「○○に関する条例」とすべきか「○○条例」とすべきか

条例の題名を「○○に関する条例」とすべきか「○○条例」とすべきかについては、以前、kei-zuさんが取り上げられており(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20100115http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20100906)、特別付け加えることもないのであるが、最近制定された法律の題名について改めて感じるところがあったので、あえて取り上げることにする。なお、その法律については次回触れることとする。
法令の題名について、法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P141)では、次のように記載されている。

新たに制定される法令の題名については、それがその法令に固有のものであることからくる呼びやすさという要請と、その題名から内容を一応推察させ、あるいは少なくとも内容を誤解させず、他との紛れも生じさせないようにしなければならないという要請とがある。

例規の題名には、簡潔であることとその内容を的確に表すことという2つの相反する要請があることになる。そして、法律の場合は、「○○法」又は「○○に関する法律」という題名が付けられることとされており(山本庸幸『実務立法技術』(P48)参照)、簡潔であることを重視すれば「○○法」、内容を的確に表すことを重視すれば「○○に関する法律」という題名になることが多いだろう。
例規の題名について、簡潔であることとその内容を的確に表すことのどちらに重点を置くべきかについて、前掲書(P141)では、「一般的には、なるべく簡潔な表現をとる方に重点を置いて考えるべき」としているが、他の内閣法制局経験者の文献においても、次のとおり題名は簡潔であることを重視し、「○○法」とすべきとするものが多い。

  • 林修三『法令作成の常識』(P57〜)

……題名は、なるべく簡潔であることが望ましい。そうでないと、他の法令で引用する場合などにすこぶる面倒なことが起る。「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」や「一般職の職員の給与に関する法律」などは、その適例といえよう。これらは、それぞれ、私的独占禁止法、一般職公務員給与法でもよかったのである。

  • 大森政輔『20世紀末期の霞ヶ関・永田町―法制の軌跡を巡って―』(P246)

散文題名の基本形は、「○○に関する法律」で、戦後世代の感覚では抵抗がないようです。しかし、例えば、「行政機関の職員の休日に関する法律」は、〔行政機関職員休日法〕と題してもなんら問題はなく、現行題名は間延びがしている感を拭い切れません。まして、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」は、題名としては代表的事項に絞り〔育児・介護休業法〕で充分で、それ以上の思いを盛り込むことは、題名の機能に照らして邪道と言えましょう。

  • 山本武『地方公務員のための法制執務の知識(全訂版)』(P197)

これまでの立法例についてみると、民法、商法、地方自治法地方財政法などという題名は、多少その題名から内容を推察することが困難であるとしても、長い間の慣れによって、現在では、誰もこれを不適切とは思わないし、字のすわりもまことによい。題名は、法令の名前であるから、その取扱いの便宜の点からいっても、簡潔であることを第1の要請とすべきであり、他の法令とまぎらわしくなったり、その内容を誤解させるようなおそれさえなければ、多少内容的に的確性を欠く表現になってもやむを得ない。

ただし、例外もある。早坂剛『条例立案者のための法制執務』(P92)では、「A市違法駐車等防止条例」について、「A市の他の条例との調和も考える必要があるが、一般的にいって、題名には『ひら仮名』が入っている方が表現が柔らかくなる」として、「A市違法駐車等の防止に関する条例」という案を提示しているが、これによれば「○○に関する法律」の方が適当ということになろう。
そして、実際の立法例としては、「○○に関する法律」とするものが圧倒的に多いように感じる。やはり、「内容的に的確性を欠く表現」になることに躊躇するのではないだろうか。
私は、どちらが好きかと言われれば、簡潔な表現の方である。したがって、例えば「特定秘密の保護に関する法律」は、一般的には「特定秘密保護法」と略されているが、私だったら迷うことなく、その略称を正式の題名にしてしまうだろう。
しかし、「○○市情報公開条例」だと少し考え方が変わってくる。いわゆる情報公開条例は、多少範囲を広げることはあっても、一般的にはその自治体が保有する情報を対象とするものであるため、法律と同様に「○○市の保有する情報の公開に関する条例」とした方が適切ではないかと感じる。「内容的に的確性を欠く表現」になることには、やはり躊躇してしまう。