飲酒運転をした者を懲戒免職処分にする処分指針について

処分指針において飲酒運転をした者を懲戒免職処分にする旨定めることについて、過日、kei-zuさんが取り上げていますが(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20070808)、多少関心がある分野であるので、取り上げてみることにします。
まず、飲酒運転を行って懲戒免職処分となった職員が、当該処分の取消しを求めていた訴訟について、平成19年7月12日に最高裁は処分庁の上告の申立てを退ける決定を行い、当該処分の取消しを認めた2審の福岡高裁平成18年11月9日判決が確定しているが、この高裁判決について触れておくことにする。
この高裁判決が当該処分を取り消した理由は、処分庁の処分指針では飲酒運転の場合の処分標準例は停職とされており、また、その処分指針では標準例より重い処分を行うこともあるとしているのであるが、その判断基準に照らしても免職は厳しすぎるのであるということである。つまり、この判決は、あくまでも当該処分指針に照らして処分庁が行った判断が不合理である、更にいうと、処分庁は自分が定めた処分指針どおりの処分を行っていないじゃないかと言っているのではないかと思う。
では、この処分標準例で飲酒運転は免職と規定していた場合でも、同じ判断をしたであろうか。高裁判決では、「地方公共団体の職員に対し懲戒処分をなす際の処分の基準として、いかなる基準を設定するかは、それが社会観念上著しく妥当性を欠き、不合理なものでない限りは、原則として懲戒権者の裁量に任されていると解される」としている。したがって、その場合には、その規定が社会観念上著しく妥当性を欠き、不合理なものでないかどうかを判断することになるのであろう。
懲戒処分を行う際には、当然、周辺事情も含めあらゆる事情を考慮すべきであるが、懲戒処分の対象となる行為の非違性が非常に高いため、想定される諸事情を考慮したとしても免職しか考えられないような場合は、処分標準例を免職のみとすることもあり得ることである。例えば、殺人を犯した場合の処分標準例を免職のみとしても、あまり異論はないのではないだろうか*1
つまり、飲酒運転をした者を一律免職にする旨を処分指針で定めることが適当かどうかは、飲酒運転という行為がそれ程非違性が高い行為と考えられるかどうかということで決まることになる。この点について、私は、個人的には諸々の事情を考慮した場合に免職とするのは厳し過ぎる場合もあるのではないかと感じている。しかし、近年の飲酒運転に起因する人身事故等を考えると、一律免職としても問題ない程非違性が高いと考える人もいるであろう。このようにいろいろ議論があり得るところだろうから、処分指針において飲酒運転を免職と定めても、上記の高裁判決における判断基準によれば、社会観念上著しく妥当性を欠き、不合理なものとは言えず、懲戒権者の裁量の範囲内であるという判断がなされるのではないかと感じる。

*1:殺人を犯すと、懲戒処分を受けなくても失職の可能性は高いから、免職としても当然だという議論もあろうが、そのように主張するのであれば、結局程度によっては一律免職にしてもいいといっていることになるわけだから、飲酒運転を一律免職にしてはいけないという主張には直接はつながらないであろう。