過料と両罰規定

法律で過料に対し両罰規定を設けている例は、現在では見当たらない。長野秀幸「法制執務の基礎と常識28 罰則規定」『自治体法務研究(NO.28)』(P95)には、「過料は秩序罰なので、両罰規定を置かないこととされている」と記載されているが、これは、過料に当たる行為は、一般的に軽微なものであるため、両罰規定を設ける必要がないということであろう。
そうすると、過料に両罰規定を設けることが理論的にできないということにはならない。実際、過去の立法例には、過料に両罰規定を設けていた例があり、伊藤栄樹『新おかしな条例』*1には、次の2例*2が紹介されている。

<例1>
   文化財保護法
(両罰規定)
第112条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務又は財産の管理に関して第106条、第107条又は第109条から前条までの違反行為をしたときは、その行為者を罰する外、その法人又は人に対し、各本条の罰金刑又は過料を科する。但し、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため当該業務又は財産の管理に対し相当の注意及び監督が尽されたことの証明があつたときは、その法人又は人については、この限りでない。
<例2>
   精神衛生法
(両罰規定)
第11条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関して前2条の違反行為をしたときは、その行為者を罰する外、その法人又は人に対し各本条の過料を科する。

ところで、過料に両罰規定を設けることについて、前掲書(P306〜)には、次のように記載されている。

一般に、刑罰法規の場合、犯罪の主体となるためには犯罪行為能力が必要であるところ、法人は犯罪行為能力がないとされてきたから、特に規定がない限り、自然人を処罰する意味だけの規定であるとされてきた。そうであるから、わざわざ法人の連座処罰を明記する両罰規定が設けられるわけである。
これに比して、行政処分の理由となる違法行為のような場合は、法人の代表者又は従業員が法人の業務に関して違反行為をすれば、それで、法人自体が違反行為をしたという評価をしても、理論的な支障はないわけである。したがって、両罰規定のような方法をとらなくても、法律によって直接に法人に対して違反責任・違反効果を規定することができる。
そこで、過料を科す秩序罰の場合はどうか。
過料は、刑罰と行政処分のいわば中間的な性格を有すると解されるので、両罰規定についても、行政処分の場合に近づけて規定することも、また、刑罰の両罰規定に近づけて規定することもできるように思われる。

法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P247)には次のように記載されており、どちらかというと行政処分に近づけて規定するべきとしているようである。

……過料責任なるものは、刑罰責任とは異なり、特に個人の違反行為を追及するという要素が少ないことは確かである。そうだとすれば、過料処罰の基礎となる作為・不作為の義務主体が、自然人でも法人でもあり得る場合、又は法人以外にはあり得ない場合であれば、法律によって、直接に法人又は代表者の定めのある団体に対して過料責任を認めることができるものと解される……。

自治体の場合、過料は長が行う処分であることを考えると、法律よりも行政処分的な書き方をすることに違和感はないだろう。

*1:刊行当時、法務省刑事局参事官であった宇津宮英雄氏が「カニ族との闘い」に記載

*2:いずれも昭和29年の第19回国会において成立した法案(文化財保護法第112条の規定は、「文化財保護法の一部を改正する法律(昭和29年法律第131号)」、精神衛生法第11条の規定は、「厚生省関係法令の整理に関する法律(昭和29年法律第136号)」)により削除されている。