続・都道府県条例に市町村の責務を規定することについて

都道府県条例に市町村の責務を規定することについては、以前(2008年2月29日付け記事「都道府県条例に市町村の責務を規定することについて」)取り上げたことがあるが、少なくとも私の周囲では、それが適当でないという意見を言う人は少なく、むしろ規定すべきだと言う人が多い。市町村の職員からも、「都道府県の条例で規定してもらったほうが、事務をやりやすい」という意見を聞くことがある。
ところで、最近、海老名富夫「公害防止条例に見る都道府県と市町村の関係について」人見剛ほか『公害防止条例の研究』において、公害防止条例において都道府県の条例で市町村の責務規定を規定しているものが多いことを批判的に取り上げているのを拝見した。同論文によると、当時、自治省地方分権推進室課長補佐の古田孝夫氏が雑誌「地方自治」に次のような見解を述べていたとのことである。

具体的な事務の義務付けではないにせよ、市町村に対して何らかの義務付けをする点ではやはり同じ問題があり、このような規定を都道府県条例に置くことはできず、仮に置いても市町村を拘束することはできないのではないかと思われる。

そして、こうした旧自治省筋における解釈が示されていたにもかかわらず、改正がなされたかったことについて、同論文(P271)では、次のように記載されている。

……地方分権改革における条例改正作業が……国と地方公共団体の間の問題、すなわち法律改正に伴うものを中心に進められていた結果、条例改正の検討から見落とされたか、一般的な努力義務規定は違法とまで言えず許容されると判断したか、または、都道府県と市町村の新しい関係を理解しながらも、現実的には必要との認識から具体的な義務付け等市町村に対する規定をあえて残したのか、さまざまなケースがあると思われる。

私は、当時の条例改正の作業の状況を聞く限りでは、そこまで手が回らなかったというのが正直なところではないかという感じがしている。
いずれにしろ、地方自治法上は、都道府県の事務と市町村の事務は棲み分けがなされることが前提となっているから(同法第2条第2項から第6項)、総務省筋の解釈としては上記のようになるのであろうが、実際には重畳的に行われる事務があるため、その事務の一環をなす市町村について責務規定を置きたいという考えになるのではないかと感じている。
もちろん、法的には、そうした規定は置くべきではないということは間違いないとは思う。