「 」の用例

法令においては限定して用いられるが、一般の公文書では比較的ルーズに用いられるものがある。その代表例として、『・』(中点)と『「 」』(かぎ括弧)を挙げることができるのではなだろうか。これらの用法として、前田正道『ワークブック法制執務(全訂)』*1では、次のように記載されている。

<・の用法>
「・」……は、(1)……少数を漢字書きする際に少数点を示す場合*2、(2)……目次において章、節等に含まれる条の範囲を示す際にその含まれる条が2条だけのときにこれをつなぐ場合、(3)……外国の国名、人名等のつなぎを表す場合、(4)……2つの密接不可分な名詞を結ぶときのつなぎの場合等に用いられる。(前掲書P573)
<「 」の用法>
「 」は、法令においては、(1)……用語を定義する際にその用語を示す場合、(2)……ある表現について略称を定める際にその略称を示す場合、(3)……他の条文を準用する際にその準用する条文の読替えを行う部分を示す場合あるいは他の条文を読み替えて適用する際にその読替えを行う部分を示す場合、(4)……既存の法令の一部を改正する法令において改め、加え、又は削る部分を示す場合等に用いられる。(前掲書P561)

私は、『・』については、公文書では上記の場合以外には極力用いないようにしているが、『「 」』については、用いてしまうことがある。例えば、法令の題名を引用する場合、「地方自治法」程度の題名であればそのまま引用するが、「○○の××に関する法律」というように長いものは、どこからどこまでが法令の題名なのか明確にするため、「 」を付けることもある。
実際、法令においても、『・』については上記の場合以外に用いられる例は見たことがないが、『「 」』についてはその例は幾つかある。
まず、次の薬事法第50条第8号の例を掲げる。

薬事法
(直接の容器等の記載事項)
第50条 医薬品は、その直接の容器又は直接の被包に、次に掲げる事項が記載されていなければならない。ただし、厚生労働省令で別段の定めをしたときは、この限りでない。
(1)〜(7)   (略)
(8) 習慣性があるものとして厚生労働大臣の指定する医薬品にあつては、「注意―習慣性あり」の文字
(9)〜(11)  (略)

薬事法第50条は、容器等の記載事項を規定しているが、同条第8号は、まさしく記載する文字そのものを規定しているため、それを特定するため「 」で括っているのであろう。
また、キーワードを「 」で括って強調しようとすることはよくやりたがるところであるが、それに近い用い方をした例として、次の食育基本法前文がある。

食育基本法
(略)
子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくためには、何よりも「食」が重要である。今、改めて、食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けるとともに、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている。もとより、食育はあらゆる世代の国民に必要なものであるが、子どもたちに対する食育は、心身の成長及び人格の形成に大きな影響を及ぼし、生涯にわたって健全な心と身体を培い豊かな人間性をはぐくんでいく基礎となるものである。
(略)

薬事法第50条第8号のような用い方は、分かりやすさなどを考えても素直に納得できるところである。しかし、食育基本法前文のような用い方を一般化すると、「 」の使用がルーズになってしまうような感じがする。例えば、元号法及び元号を改める政令では、「昭和」とか「平成」といった具体的な元号の部分には「 」を用いたい感じがするし、上記の食育基本法よりも用いていい場合のように思うが、次のとおり用いられてはいない。

元号法
附 則
2 昭和の元号は、本則第一項の規定に基づき定められたものとする。
元号を改める政令
元号を平成に改める。

最後に、題名に「 」を用いた最近の例として、『「故宮澤喜一」内閣・自由民主党合同葬儀における自衛隊の礼式に関する省令(平成19年防衛省令第8号)』があった。これは、『「故宮澤喜一」内閣・自由民主党合同葬儀』が固有の名称になっているからであると思うが、法律で「 」が題名に用いられていた例として、次の3例程あったようである*3*4

  • 「トラホーム」予防法(大正8年法律第27号)(行政事務の簡素合理化及び整理に関する法律(昭和58年法律第83号)により廃止)
  • 「ロンドン」海軍条約実施に伴ふ海軍職工整理に関する公債発行に関する法律(昭和6年法律第45号)(大蔵省関係法令の整理に関する法律(昭和29年法律第121号)により廃止)
  • 製造たばこ「新生」の価格の改定に関する法律(昭和23年法律第41号)(製造たばこの定価の決定又は改定に関する法律の一部を改正する法律(昭和24年法律第35号)により廃止)

*1:法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』では、『・』についてはP656に、『「 」』についてはP640〜に同様の記載がある。

*2:横書きの場合には、当てはまらない。

*3:「RONの六法全書onLINE」(http://www.ron.gr.jp/law/)より検索

*4:その他、いわゆるポツダム命令の件名として「」が用いられていたものが4例あったが、いずれも廃止されている。