語句の並列に着目した文章の見方とは

前回(「法制執務に向いているのは、文系か理系か」)、私は特に並列している語句に着目して文章を見ているということを記載したが、具体的にどのようにやっていたかを記してみたい。ある自治体における例規の次のような規定を例に考えてみる。

第18条 町長は、放置自動車等*1を第14条の規定により移動し、保管を行ったとき、又は第16条の規定により撤去し、処分を行った後にその所有者等が判明したときは、その者に対して移動及び保管又は撤去及び処分に要した費用を請求することができる。

この規定では、「第14条の規定により移動し、保管を行ったとき」と「第16条の規定により撤去し、処分を行った後にその所有者等が判明したとき」が並列になっている。そして、その前の「放置自動車等を」という語句とその後ろの「その者に対して」という語句は、文脈からみて両方にかかっている必要がある。では、その意図どおりになっているのか。
まず、「放置自動車等を」という語句についてだが、これを両方にかけたいということからすると、「を」の次に読点を打ちたいところである。ただ、「を」の後には何となく読点を打ち難いので、「を」を使うのであればこのままということになろうが、「を」を「について」としてその後に読点を打つという工夫はできるだろう。
なお、この場合は両方の語句とも「〜を」でつながるからいいが、そうでない場合もある。例えば、「Aを○○し、又はAに××する。」としなければいけない場合に、概して後ろの「Aに」を省略している文章がよくある。その場合に、「Aを」から直接「××する」に続けても大丈夫かみて、だめなら「Aに」のように補うことになる。
次に、「その者に対して」という語句についてだが、この規定で「者」は、他にはその前の「その所有者等」しか出てこない。しかし、第14条の規定により移動等をした場合にも、当然費用請求することができることにしたいであろうから、その場合に誰に対してするのか明示することが必要になる。また、第16条の規定により撤去等をした場合の費用請求はその後に所有者等が判明した場合にしか費用請求することができないようになっているがそれでいいのかということをみていくことになる。これは、第18条だけでは何とも言えないので、他の関係規定をみることにする。

第11条 町長は、第8条の規定により調査した結果、所有者等が確認できたものについては、当該所有者等に対して放置自動車等を速やかに撤去するよう勧告することができる。
第12条 町長は、前条の規定による勧告を受けた者が、正当な理由なく勧告に従わないときは、期限を定めて放置自動車等の撤去を命令することができる。
第14条 町長は、第12条の規定による命令を受けた者が、その命令に従わないときは、放置自動車等を町長が別に定める場所に移動し、保管することができる。
第15条 町長は、第8条の規定による調査において所有者等が確認できなかった場合又は所有者等は確認できたがその者の住所若しくは居所その他の連絡先が不明な場合で、かつ、第10条の規定により貼付した警告書が30日間以上貼付されていた場合において、放置自動車等が次の各号のいずれかに該当するときは、当該放置自動車等を不法投棄された一般廃棄物として認定することができる。
(1)〜(3) (略)
2・3 (略)
第16条 町長は、前条第1項の規定により一般廃棄物としての認定をしたときは、告示期間満了後、当該放置自動車等を撤去し、処分することができるものとする。ただし、公共の場所以外の場所に存する放置自動車等については、美観の保持及び町民の快適な生活環境の維持その他公益上の必要があると認める場合に限り、当該場所の土地所有者等の同意を得てこれを行うものとする。

第14条の規定により移動等をした場合に費用請求することができる者を明示することについては、その移動等は第12条の命令を受けた者がその命令に従わないときになされるのであり、その命令は第11条及び第12条をみると放置自動車の所有者等になされるようになっているから、その所有者等に費用請求することができることとすればいいことになる。
第16条の規定により撤去等をした場合の費用請求はその後に所有者等が判明した場合にしか費用請求することができないようになっているがそれでいいのかということについては、その撤去等は第15条第1項の一般廃棄物としての認定をしたときにできることになっており、その認定は所有者等が確認できなかった場合と所有者等は確認できたがその者の住所等が不明である等の場合にすることができることになっている。そうすると、後者の場合も当然費用請求することができることとしたいであろう。そして、同項の認定は、所有者等が確認できないか、どこにいるか分からないかによって要件を変えているだけだから、いずれにしろ、費用請求は所有者等に対してすることになろう。
あとは、細かい点だが、「その者に対して移動及び保管又は撤去及び処分」とある移動等の目的語がないところと、個人的には「移動し、保管を行ったとき」といった書き方を直したいところである。
そうすると、次のような規定に直すことになるであろうか。

第18条 町長は、放置自動車等について、第14条の規定による移動及び保管をしたとき、又は第16条の規定による撤去及び処分をしたときは、当該放置自動車等の所有者に対して、当該移動及び保管又は当該撤去及び処分に要した費用を請求することができる。

*1:「放置自動車等」については、定義規定において「公共の場所等に正当な権原を有せずして長期間にわたり置かれている自動車等をいう。」とされ、その自動車等については、同じく定義規定において「道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第2条第2項に規定する自動車及び同条第3項に規定する原動機付自転車をいう。」とされている。