一部改正法令の溶け込みが同時に行われることについて

一部改正法令が改正対象法令にどのように溶け込むかについて、大島稔彦『法令起案マニュアル』(P431〜)には、次のように記載されている。

一部改正法令の施行による改正対象法令の改正は、施行の時に、すべての改正が同時に行われると考えられている。一部改正法令は、原則として、改正対象法令の冒頭から順次改正を行うように改正規定を書くが、その改正の内容が改正対象法令に溶け込むのは1つ1つの改正規定の順番でなく、全改正規定同時である。つまり、改正の起案作業は順次、改正の溶け込みは同時である。

ここでは、あくまでも溶け込みが同時に行われると言っているだけで、改め文も改正前の規定を前提にして書かなければいけないとは言っていない。
しかし、前田正道『ワークブック法制執務(全訂)』(P349〜)*1には、次のような記載がある。

……「第19条の次に次の1節、章名及び6条を加える」として、条文として第51条から第70条までが加えられており、その次に、第19条の一部改正と、同条を第50条とする条の繰下げが行われている点である。
この一連の改正について、まず第19条の一部改正と、同条を第50条とする条の繰下げを行った後、「第50条の次に次の1節、章名及び6条を加える」として第51条から第70条までを加える改正をしないのであろうか。思うに、第19条が第50条になるのは、当該一部改正法が施行されて初めて条の移動が行われるのであるから、施行前は飽くまで第19条であり、したがって、現在の条名を指して、その次に加えるとすべきであるとの考えによるのであろう……。
ところで、「第22条の4を第75条とし、同条の次に次の1条を加える」とする改正部分がある。この場合は、改められた条名の次に新たな1条を加えるとはしているが、新条名と現条名との関係を直接示した部分と一体と成って改正文が示されているので、現在の条名を指してその次に加えるとするのと同視できる点で、前述した第19条の次に第51条以下を加えるとするか、繰下げの行われた後の第50条の次に第51条以下を加えるとするかの場合とは異なるのである。

これによると、改め文を書くときは、あくまでも改正前の規定を前提として書くべきで、改正後の規定を受けて書くべきではないということになろう。
しかし、上記のように第19条の次に第51条以下を加える改め文を書くのは、ちょっと気持ちが悪い感じがするし、現在はこのようにするものはほとんど見かけない。「第19条を第50条とし、同条の次に次の1節、章名及び6条を加える」としてしまうと思う*2
次に、この原則が表の改正の場合にどのように現れるかを触れておく。Aの項を全改してBの項とし、その項の次にCの項を加える場合を考える。

 Aの項を次のように改める。

|……
 Bの項の次に次のように加える。
|……

上記のようにすると、改正前にはBの項はないので、適当でないことになる。この場合は、改正前のAの項の次がDの項であったとすれば、次のようにすることになろう。

Aの項を次のように改める。

|……
Dの項の前に次のように加える。
|……

*1:法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』では、この記載を前提とした規定例が差し替えられているので、この記載はない。

*2:この場合に「第19条の次に次の1節、章名及び6条を加える」としているのは、第19条の改正規定が『第19条の見出し中「掲示」を「掲示等」に改め、同条に次の1項を加え、同条を第50条とする』となっているからであろうが、1項を加えた後に第19条を第50条とすれば、それに続いて条等の加えを行うことは可能である。