例規の形式(9)〜要綱(その2)

2 要綱の内容と公表
要綱の性質を行政における内部的な事務処理規範と考えると、要綱は本来公表しなくても良いのだということになる。しかし、実際には告示されている要綱もあり、住民に公表した方が適当と思われるものもある。要綱はすべて告示すべきという意見すらあるところである(例えば兼子・入門(P79)は、要綱の告示化と例規集収録とが政策法務課題であるとしている)。
では、要綱を公表すべきかどうか、また公表すべきとしてどのような方法で行うべきかということは、一律に決することができず、その内容に応じて異なってくるものであろう。そこで、「例規の形式(8)〜要綱(その1)」で引用した出口・理論(P60)の分類にしたがって考えてみることにしたい。
(1) 行政指導を行うための「指導要綱」
兼子・入門(P85)は「『要綱』は住民の権利義務等に事実上かかわりのある住民関係事項を制度的しくみとして定めている」としているが、これは、指導要綱を最も念頭においているのではないだろうか。そして、このような現状を前提にすれば、指導要綱については告示化すべきという考え方も出てきて不思議ではない。
しかし、行政指導は、別に要綱などを定めなくても当然にできるわけである。ただ、類似事案がある程度生じる可能性がある場合には、あらかじめ文書で定めておいた方が職員にとって便宜であるし、公平さを保つこともできるであろう。所詮指導要綱であっても、あくまでも内部の事務処理上の便宜のために作成されるものに過ぎないのである。
そして、言うまでもないことだか、行政指導は相手方には拘束力はないのであって(行政手続法第32条参照)、適切な行政指導を行っている限りでは、その指導要綱を公表すべきとか告示すべきということは問題にならないのではないだろうか。つまり、それを公表すべきとか告示すべきと言われるのは、その体裁が不適切であったり、一定の行政権限を背景として事実上強制にわたるような形で運用するなど、指導要綱の管理と運用の仕方が問題となっていることから、住民の監視のもとに置こうという発想なのではないだろうか。結局、指導要綱は公表しなければいけないとか告示すべきということになると、上記のような不適切な要綱であっても公表等をすればいいのだということになりかねないので、適切な形態の指導要綱とすることが大切であって、直ちに公表等をすべきだということにはならないのではないだろうか。
しかし、指導要綱を、一定の政策的判断のもとに告示等を行うことまで否定するものではない。例えば、出口・理論(P66)では、ある事項を制度化しようとする場合に、試行的運用のために要綱を用いることは合理的であるとしているが、このような要綱は、住民等のコンセンサスを得るために告示という形をとることは当然考えられることであろう。
(2) 条例の施行のための具体的運用を定める「事務処理要綱」
事務処理要綱として定める事項としては、許可基準のようなものから、様式の類等の手続的なものや純粋に職員のマニュアル的なものなどが考えられる。
このうち、許可基準的なものは、行政手続法等で公にすることが求められているが、本来は条例又は規則で定めるべき事項であろう。
様式等の類は、規則で定めることが多いであろうが(「例規の形式(6)〜規則の内容(その5)」参照)、要綱で定めたものについては、窓口等で提示するとか、関係者にあらかじめ通知するとかすれば足りると考えているのであろう。関係者が多いようなときで、より住民の便宜を考えるのであれば、ホームページへの掲載等を考えてもいいのかもしれない。いずれにしろ、一定の場合に公表すべきということにはなるが、告示すべきという問題は生じないだろう。
そして、純粋に職員のマニュアル的なものは、そもそも公表することは問題にならないだろう。