複数の法律を一の法律で改正する理由

一部改正法の本則で複数の法律を同時に改正する場合は、その動機が共通の動機である場合である(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P354)参照)。
ところで、第183回国会に提出されて可決・成立した「水防法及び河川法の一部を改正する法律案」(平成25年法律第35号)の提出理由は、次のとおりである。

水防活動及び河川管理をより適切なものとするとともに、その連携を強化するほか、再生可能エネルギーの普及の促進を図るため、河川管理者等による水防活動への協力の推進を図るための措置、河川管理施設等の適切な維持及び修繕を促進するための措置、河川協力団体制度の創設、水利使用手続の簡素化のための従属発電に関する登録制度の創設等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

この法案で水防法と河川法を改正する動機は、次の2つということになる。
(1) 水防活動及び河川管理をより適切なものとするとともに、その連携を強化する。
(2) 再生可能エネルギーの普及の促進を図る。
この法案の内容は、国土交通省による概要資料によると、次のとおりである。

  1. 水防活動への河川管理者等の多様な主体の参画
    • 河川管理者の水防活動への協力等(水防法及び河川法の改正)
    • 事業者等の自主的な水防活動(河川法の改正)
  2. 河川管理施設浸水想定区域内で以下の事業者による避難(河川法の改正)
    • 河川管理施設等の維持・修繕の基準の創設
    • 河川協力団体の指定等
  3. 再生可能エネルギーの導入促進(河川法の改正)
    • 従属発電に関する登録制度の創設

法案の内容の1と2は改正動機の(1)に、法案の内容の3は改正動機の(2)に対応することになるが、改正動機の(1)と(2)は、どう見ても異質のものである。上記概要資料では、この改正により「地域の防災力の強化、河川管理施設等の確実な維持管理等による安全と安心の確保」が図られるとしているが、再生可能エネルギーの導入促進を含めることは、やや無理がある感じがする。そうすると、この法案における水防法と河川法の改正動機は、完全に共通しているとは言い難いことになる。
もちろん、2つの改正動機があっても改正する法律が1つであれば、当然一の法案とするわけであり、それに他の法律の改正も必要であったため、束ねたということなのであろうが、厳密には一の法案にしていいのか疑問が生じてしまう事例である。