規則の活用〜文書管理に関する規程を規則にすることについて

いわゆる地方分権一括法による新制度のもとでは、条例の活用ということはよく言われるが、規則についてはあまり語られることがない。そして、規則というと、ともすると、政省令のように条例の下請け的なもののようにも考えがちである。事実、小早川光郎・小幡純子『あたらしい地方自治地方分権』(P44)では、次のように指摘されている。

そもそも条例と規則の関係というのが、今回の自治法では、あまり整理し切れていないのです。執行機関として議会と長の二元制があって、それぞれが定めるものが国レベルでいうと、法律と行政庁の命令という関係になるのか、それと全く同じで良いかという問題です。……条例の方にある意味での優位性がすでに認められているという中で、では法律と命令の関係と同様に条例が規則に委任していく形になっていくのか、そこがあまりはっきりはしていないのですが、これから現実のいろいろな作業を自治体で進めていく中では、整理しておかないと困るのではないかという気がしております。(「座談会・地方分権改革の意義と課題」における小幡純子教授発言)

しかし、規則は、条例とは別個の法形式とされているのであるから、もっと活用する場面を考えてもいいと思う。その一例として、文書管理に関する事項を規則で定めるべきことを提案してみたい。つまり、規則というのは、「自治体の長の規則」ではなく、「自治体の規則」なのであるから、財務規則のように自治体に共通する事項を規則で定めることはあるわけである。
文書管理に関する事項も、自治体に共通する事項といえる。しかし、実際には、規則で定めている自治体もあるが、執行機関ごとに文書事務に関する事項と併せて訓令で定める例が多いのではないかと思う。それをあえて規則で定めるべきではないかというのは、情報公開制度が取り入れられたことによる。
まず、国の取扱いをみてみると、次のように行政文書の管理に関する基本的事項を政令で定めることとされている。

行政機関の保有する情報の公開に関する法律
(行政文書の管理)
第22条 行政機関の長は、この法律の適正かつ円滑な運用に資するため、行政文書を適正に管理するものとする。
2 行政機関の長は、政令で定めるところにより行政文書の管理に関する定めを設けるとともに、これを一般の閲覧に供しなければならない。
3 前項の政令においては、行政文書の分類、作成、保存及び廃棄に関する基準その他の行政文書の管理に関する必要な事項について定めるものとする。

このことについて、宇賀克也『新・情報公開法の逐条解説(第3版)』(P133〜)には、次のような記載がある。

本条は、行政機関情報公開法と行政文書管理が「車の両輪」という認識に立ち、行政機関情報公開法に基づく開示請求の対象となる行政文書が適切に分類、作成、保存、廃棄されるよう、行政文書管理の基本原則について定めるものである。
 ……開示請求の対象になるのは行政文書であるから、アカウンタビリティの観点から存在すべき行政文書が保存されていなかったり、その所在が不明で検索できなかったりするようでは、行政機関情報公開法の円滑な運用は実現しない。適正な行政文書の管理は、行政機関情報公開法の基礎であるといってもよい。従前、行政機関にとって文書管理は、行政事務の効率的執行のためのものであり、行政文書は、行政機関が職務に用いる「公用物」であるという認識が一般的であったといえよう。しかし、……行政文書の管理は、単に、各行政機関が所掌事務を効率的に執行するという目的のために行われるのでは足りず、情報公開に適正かつ円滑に対応するという観点からも行われなければならないことになる。換言すれば、行政文書を何人もが利用する「公共用物」としても把握しなければならないことになる。
 (略)
 行政文書管理についての基本的事項は、政令ではなく法律で定めるべきという意見もある。……しかし、法規としての性格を有する政令で定めれば当面足りると考えられ、2項では、基本的事項を定める形式は政令とされている。基本的事項のみならず、行政文書の管理に関する事項はすべて政令事項とするという考え方もありうるが、各行政機関の取り扱う行政文書は多様であり、政令で細目にわたる事項まで規定することは困難である。

そして、行政機関の長が定める行政文書の管理に関する定めの法形式に関し、前掲書(P135)は、次のように記載している。

政令の基準に従って各行政機関の長が定める「行政文書の管理に関する定め」の法形式については、特段の指定はなく、各行政機関の長の裁量に委ねられている。したがって、たとえば、省令の形式をとる可能性もあれば、訓令の形式をとる可能性もある。しかし、いずれにせよ、政令で定める基準に従ったものでなければならないし、本法に基づく開示請求を行おうとする者が、「行政文書の管理に関する定め」を開示請求に際して利用することができるよう、情報公開への対応を念頭においたものとすることが必要である。

では、自治体においてどのようにするべきかについては、文書管理に関する事項は、情報公開条例で情報公開請求という権利を住民に認めることとした以上、その前提となる文書管理に関する事項は、訓令ではなく、法規である規則で定めることが適当であるということになるのではないだろうか。なお、国の場合、文書管理の基本的事項についてのみ政令で定めることとしているのであるが、自治体の場合、そのように区別する理由もあまり思いつかない(もちろん、各執行機関に特有の事項が生ずることもあるであろうし、それはそれぞれの執行機関で定めることにはなるであろう。)。
文書管理に関する事項についての定めは、以前は、訓令が適当な形式であったかと思う。しかし、事務の持つ意味が変化したことによって、規程形式そのものが適当でなくなった例と言えるのではないだろうか。このように、規程形式も適宜見直していく必要があるのであろう。