調整規定

今回は別のことを書こうと思っていたのですが、tihoujitiさんが調整規定について書かれているのを拝見したので(http://d.hatena.ne.jp/tihoujiti/20070605)、そこで取り上げられているものとは若干異なりますが、こんなときに使うことができると思ったことがあるので、そのことについて触れることとします。
調整規定とは、参議院法制局法制執務コラム集(「調整規定」)によると、ある法律で他法の改正を行う場合、施行日の先後により、改正の対象となる規定の姿が変化することがあるため、このような場合に対応する手法の1つであるとされている。
国の場合は、同一の法律の改正案を複数国会に提出することがあり、その提出の時期も議決の時期も一定ではないから、調整規定を置く必要がある場合は結構あると思う。
他方、自治体の場合は、通常は、条例案の提出や議決は一括して行われるため、調整規定が必要になることはほとんどない。ある条例の改正案(以下「A条例案」という。)とその改正を見越した規定を置く条例案(以下「B条例案」という。)を同じ議会に提出したとしても、意図したとおりの改正等がなされるものと解されているからである(前田正道『ワークブック法制執務(全訂)』(P308〜)*1参照)。ただし、例えばA条例案が継続審査になっていて、次の議会にB条例案を提出しなければいけないようなときで、A条例案は更に継続審査になりそうな場合などは、調整規定を置くことも考えられる。
具体的に考えてみることにする。
条例案は、次のように第×条で定めている金額a円をb円に改めるものであるとする。

第×条中「a」を「b」に改める。

条例案は、第×条で定めている金額a円(A条例案による改正後は、b円)の特例を次のように定めるものであるとする。

附則に次の1項を加える。
○ 第×条の規定の適用については、当分の間、同条中「△円」とあるのは、「c円」とする。*2

そして、A条例案・B条例案とも同一の議会で可決された場合に、施行日がA条例案の方が先になるときには、A条例案が更に継続審査になることを想定すると、現実にはどちらの施行日が先になるかは分からないので、B条例案には調整規定を置くことが考えられる*3
条例案の方が先に施行されることを前提にすれば、上記の「△円」は「b円」とすることになり、B条例案が先に施行されることもあることを想定して、次のような調整規定を置くことになる。

<例1>
(調整規定)
○ この条例の施行の日が○○条例の一部を改正する条例(平成 年○○条例第 号)*4の施行の日前である場合には、附則に1項を加える改正規定中「b円」とあるのは、「a円」とする。
○ 前項の場合において、○○条例の一部を改正する条例(平成 年○○条例第 号)本則のうち第×条の改正規定中「a」とあるのは、「c」とする。

条例案の方が先に施行されることを前提にすれば、上記の「△円」は「a円」とすることになり、B条例案に関してはそれが後に施行されることもあることを想定し、またA条例案に関してはそれが後に施行されることを想定して、次のような調整規定を置くことになる。

<例2>
(調整規定)
○ この条例の施行の日が○○条例の一部を改正する条例(平成 年○○条例第 号)の施行の日以後である場合には、附則に1項を加える改正規定中「a円」とあるのは、「b円」とする。
○ この条例の施行の日が○○条例の一部を改正する条例(平成 年○○条例第 号)の施行の日前である場合には、○○条例の一部を改正する条例(平成 年○○条例第 号)本則のうち第×条の改正規定中「a」とあるのは、「c」とする。

詳しくは見ていないが、例1のケースが通常であり、例2はほとんど取られていないと思う。例2だと、A条例案であれば当然A条例案が先に、B条例案であればB条例案が先に施行されることを前提にしているので、同時に提出している条例間で矛盾していることになるので、それが適当でないという判断があるのかもしれない。
ただ、例1によると、A条例案はさらに継続審査になるであろうという実態と相反する結果になってしまう。だから、実際には、調整規定を置かずに、B条例案はA条例案が可決されないことを前提として作成し、万が一A条例案を可決する場合には所要の修正が必要なことを議会と事務レベルで擦り合わせをしておくということも現実的なやり方であろう。
しかし、調整規定を使えば、そのような擦り合わせは必要なくなるので、こういう技術があるということを例規審査の担当としては知っておいて損はないのだろう。

*1:法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P338〜)も同様

*2:実際には、このような書き方をせずに、「○○の額については、当分の間、第×条の規定にかかわらず、b円とする。」とした方が適当な場合が多いような感じがするが、便宜上このような規定を置いたこととする。

*3:施行日がA条例案・B条例案とも同一の議会で可決された場合に、施行日がB条例案の方が先になるときには、B条例案の「△円」は「a円」とし、その附則でA条例案の「a」を「c」に改める改正規定を置くことになる。

*4:条例案のことである。次の項及び例2も同じ。