条例による政省令の上書き

平成24年法律第73号により構造改革特別区域法が改正され、政令又は主務省令により定められた規制の特例措置を条例で定めることができるようにするため、次の規定が設けられた。

地方公共団体の事務に関する規制についての条例による特例措置)
第35条 地方公共団体が、その設定する構造改革特別区域において、政令又は主務省令により規定された規制(地方公共団体の事務に関するものに限る。以下この条において同じ。)に係る事業(以下この条及び別表第25号において「地方公共団体事務政令等規制事業」という。)を実施し又はその実施を促進する必要があると認めて内閣総理大臣の認定を申請し、その認定を受けたときは、当該認定の日以後は、当該地方公共団体事務政令等規制事業については、政令により規定された規制に係るものにあっては政令で定めるところにより条例で、主務省令により規定された規制に係るものにあっては主務省令で定めるところにより条例で、それぞれ定めるところにより、規制の特例措置を適用する。

この規定は、条例による政省令の上書きを認めるに当たって、法律の上書きを認める場合と同様に、一般的な立法ではなく個別具体的に定めることとしている。この規定に関する立法担当者の解説として、次のようなものがある。

本条による特例措置の対象となるのは、親法の委任により政令等で定めることとされている地方公共団体の事務に関する規制であり、憲法第41条に規定する国会の立法権との関係では、国会が既に政府に委任した事項の範囲内にとどまるものである。また、条例は法令に反しない限りにおいて制定できるものであり、政令等により規定された規制の特例措置を条例で定めることができるようにするためには、政令等によりその旨を個別具体的に定めることが必要であることから、本特例措置においては、
(1) いかなる政令等のいかなる規定について特例措置を設けることができるのか
(2) 当該規制についてどのような内容の特例措置を設けることができるのか
については個別具体的に政令等で定めることとし、その範囲内で、条例により特例措置を設けることができることとした。(内閣官房地域活性化統合事務局 北口善教「構造改革特別区域制度の継続について 構造改革特別区域法の一部を改正する法律」『時の法令(NO.1930)』(P25))

ここでは、条例で政省令の上書きを認めるに当たって個別具体的に定めることとした理由は、述べていない。
では、法律の上書きを認める場合に、一般的な立法ではなく、個別具体的に定めることとしている理由はどうかというと、以前(2012年7月14日付け記事「条例による法令の上書き(中)」)も取り上げたが、第179回国会衆議院東日本大震災復興特別委員会(平成23年11月24日)において、当時の梶田内閣法制局長官が次のような答弁をしている。

国会の答弁におきまして、担当の大臣から、いわゆる条例による法律の上書きにつきましては、唯一の立法機関である国会に対して地方公共団体立法権限の一部の移譲を求めるものであり、政府提案として国会に提出することは控えるべきとの考え方に基づいて、今回の復興特区法案には盛り込まなかった旨の答弁がなされておるところと承知しております。

つまり、一般的な立法で法律の上書きを認めるような法案を内閣が提出することが適当でないとしているだけであり、そのような立法自体を否定しているわけではない。
そうすると、上記解説は、政省令の上書きを認める場合に個別具体的に定めなければいけないことは当然のことのように述べているが、その辺りの論理がよく分からないことになる。もちろん、立法技術的な問題はあると思うが、「条例は法令に反しない限りにおいて制定できるものであり、政令等により規定された規制の特例措置を条例で定めることができるようにするためには、政令等によりその旨を個別具体的に定めることが必要である」とは決して言えないだろう。
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