックスとインカメラ審理手続の規定を置いたことなどであり、概ね好意的な評価がなされているようであるが、個人的にはいかがかと思われる規定も存する。
この法案では、行政文書を開示しない場合の理由付記に関し、第9条第3項として次の規定を設けることとしていた。

前2項の規定による通知(開示請求に係る行政文書の全部を開示するときを除く。)には、当該決定の根拠となるこの法律の条項及び当該条項に該当すると判断した理由(第5条各号に該当することを当該決定の根拠とする場合にあっては不開示情報が記録されている部分ごとに当該決定の根拠となる条項及び当該条項に該当すると判断した理由、開示請求に係る行政文書を保有していないことを当該決定の根拠とする場合にあっては当該行政文書の作成又は取得及び廃棄の有無その他の行政文書の保有の有無に関する理由)をできる限り具体的に記載しなければならない。

存在する文書を不開示とする場合にその理由をできる限り詳細に記載すべきことは、そのとおりだと思う。しかし、上記の規定は、文書が不存在の場合にも「行政文書の作成又は取得及び廃棄の有無その他の行政文書の保有の有無に関する理由」をできる限り具体的に記載しなければならないとしている。この点について、総務省が開催した「情報公開法の制度運営に関する検討会」による報告において、(1)請求対象文書をそもそも作成・取得していない、(2)作成したが保存期間が経過したので廃棄した、(3)請求対象文書が個人メモであって組織共用文書ではないから対象文書としていないといった記載を求めている。
しかし、(1)と(2)については、常に確認できるか疑問であるし、(3)については、個人のメモであることを組織の判断として求めることは論理的ではないように感じる。
個人情報保護も含めたいわゆる情報公開に関する学者の意見は、総じて実務を考慮しない、きれい事の議論しかしていないように感ずる。情報公開制度を悪用している者もある状況を十分考慮して、現実的な議論をして欲しいものである。

*1:例えば、岡田正則ほか『現代行政法講座 自治体争訟・情報公開争訟』等