例規の形式(8)〜要綱(その1)

1 要綱を例規の一形式として考えるべきか
要綱の意義について、藤島・要綱(P67)は「要綱とは何かを定義する実定法上の規定は、現行法令上見当たらない。『広辞苑』(岩波書店)によると『地方公共団体が行政指導の際の準則として定める内部的規範。住民に対しては法的拘束力を持たない。開発規制に関するものが多い。』、『法律用語辞典』(内閣法制局法令用語研究会編・有斐閣)では、行政運営に関して『基本的な、又は重要な事柄、又はそれをまとめたもの』の総称であるとされているが、ここでは、『職員が事務処理を進めていく上での行政運営の指針や行政活動の取扱いの基準を定める内部的規範』と定義しておくこととする」としている。
この要綱を例規の形式とすべきかどうかについて、肯定的に捉えたり、そのような現状があることを指摘する見解として次のようなものがある。

○ (要綱が)あたかも法令に則った条例や規則といった例規‥‥のように機能している。(藤島・要綱(P67))
○ 「自治立法」とは、自治体が行政活動を進める上で、市民との関係を規律する可能性があるものを広く包摂するもののことをさす。……自治体自らが任意に定める要綱も含めて考える。……これらは、講学上は法規範とするには疑問があるかもしれないが、現に自治体の実務上位置づけられた、市民にも影響を及ぼす重要な規範の束=制度として位置づけられるものもある。(出石・理論(P55))

これに対し、否定的な見解として次のようなものがある。

○ 自治体の各部署で定める要綱、要領等は、(異論もあろうが)それ自体では法規とならないと解される。(木佐・理論(P322))
○ (訓令や要綱は)純粋に内部的な規範(法的拘束力が外部に及ばない規範)(長谷川・立法(P251))
○ 条例規則を「例規」と理解していくのが望ましいであろう(兼子・入門(P78))
○ 告示の形式には、条例・規則に準じた条文構成をとるものと、そうでないものとがある。(前者が要綱ということになると思われる)(山本・知識(P281))

上記の文献等を確認しただけなのだが、肯定的な見解を述べている者は自治体職員か職員であった者であるということが興味深い。自治体の現場において要綱の占める役割の大きさを感じる。
要綱を例規の一形式とする考え方は、このように自治体において要綱の占める役割が大きくなった結果によるものなのであろう。「要綱行政」と言われるのも、このような事実に着目してのものなのであろう。
もちろん、要綱を例規の一形式とすることは一つの考え方であると思う。しかし、そのように考えるに当たっては、整理しておくことが幾つかあると思う。
まず、いわゆる「要綱行政」と言われる要綱を例規の一つと考えるべきというのであれば、それは適当でないのであろう。つまり、「要綱行政」と言われるのは、行政指導による行政を総称しているだけあり、それが要綱で行われていることが多いからそのように言われるだけであって、「要綱」そのものを特別扱いしようとするものではないからである。例えば、北村喜宣『自治体環境行政法(第4版)』(P45)では、次のように記載されている。

要綱行政という場合には、権限を根拠づける具体的法規範はないけれども、それと外見的に似た指導基準にもとづいて種々の行政指導が行なわれているような行政現象が、念頭に置かれている。要綱という形式は存在しないが行政慣行によって一定の事象に対して行政指導をすることになっている場合も、要綱行政の範疇に含めてよいだろう。

そして、要綱を例規の一形式とするのであれば、幾つか整理しなければいけない点がある。
1点目として、要綱で定めるべき事項を明確にする必要がある。実際に要綱は行政指導を行う場面だけで用いられているわけではなく、例えば出口・理論(P60)は、行政指導を行うための「指導要綱」、法令等、条例の施行のための具体的運用を定める「事務処理要綱」、予算執行の具現化としての「補助(給付)要綱」、首長の私的諮問機関や組織横断的庁内組織の設置のための「組織要綱」を要綱の例示として挙げている。したがって、要綱を例規の一形式とするのであれば、これら全ての要綱を敷衍して要綱で定めるべき事項を整理していくことが必要になってくる。
2点目として、要綱を上記のとおり「職員が事務処理を進めていく上での行政運営の指針や行政活動の取扱いの基準を定める内部的規範」と考えると、そのすべてを「要綱」という形で定めているわけではなく、単なる伺い定めや、通常の通知文の形式を用いている場合もあるだろうから、これらの伺い定めや通知文と要綱の違いを明らかにする必要がある。
これらは、困難な作業になるのではないだろうか。思うに、いわゆる指導要綱以外にも要綱が用いられるようになったのは、要綱ではこういったことを定めるべきという理論よりも、法規として定める必要がない事項を定める体裁として要綱を用いているに過ぎないのではないだろうか。そうすると、要綱の意義は、単に行政の内部的規範と考えるのではなく、「行政における内部的な事務処理規範であって規程形式又はそれに準じた形式を用いているもの」と考えるべきではないかと感じている。
そうすると、要綱という文書は、それ自体例規の一形式と考えるのではなく、告示形式をとれば告示ということになるし、訓令形式をとれば訓令になると考えればそれで足りるし、分かりやすいのではないだろうか。