例規の形式(2)〜規則の内容(その1)

いわゆる地方分権一括法による新制度のもとにおいては、条例制定権の範囲が拡大している反面、規則の役割については、鈴木庸夫『自治体法務改革の理論』(P3)では「機関委任事務体制の崩壊によって、規則の役割は急激に減少しつつある」とされている。このような事情を反映してか、条例については詳細な議論がなされているが、規則についてはあまり議論がなされていないように見受けられる。
これから規則で規定すべき事項を考えていくこととするが、まず条例で規定すべき事項を押さえておく必要があるだろう。
条例で規定すべき事項については、地方自治法第14条第2項が「普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない」としている。具体的にどういった事項が「義務を課し、又は権利を制限する事項」に当たるかは、法令で条例等に委任する場合の考え方であるが、地方分権推進委員会意見「法令において地方公共団体の条例、規則等へ委任する場合の基本的考え方」(H12.8.8)が参考になると思われるので、次に掲げる。

(1) 改正地方自治法第14条第2項においては、地方公共団体が住民に義務を課し、又は権利を制限(以下、「権利義務規制」という。)するには、条例によらなければならないこととされている。
(2) この趣旨を踏まえ、法令により、権利義務規制を行うための基本的な規範の定立を地方公共団体の法規に委任する場合にも、規則等ではなく条例に委任することを原則とする。
(3) ただし、以下のような場合には、「法令に特別の定め」を設けて例外的に規則等に委任することとしても差し支えないこととする。
・ 機動性という観点から、規則等で行うことに相当の合理性がある場合(社会経済情勢等の変更・変遷に即応し、機動的に制定又は改廃されなければならない性質をもつもの。なお、その判断は、これまでも頻繁に改廃されているなど、客観的な根拠に基づき行うものとする。)
・ 規則の実効性を担保するために必要な行政罰(過料)を規則で設ける場合(地方自治法第15条第2項)
(4) なお、以下のような事項については、そもそも改正地方自治法第14条第2項の射程外であることから、上記立法論の対象とはしない。
・ 権利義務規制に関連しない事項
・ 権利義務規制に関連する事項であるが、地方公共団体の執行機関の個別執行活動として整理されるものであり、基本的な規範の定立に該当しない事項
A 法令に規定されている権利義務規制の個別具体的な事例へのあてはめを規則等に委ねているもの
・ 権利義務規制に関連する事項であり、かつ、基本的な規範の定立に該当する事項であるが、その内容は法令に規定されている権利義務規制に関する付随的事項に限定されたものであり、かつ、独自の権利義務規制を新たに創設するものではない事項
A 法令に規定されている権利義務規制に関する一定の算式、手法等に基づく数値の算出等を規則に委ねているもの
B 法令に規定されている権利義務規制に関する様式、添付書類、受付窓口等の手続的事項を規則に委ねているもの
 (参考) 改正地方自治法第14条第2項の射程範囲については、別表(別表略)を参照のこと
(5) また、公物管理権等の物的支配権に基づく規制については、公共用物と公用物とを区別し、公共用物に係る権利義務規制については、原則として条例によるべき必要があるが、公用物については侵害留保原則の対象外として、改正地方自治法第14条第2項の射程外である。
(6)  (略)

上記の考え方はそのまま、条例で規定すべきか、規則に委任していいかという基準にもなると思うが、とりあえず規則で規定すべき事項については、上記の条例による必要がない事項のうち一定のものということになろう。
では、どのような事項を規則で規定すべきかというと、私は、その法規性を踏まえて、一般的には住民に関係する事項のうち、住民を拘束するもの又は住民に権利性を認めるものとするのがいいのではないかと感じている。
なお、規則については、「私人の権利義務に関する(一般的)定めという意味における『法規』たる内容をもつものとそうではない『行政規則』の性質をもつものとがある」(平岡・解釈(P52))とされることがあるが、平岡・解釈(P53)はこれを批判して、「長の規則は、……その内容または規律対象を問わず、全体として、行政を規律する成文の『法』規範の一種として、自治体の組織および活動を私人や裁判所との関係において対外的に拘束する効力を有する規範であり、裁判規範になりうる。このような意味においてこそ、長の規則は行政による立法であり、『行政立法』の一種である」としている。私が提示した上記の基準は、言葉を変えていうと、上記の「自治体の組織および活動を私人や裁判所との関係において対外的に拘束する効力を有する規範」であり、「裁判規範」であることになると言えるので、この考え方に近いのではないかと思う。
では、具体的にはどのような事項を規則で規定すべきと考えるかについて、次回以降で取り上げていきたい。