題名が長い条例

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大分県宇佐市 「日本一長いかもしれない条例」でPR継続
これからは「日本一長いかもしれない条例」となります−−。大分県宇佐市は「日本一長い条例」としてPRしてきた地産地消を進める条例について、「日本一ではない」と指摘された後もPRする垂れ幕を市庁舎にかけたままにしている。条例廃止を主張する意見もあるが、市は「議員提案の条例であり、議会の意思を尊重したい」と強調。「日本一かもしれない」という“ただし書き”をつけてPRを続けていくという。
条例名は「千年ロマンへと想(おも)いをはせ、海の幸、山の幸、自然豊かな宇佐のチカラの恵みを未来へと紡ぎ広める条例」(47字)。市議会で全会一致で可決され、今年1月1日に施行された。しかし、その後、中本毅市議が、市の介護条例の正式名が79文字あるなどとして「これより長い条例がある」と指摘。佐田則昭議長は「ご当地条例としては日本一」と弁解していた。
これに対し、中本市議は今月になって、熊本県あさぎり町の「焼酎条例」(79字)などご当地条例だけでも長い条例があると再び反論し、「日本一ではない」と条例の廃止を要求した。
困ったのは市当局。垂れ幕のほか、缶バッジを作るなどしてPRしているが、「待った」をかけられた格好だ。是永修治市長自身、このバッジを背広の胸につけつつ、「『日本一』と書いていない」と弁明しながらのPRを強いられている。
今後について、条例を議論した市議会産業建設常任委員会は「完全な調査は困難。『日本一長い名称ではないか』との注釈を付け、今後も長い条例を通して市と一緒にPRしたい」としている。
毎日新聞 2017年12月28日配信

宇佐市の上記条例は、前文及び本則6条からなる条例であり、その全文は、次のとおりである。

千年ロマンへと想いをはせ、海の幸、山の幸、自然豊かな宇佐のチカラの恵みを未来へと紡ぎ広める条例
朝陽が宇佐の社を朱色に染め、幾多の滝をさんさんと輝かせる時、木の葉に生まれた一粒の露はやがて川となり、宇佐の大地を潤していく。ふるさとの人々は今日も石橋を渡り、田畑に願いを込めてくわを入れる。川は宇佐の山々の力を分け与えながら、やがて周防灘へと注がれる。
千年の想いが実を結び宇佐のチカラの恵みは、親から子へ、子から孫へ受け継がれてきた。その恵みを頬張り千年ロマンに想いをはせ、黄金色のからあげを片手に酒を酌み交わすと、神輿こしの掛け声に、放生会の囃子はやしの音が胸に響く。
私たちは宇佐市の歴史や文化に誇りをもち、先人から受け継いだ豊かな自然の中で育て上げられた産物とその加工品を通じて、その魅力を再発見することで、宇佐の産品が愛され未来へと引き継がれていくように取り組んでいかなければならない。
(目的)
第1条 この条例は、市民一人ひとりが宇佐市の歴史、文化、豊かな自然から生み出される海の幸、山の幸の魅力を再発見し、それらを楽しみ、味わうことにより郷土愛を高め、もって、その魅力を広めていくことを目的とします。
(市の役割)
第2条 市は、前条の目的を達成するため、次に掲げる事項の推進に努めるものとします。
(1) 宴会等では、宇佐の地酒で乾杯すること。
(2) 御中元や御歳暮等の贈り物に、地場産品を利用すること。
(3) 宇佐の歴史・文化・自然・グルメ等の魅力を発信すること。
(4) その他市長が必要と認めること。
(生産者の役割)
第3条 生産者は、安全、安心な産物等を生産するとともに伝統的な生産の継続に努めるものとします。
(事業者の役割)
第4条 事業者は、産品の安全性及び信頼性を確保し、その普及の促進に努めるものとします。
(市民の協力)
第5条 市民は、第2条に掲げる事項の推進に協力するよう努めるものとします。
(個人の嗜好の尊重)
第6条 第2条に掲げる事項の推進に当たっては、個人の嗜好及び意思を尊重するよう配慮するものとします。

本則が「です・ます調」でありながら、前文が「である調」というのがどうかとか、前文と本則が対応していない部分があるとか、第6条は第2条の第1号だけ引用すれば十分ではないかといったこともあるのだが、ここでは、題名に関して気になる点を述べておく。
まず、題名に「千年ロマンへと想いをはせ」とあるが、それに見合った歴史が書かれていないので、何に「想いをはせ」ればいいのかよく分からない。
また、「海の幸」、「山の幸」、「自然豊かな宇佐のチカラの恵み」が並列になっている点について、「自然豊かな宇佐のチカラの恵み」の意味もよく分からないのだが、「海の幸」も「山の幸」も宇佐市の自然が生み出したものであることを念頭に置いているのだろうから、並列ではないだろう。
さらに「千年ロマン」という言葉は、使うのであれば定義が必要だろう。
以上を踏まえると、題名は、「宇佐の豊かな自然が生み出し、歴史や文化の中で育まれた海の幸や山の幸を継承する条例」(40字)というような感じになってしまうことになる。
ちなみに、あさぎり町の上記条例は、本則5条からなる条例であり、その全文は、次のとおりである。

球磨焼酎は、ガラとチョクで盃を交わしながら飲み、球磨拳を楽しみ、食べ物は「ごちそうさん」の感謝の心と「もったいない」の精神で、胃袋に消費することを推進する条例
(目的)
第1条 この条例は、日本の稲作文化と豊かな球磨の自然から生まれた世界に誇る「球磨焼酎」の消費拡大とガラとチョクで盃さかずきを交わし球磨拳をしながら楽しく飲む伝統文化の推進を図り、かつ、「ごちそうさん」の感謝の心を持つ食育の充実を図り「もったいない」の精神を育み、飲食店等での食べ物は、食べ残しがないように個々人の胃袋に消費し、町民全てが生ごみの排出減量に努め、あさぎり町の財政健全化に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 球磨焼酎 米のみを原料として、人吉球磨の地下水で仕込んだもろみを人吉球磨で蒸留し、瓶詰した焼酎をいう。
(2) ガラ 陶器等で作られた酒器で、別図1のような形状のものをいう。
(3) チョク 陶器等で作られた酒器で、別図2のような形状のものをいう。
(4) 盃 酒席で、杯をやりとりする献酬のことをいう。
(5) 球磨拳 ジャンケンに似た、手の出し方が6通りあり、二人が対面して拳を出し、一つ上の方が勝つ遊びをいう。
(6) 残さず食べよう!「30・10(さんまる いちまる)運動」 乾杯後30分間は自席で料理を味わい、お開き前の10分間は自席に戻り、再度料理を楽しむことをいう。
(町民の協力)
第3条 町民は、球磨焼酎をガラとチョクで盃を交わし球磨拳をしながら楽しく飲み、食べ物は「ごちそうさん」「もったいない」の心をもって個々人の胃袋で消費し、生ごみの排出減量に努めるものとする。
(町の役割)
第4条 町は、球磨焼酎に関わる産業の育成と消費拡大のため、国内外へのPRに努め、ガラとチョクで盃をする文化の推進を図り、かつ「食べ残しを減らそう町民運動」を展開し、生ごみの排出減量に必要な処置を講じるよう努めなければならない。
(事業者の役割)
第5条 事業者(球磨焼酎の製造業及び販売業並びに飲食店業を営む者をいう。)は、常にガラとチョクで盃ができるように準備し、球磨焼酎の消費拡大に努めなければならない。
2 飲食店業を営む者は、「食べ残しを減らそう町民運動」に協力し、残さず食べよう!「30・10(さんまる いちまる)運動」を利用者に理解を求め、生ごみの排出減量に努めなければならない。

「!」など気になるところもあるものの、個人的にはこちらの方が条例として好感が持てるが、若干文章を整えるとすれば、「球磨焼酎はガラとチョクで盃を交わしつつ球磨拳を楽しみながら飲み、食べ物は『ごちそうさん』の感謝の心と『もったいない』の精神で残さず食べることを推進する条例」(77字)といったところだろうか。
いずれにしろ、題名を長くすることによるPR効果はあるのだろうか。長い題名の例規は、短縮した名称で呼ばれることが一般的であり、その方が便宜であるから、むしろ正式な名称も短くすることを考えた方が効果的であるように思える。