一部改正の例規を改正する例規の立案(4)

6 改正規定の複雑なパターンとそのとらえ方
(1) 字句の改正+条の追加

第○条第1項中「……」を「……」に改め、「……」を削り、同条第2項中「……」の下に「……」を加え、同条の次に次の1条を加える。
第△条 ……

この場合について、河野久『立法技術入門講座3法令の改め方』には、次のように記載されている。

このようなパターンの改正規定の全体を特定する表現については、いくつかの方法があり、必ずしも一致しているわけではない。
条単位で改正規定のセンテンス(段落)が切れる原則からいえば、上記のパターンは、「第○条の改正規定」と「第○条の次に1条を加える改正規定」とが便宜的に結合したものであると理解することができる。そこで、このパターンについては、「第○条の改正規定及び同条の次に1条を加える改正規定」という表現で特定する実例もある。しかし、このようにひとつの段落でありながら「改正規定」という用語を2回使用することには難色を示す向きも多い。そこで、「第○条を改め、同条の次に1条を加える改正規定」というように表現する例が多く、一般的だといえる。ただ、この方法では、字句を改正する部分が「第○条を改め……る改正規定」という重畳的な表現となり、あまり好ましくないとする意見もないわけではない。しかし、「……を削る改正規定」「……を加える改正規定」と並んで、本来「……を改める改正規定」があり、それが単独の場合には「第○条の改正規定」というように簡略化して表現されているにすぎないと考えれば、それほどの違和感を感じる必要はないともいえよう。
なお、上記の例の場合に、丁寧に「第○条第1項及び第2項を改め、同条の次に1条を加える改正規定」と表現することは、もちろんかまわない。

私は、「第○条の改正規定及び同条の次に1条を加える改正規定」とするのが一番いいような感じがする。理由は上記にもあるが、本来は『第○条第1項中「……」を「……」に改め、「……」を削り、同条第2項中「……」の下に「……」を加える。』「第○条の次に次の1条を加える。」とするべきものを便宜的に一文でもいいことにしているだけだと思うからである。
(2) 項・号等の削除+条の追加

第○条第4項を削り、同条の次に次の1条を加える。
第△条 ……

この場合には、前掲書では、柱書きの表現にならって「第○条第4項を削り、同条の次に1条を加える改正規定」と表現し、項・号等を削除する部分が長くなるときは、「第○条を改め、同条の次に1条を加える改正規定」と、簡略に表現すればよいとしている。
しかし、私は、(1)と同様に、「第○条第4項を削る改正規定及び同条の次に次の1条を加える改正規定」とするのがいいと思う。
(3) 条の移動+条の追加

第49条を第50条とし、第44条から第48条までを1条ずつ繰り下げ、第43条の次に次の1条を加える。
第44条 ……

この場合には、前掲書では、条の移動が3条以上であるので「第44条から第49条までを1条ずつ繰り下げ、第43条の次に1条を加える改正規定」というように、「条の移動」部分を若干簡略化して表現することができるとしている。
しかし、私は、これも(1)及び5と同様の理由で、「第49条を第50条とし、第44条から第49条までを1条ずつ繰り下げる改正規定及び第43条の次に1条を加える改正規定」とするのがいいと思う。
(4) 字句の改正+条の移動

第○条第2項中「……」を「……」に改め、「……」を削り、同条を第△条とする。

この場合には、前掲書では、「第○条を改め、同条を第△条とする改正規定」あるいは、「第○条第2項を改め、同条を第△条とする改正規定」という表現で特定するとしているが、後者でいいのではないかと思う。
なお、この場合に、「第○条第2項の改正規定及び同条を第△条とする改正規定」としている例もあったような気がする。(1)の前掲書の引用部分にあるように、「第○条を改め……る改正規定」という表現を嫌ったことによるのかもしれないが、この場合は、(1)とは違って1つの改正規定と考えざるを得ないのではないだろうか。
(5) 項・号等の削除+条の移動

第○条第4項を削り、同条を第△条とする。

この場合には、前掲書では、項以下の単位の規定の削除であるから「第○条を改め、同条を第△条とする改正規定」と表現できるが、上記のように簡単な例では、そのまま「第○条第4項を削り、同条を第△条とする改正規定」と表現する場合が多いとしている。後者でいいのではないかと思う。
(6) 条の削除+条の移動

<例1>
 第5条を削り、第4条を第5条とする。
<例2>
 第7条を削り、第6条を第7条とし、第5条を第6条とする。
<例3>
 第9条を削り、第10条を第9条とし、第11条から第14条までを1条ずつ繰り上げる。

この場合には、前掲書では、条の削除と条の移動については、その改正規定をそのままとらえて表現するしかなく、3条以上の移動について「第○条から第△条まで」と簡略できるにすぎないので、それぞれ「第5条を削り、第4条を第5条とする改正規定」「第7条を削り、第6条を第7条とし、第5条を第6条とする改正規定」「第9条を削り、第10条から第14条までを1条ずつ繰り上げる改正規定」というように表現するとしている。
だが、例3は、5で記載したとおり、「第9条を削り、第10条を第9条とし、第11条から第14条までを1条ずつ繰り上げる改正規定」でいいと思う。
(7) 条の削除+条の移動+条の追加

第10条を削り、第9条を第10条とし、第8条を第9条とし、第7条の次に次の1条を加える。
第8条 ……

この場合には、前掲書では、条の削除・移動・追加については、そのまま特定するしかなく、「第10条を削り、第9条を第10条とし、第8条を第9条とし、第7条の次に1条を加える改正規定」と表現することになるとしている。
しかし、これも、「第10条を削り、第9条を第10条とし、第8条を第9条とする改正規定及び第7条の次に1条を加える改正規定」とした方がいいように思う。
 (以下次回へ)