非嫡出子の相続分に関する民法の改正における遡及適用の考え方に関するメモ

最高裁平成25年9月4日大法廷決定は、嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分が遅くとも平成13年7月当時には憲法第14条第1項に違反していた旨の判断を行った。ただし、本決定は、同月から本決定までの間に開始された他の相続について、遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと判断している。
これを受けて、該当する規定を削除する「民法の一部を改正する法律(平成25年法律第94号)」が平成25年12月11日に公布・施行された。
法規経験者にとっては、改正後の民法の適用範囲をどのようにしたのか興味をひかれるところであるが、この点については、平成25年9月5日以後に開始した相続について適用するという、一部を遡及適用するという形がとられた。この考え方について、改正法の立案担当者の解説を以下にメモしておくことにする。

  • 平成13年7月以後に開始した相続について適用することとしなかった理由

本決定は、……本決定の違憲判断の事実上の拘束性について、既に確定的なものとなった法律関係について影響を及ぼすものではないと判示しているから、新法の遡及適用を認める場合には、影響が及ばない部分を抜き出し、その部分については新法を適用しないこととする必要がある。しかしながら、……違憲判断の影響が及ばない範囲を法律で正確に抜き出し明示することは困難であり、規定の仕方によっては、本決定の判断よりも救済の範囲が広すぎて法的安定性を害したり、逆に狭すぎて嫡出でない子の利益を害したりしかねないという問題があった。このようなことから、この部分については解釈に委ね、争いがあれば裁判所が事案により考慮すべき利益状況を勘案した上、「確定的なものとなった法律関係」に該当するか否かを判断することで解決するのが相当であると考え、本決定以前に開始した相続については新法を遡及適用しないこととした(法務省民事局付 佐藤彩香「嫡出でない子の相続分に関する民法の改正 民法の一部を改正する法律」『時の法令(NO.1948)』(P7〜))。

  • 一定の範囲で遡及適用することとした理由

国民の権利義務に影響するような法律の遡及適用は、一般に法的安定性や予測可能性を害し、原則として行うべきではないと考えられている。本改正についても、遡及適用の許容性が一応問題となるが、違憲状態を解消し、嫡出でない子の利益を保護するためには、できる限り広い範囲で新法を適用することが望ましい状況にあり、また、たとえ遡及適用を認めないとしても、本決定の先例としての事実上の拘束性により、その影響が及ぶ範囲では、結局新法の適用を受けたのと同じ結論が導かれるものと考えられたことから、遡及適用そのものによって法的安定性や予測可能性を害することはないものと考えられたため、一定の範囲で遡及適用を認めることとした(前掲書(P8))。