制裁として用いる公表に関するメモ(1)
以前「届出制とその規制手法について(追記)〜公表」で取り上げた際には、公表を制裁として用いることについて、あまり肯定的な記載はしていない。しかし、現実として公表を制裁として用いることはよくなされているので、それはどのような場合なのか、法律の例を確認してみることにした。
確認の方法としては、公表制度を設ける場合には、通常はその前段として勧告等の行政指導を行うこととすることが多いので、総務省「法令データ提供システム」により「勧告and公表」で検索してヒットした法律について、国会の会議録を確認することとした。その結果を、とりあえず次のように分類する。
1 まずは自主的な取組みを期待して、それが適切になされていない場合に勧告・公表を行うこととしているもの
<例> エネルギーの使用の合理化に関する法律第16条第4項、持続的養殖生産確保法第7条第2項、たばこ事業法第40条第4項、鉄道事業法第22条の3第2項
2 行政処分を行うための基準設定が困難であること等により、行政処分・罰則という制度設計が困難なため、勧告・公表を行うこととしているもの
<例> 中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業の事業活動の調整に関する法律第7条第3項(同法第9条第2項において準用する場合を含む。)、農業振興地域の整備に関する法律第15条の4第2項、国土利用計画法第26条、大規模小売店舗立地法第9条第7項
3 特定の行政目的を実現するためには、罰則を用いるよりも粘り強く行政指導等を行うことが適当との判断で、勧告・公表を行うこととしているもの
<例> 障害者の雇用の促進等に関する法律第47条、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第30条
4 行政目的を達成する手段の一つとして勧告・公表を行うこととしているもの
<例> 畜産物の価格安定に関する法律第5条第2項
5 対象が私的な契約であるため、勧告・公表を行うこととしているもの
<例> 酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律第23条、分収林特別措置法第6条第2項、中小小売商業振興法第12条第2項
6 対象者があらかじめ行うことが期待できない事項に関して勧告・公表を行うこととしているもの
<例> 特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律第9条第2項
7 情報提供義務に関する制裁として公表を行うこととしているもの
<例2> 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律第15条第2項
8 緊急時に国民への情報提供と併せて公表を行うこととしているもの
<例> アルコール事業法第41条第2項
9 法的根拠なく行っていた公表を法律に取り込むこととしたもの
<例> 電波法第102条の11第2項
次回以降これらの法律の規定について、具体的に関係する国会の会議録を引用し、最後にまとめのようなことをしてみたい。
(参考)
「法令データ提供システム」のデータは、平成19年9月1日現在のものであり、ヒットした法律を次に掲げておく。
- アルコール事業法(平成12年法律36号)
- 液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(昭和42年法律第149号)
- エネルギーの使用の合理化に関する法律(昭和54年法律第49号)(エネルギー需給構造高度化のための関係法律の整備に関する法律(平成5年法律第17号)により現第16条追加)
- 沖縄振興特別措置法(平成14年法律第14号)
- 外国人観光旅客の来訪地域の整備等の促進による国際観光の振興に関する法律(平成9年法律第91号)(通訳案内業法及び外国人観光旅客の来訪地域の多様化の促進による国際観光の振興に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第54号)により現第22条追加)
- 介護保険法(平成9年法律第123号)
- 揮発油等の品質の確保等に関する法律(昭和51年法律第88号)
- 計量法(平成4年法律第51号)
- 高圧ガス保安法(昭和26年法律第204号)(高圧ガス取締法及び液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律の一部を改正する法律(平成8年法律第14号)により現第20条の5追加)
- 公害紛争処理法(昭和45年法律第108号)(公害紛争処理法の一部を改正する法律(昭和49年法律第84号)により現第34条の2追加)
- 国土利用計画法(昭和49年法律第92号)
- 小売商業調整特別措置法(昭和34年法律第155号)(小売商業調整特別措置法の一部を改正する法律(昭和52年法律第75号)により現第16条、第16条の3追加)
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保のための労働省関係法律の整備に関する法律(平成9年法律第92号)により現第26条追加)
- 塩事業法(平成8年法律第39号)
- 資源の有効な利用の促進に関する法律(平成3年法律第48号)
- 持続的養殖生産確保法(平成11年法律第51号)
- 自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(平成4年法律第70号)
- 児童福祉法(昭和22年法律第164号)(障害者自立支援法(平成17年法律第123号)により現第24条の16追加、児童福祉法の一部を改正する法律(平成13年法律第135号)により現第59条追加)
- 酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律第86条の6(昭和28年法律第7号)(所得税法等の一部を改正する法律(昭和63年法律第109号)により現第86条の6追加)
- 種苗法第52条(第51条)(平成10年法律第83号)
- 障害者自立支援法(平成17年法律第123号)
- 障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)(身体障害者雇用促進法及び中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法の一部を改正する法律(昭和51年法律第36号)により現第47条追加)
- 食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(平成12年法律第116号)
- 生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律(昭和32年法律第164号)(環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律の一部を改正する法律(昭和39年法律第122号)により現第14条の12追加)
- 石油の備蓄の確保等に関する法律(昭和50年法律第第96号)(石油の安定的な供給の確保のための石油備蓄法等の一部を改正する等の法律(平成13年法律第55号)により現第32条追加)
- 船員職業安定法(昭和23年法律第130号)(海上運送事業の活性化のための船員法等の一部を改正する法律(平成16年法律第71号)により現第99条追加)
- 大規模小売店舗立地法(平成10年法律第91号)
- 大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)
- たばこ事業法(昭和59年法律第68号)
- 畜産物の価格安定に関する法律(昭和36年法律第183号)
- 中小企業等協同組合法第9条の2の2(昭和24年法律第181号)(中小企業等協同組合法の一部を改正する法律(昭和32年法律第186号)により現第9条の2の2追加)
- 中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律(昭和52年法律第74号)
- 中小小売商業振興法(昭和48年法律第101号)
- 鉄道事業法(昭和61年法律第92号)(鉄道事業法の一部を改正する法律(平成11年法律第49号)により現第22条の3追加)
- 電波法(昭和25年法律第131号)(電波法の一部を改正する法律(昭和62年法律第55号)により現第102条の11追加)
- 東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成14年法律第92号)
- 道路交通法(昭和35年法律第105号)(道路交通法の一部を改正する法律(平成13年法律第51号)により現第109条の3追加)
- 道路運送車両法(昭和26年法律第185号)(道路運送車両法の一部を改正する法律(平成6年法律第86号)により現第63条の2追加)
- 特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律(平成15年法律第65号)
- 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年法律第86号)
- 都市鉄道等利便増進法(平成17年法律第41号)
- 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法(平成16年法律第27号)
- 農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号)(農業振興地域の整備に関する法律の一部を改正する法律(昭和50年法律第39号)により現第15条の4追加)
- 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)(廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び廃棄物処理施設整備緊急措置法の一部を改正する法律(平成3年法律第95号)により現第12条の6追加)
- 分収林特別措置法(昭和33年法律第57号)(森林法及び分収造林特別措置法の一部を改正する法律(昭和58年法律第29号)により現第6条追加)
- 輸出入取引法(昭和27年法律第299号)(輸出入取引法の一部を改正する法律(昭和30年法律第140号)により現第4条追加)
- 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(平成7年法律第112号)
- 酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律(昭和29年法律第182号)
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号)