例規の形式(5)〜規則の内容(その4)

(「1 長の事務に関する事項」の続き)
(3) 補助金の交付
補助金の交付については、要綱という形式が用いられている代表的な分野であるということができようが、私は、規則を活用してもいい分野でもあると思っている。
補助金の交付に関する規程をどのような形式で定めるべきかについては、まず、補助金の交付の性質がどのようなものかについて考える必要があろう。この点について、国が行う補助金の交付が行政処分とされているため、自治体におけるそれも同様に考えなければいけないと考える向きもあろうが、国がそのようにしているのは、あくまでも立法政策であるとするのが一般的な考え方のようである。例えば、司法研修所『改訂行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究』(P19〜)は次のように記載している。

補助金の交付などは本来贈与であるから、その申込みが拒絶されても民法上はその承諾を強制する手段はあり得ないが、行政法規には、ある目的から、この交付申請のような実体法上は権利性の認められないものについて実体的ないし手続的権利を作出し、行政庁がこれに応じ又は拒否する行為を行政処分として構成する立法政策を採用しているものがある。
実体法上は権利性の認められないものについて法がそのような立法政策を採った制度の例として、国の補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律に基づく負担金の交付決定がある(東京高判昭55.7.28行裁集31巻7号1558頁、その原審東京地判昭51.12.13行裁集27巻11・12号1790頁)。……県や市などには、条例に基づかず、要綱を制定して、これによって補助金等を支給する制度を設けている例があり、このような要綱に基づく申請の拒否を行政処分と認めた裁判例もある。しかし、条例等の法令に根拠を持たない補助金の支給は、本来贈与であり、その性質上公権力の行使という色彩の乏しいものであって、これを公権力の行使とするためには、そのような補助金の支給を申請することのできる地位に権利性を作出するような法令の規定が必要であろう。

では、自治体における補助金の交付は原則として贈与として扱ってよいかであるが、自治体においても一般的な補助金交付規則が定められていることとの関係で、平岡・解釈(P53)では次のように記載している。

長の規則は、……その内容または規律対象を問わず、全体として、行政を規律する成文の「法」規範の一種として、自治体の組織および活動を私人や裁判所との関係において対外的に拘束する効力を有する規範であり、裁判規範になりうる。このような意味においてこそ、長の規則は行政による立法であり、「行政立法」の一種である。
ある下級審判決*1は、長が制定した補助金交付規則について、「行政庁が自らの内部規則として定めた規則」であって「法規範」ではないとし、このことを補助金交付決定の「行政処分」性の否定にまでつなげている。筆者の右のような理解からすると、この判決は、「法規」と(行政「内部」的な)「行政規則」の区別についての伝統的な説明に影響を受けている可能性が高く、長の補助金交付規則を「要綱」類または「訓令」類とほとんど同一視している。また、当該規則制定に対する授権の存否(地方自治法15条1項あるいは同法施行令173条の2)を顧慮していない、という問題点も含んでいる。

しかし、碓井光明『要説住民訴訟自治体財務』(P189〜)は「名古屋地判昭和59.12.26(判例時報1178号64頁)は、……市街地再開発組合に対する市の補助金について、『市費補助金等に関する規則』が制定されていたが、交付決定に対する不服申出の手続が規定されておらず、補助金交付の細則を定めたものにすぎないので、いずれも行政処分的性質を有するものではない」とした上で、「明らかに自治体内部を規律する趣旨が示されている場合は、行政処分性を認めることはできない」としている。
思うに、自治体における一般的な補助金交付規則は、その手続に関しては対外的にも拘束力があると言ってもよいと思うが、そのことから直ちに個別の補助金の交付が行政処分になるとは言えないのではないだろうか。例えば、補助金交付の根拠規定を法律にならって「……、予算の範囲内において、……補助することができる」と条例に規定することもあろうが、条例に根拠があるからといって、このような規定では、それに基づく補助金の交付が行政処分になるとは考えにくいだろう。やはり、補助金交付が行政処分になるかどうかは、上記のとおり不服申出の手続の規定等がメルクマールになると考えるべきではないだろうか。
したがって、やはり自治体における補助金の交付を行政処分とするかどうかは、政策的な問題ということになる。そうすると、通常は、予算上の制約等から贈与としたいと考えるであろうが、福祉給付金的なものについては政策的に相手方に権利性を認めることとし、それを行政処分とする制度設計とすることもあり得るであろう。そして、このような場合には、法規で定める必要があるが、補助金の交付自体は地方自治法第14条第2項に規定する条例事項ではないので、規則という形式で定めることが考えられる。
なお、一部には規則に規定しても行政処分とはならないとする見解もある(例えば兼子・入門(P84)は「規則に基づく補助金等の不交付決定が、条例上のそれと同じく行政『不服申立て』のできる処分かどうかが解釈問題に残る」としている)。これは、「例規の形式(2)〜規則の内容(その1)」で触れたように、規則を法規たる内容を持つものと、そうでない行政規則の性質を持つものとに二分し、具体的な補助金に関する交付規則を後者と考えることからくるのではないだろうか。しかし、そのように二分できるものではないように思うし、具体的な補助金交付に関する規則において、それが行政処分的性質を有することを明らかにすることは問題ないであろう。

*1:東京地判昭63.9.16行集39巻9号859頁