制裁として用いる公表に関するメモ(2)

1 まずは自主的な取組みを期待して、それが適切になされていない場合に勧告・公表を行うこととしているもの
 ○ エネルギーの使用の合理化に関する法律に基づく公表制度
<根拠規定>

(合理化計画に係る指示及び命令)
第16条 主務大臣は、第一種エネルギー管理指定工場におけるエネルギーの使用の合理化の状況が第5条第1項に規定する判断の基準となるべき事項に照らして著しく不十分であると認めるときは、当該第一種エネルギー管理指定工場に係る第一種特定事業者に対し、その判断の根拠を示して、エネルギーの使用の合理化に関する計画(以下「合理化計画」という。)を作成し、これを提出すべき旨の指示をすることができる。
2 主務大臣は、合理化計画が当該第一種エネルギー管理指定工場に係るエネルギーの使用の合理化の適確な実施を図る上で適切でないと認めるときは、第一種特定事業者に対し、合理化計画を変更すべき旨の指示をすることができる。
3 主務大臣は、第一種特定事業者が合理化計画を実施していないと認めるときは、当該第一種特定事業者に対し、合理化計画を適切に実施すべき旨の指示をすることができる。
4 主務大臣は、前3項に規定する指示を受けた第一種特定事業者がその指示に従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
5 主務大臣は、第1項から第3項までに規定する指示を受けた第一種特定事業者が、正当な理由がなくてその指示に係る措置をとらなかつたときは、審議会等(国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第8条に規定する機関をいう。以下同じ。)で政令で定めるものの意見を聴いて、当該第一種特定事業者に対し、その指示に係る措置をとるべきことを命ずることができる。

 (注) 第16条第5項の命令は、公表を前提にしてはいない。
<国会答弁>

近年におきましては、効果の大きい投資、単体機械あるいは固有のプロセス、またある意味での、業種に典型的な投資というのが一巡してきているわけでございまして、そういう意味で、工場の分野でのエネルギー使用の合理化の勢いが鈍くなってきている、そういう意味で、さらなる強力な対策が必要となってきているわけでございますけれども、他方で、現行のスキームのもとで国がすぐに判断基準に照らして具体的な措置を勧告するというのは、技術的にもあるいは企業活動への介入という意味からも難しくなってきているのではないか、こういうふうに考えているわけでございます。
そういうことで今回の改正法案におきましては、やはり省エネというのは基本は各事業者が進めるものでございますから、いきなり勧告というよりはむしろ事業者に、自主的な判断で自主的な取り組みに期待したい、そういう意味でまず合理化計画をつくってもらおう、それで合理化計画をつくっていただけない場合、あるいは合理化計画が不十分であるような場合、そういう場合にさらに強い措置として公表、命令というような形に実はスキームを変えたわけでございまして、勧告がないのに命令ということではなくて、むしろいきなり勧告するというよりは事業者に自主的にまず計画をつくってもらう、それを最終的に担保する措置として命令というようなものを考えているわけでございます。(平成5年2月23日第126回国会衆議院商工委員会・黒田資源エネルギー庁長官答弁)

 (注) 事業者に守らせるべき基準をあらかじめ決めることが技術的に難しいという事情もあり。
 ○ 持続的養殖生産確保法に基づく公表制度
<根拠規定>

(勧告等)
第7条 都道府県知事(漁業法第136条の規定により農林水産大臣が自ら都道府県知事の権限を行う場合にあっては、農林水産大臣。以下同じ。)は、漁業協同組合等が基本方針に即した養殖漁場の利用を行わないため、養殖漁場の状態が著しく悪化していると認めるときは、当該漁業協同組合等に対し、漁場改善計画の作成その他の養殖漁場の改善のために必要な措置をとるべき旨の勧告をするものとする。
2 都道府県知事は、前項に規定する勧告を受けた漁業協同組合等がその勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができる。
3 都道府県知事は、第1項に規定する勧告を受けた漁業協同組合等が、前項の規定によりその勧告に従わなかった旨を公表された後において、なお、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、漁業調整その他公益のために必要があると認めるときは、漁業法第34条第1項又は第4項の規定による養殖漁場の改善のための措置その他の適切な措置を講ずるものとする。
4 (略)

 (注) 第7条第3項に漁業協同組合等が従わない場合に、知事自ら適切な措置をとる旨の規定あり
<国会答弁>

漁場の悪化が大変進んでいる、著しい悪化が進み放置し得ないというふうな場合に、最後の手だてとしてどういうことが行政庁としてできるかという観点から、ただいま先生御指摘のありました条項(勧告・公表の規定)*1が置かれているわけであります。
私ども、基本的に、持続的な養殖生産を目指すというこの法律の本来の趣旨というのはやはり漁業者が自主的にそういう取り組みを行うというところにあるわけで、自分たちの漁業、養殖というものが永続するためにはみずからそういう取り組みをしなければ永続しないんだと、やっぱりそこのところがこういう制度を円滑に進めていく一番基本だろうというふうに思っているわけであります。ただいま先生御指摘がございましたような最後の条項というものは置いておりますが、私ども、その法律の考え方なり運用に当たりましては、漁業者が自発的にその意思を持って漁場改善に取り組む、それを促進していく、こういうふうな形で取り組むべき課題ではないかというふうに思っているわけであります。(平成11年5月13日第145回国会参議院農林水産委員会中須水産庁長官答弁)

<参考>
上記答弁に続けて、質問者である三浦一水議員は、次のように、自発的な取組みと言いながら勧告・公表まで行うということは、義務付けていることと同じだということを述べている。

私が言いたいのは、そういう状況の中で、勧告をして、さらにそれに従わない場合には公開もするということになれば、これはもう義務的なことだという解釈ができるんじゃないかということであります。そこまでの内容を含むのであれば、先ほど私が申しましたように、個々の経営体が対応できないようなことに対しては、より明確な施策が裏づけられてしかるべきではないかということであります。
この点、今お話を聞きましても、本当に義務なのか。精神はわかります、自発的に取り組むべきものという精神はよくわかります。私もそうあるべきと思いますが、そのような中身になっているということを十分御認識いただいて今後はお取り組みをいただきたいと思います。

 ○ たばこ事業法に基づく公表制度
<根拠規定>

(広告に関する勧告等)
第40条 製造たばこに係る広告を行う者は、未成年者の喫煙防止及び製造たばこの消費と健康との関係に配慮するとともに、その広告が過度にわたることがないように努めなければならない。
2 財務大臣は、前項の規定の趣旨に照らして必要があると認める場合には、あらかじめ、財政制度等審議会の意見を聴いて、製造たばこに係る広告を行う者に対し、当該広告を行う際の指針を示すことができる。
3 財務大臣は、前項の規定により示された指針に従わずに製造たばこに係る広告を行つた者に対し、必要な勧告をすることができる。
4 財務大臣は、前項の規定による勧告をした場合において、製造たばこの広告を行つた者が、正当な理由がなく、その勧告に従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

<国会答弁>

製造たばこの広告の問題につきましては、世界各国、テレビ、ラジオを禁止しているところは多数ございますけれども、法律によって禁止しているところ、あるいは自主規制によって禁止されているところがあるわけでございます。我が国におきましては、従来公社を中心といたしまして、自主規制によって広告の内容あるいは量について規制が行われ、それなりにその効果が上がっておると考えているわけでございます。
ただ、しかしながら、まさに先生の御指摘にございましたように、今後製造たばこの輸入自由化に伴いまして国内で競争が激化してきた場合には、必ずしもその自主規制が守られなくなるという可能性もないわけではございません。そういう意味合いにおきまして、40条において広告規制についての規定を置いたわけでございますけれども、やはり広告というものは、営業の自由であるとか表現の自由であるとか、そういう問題にもかかわるものでございますから、基本的には業界の自主規制によって行われることが私どもとしては望ましいと考えております。
そこで、40条に規定する広告に関する措置は、どのような場合に過度にわたることになるかということでございますけれども、製造たばこの広告が過度にわたるか否かにつきましては、先ほど先生のお話にもございましたように、外国メーカーの場合には日本に数十倍する広告費を使っているというような話もございますけれども、基本的には社会通念上の判断によらざるを得ないものだと考えております。しかしながら、先ほど申し上げましたように、広告の制限と申しますのは国民の権利義務に関することでもございますし、製造たばこの広告に関する指針を大蔵大臣が示すべきときに至っているかどうか、あるいは指針の内容をどうするかということについては、たばこ事業等審議会の場におきまして十分な御検討をいただきまして判断すべき事項だと考えておるわけでございます。
それから第二点、過大な広告をした者に対して勧告や公表という手段のみでは実効性が上がるのかということでございますが、たばこ事業法におきましては、大蔵大臣の示した指針に従わずに広告を行った者に対しまして勧告を行い、さらにそれにも従わない場合にはその者の氏名等の公表を行えるように措置しているところでございます。この公表制度は、違反の事実及び違反企業名を国民一般に知らせまして世論に訴えることにより、業者の名誉、信用に打撃を与え、過去の違反につき事実上の制裁を加えるとともに、将来の違反の発生を防止することを目的としたものでございます。特に今日のように情報化社会と申しますか、情報が非常に発達している社会におきましては、こういったことの公表と申しますものは、名誉とか信用を大切にする企業にとりまして大きなダメージを受けることになると思いますので、その実効性は大きいというふうに考えております。(昭和59年6月22日第101回国会衆議院大蔵委員会、小野大蔵大臣官房日本専売公社監理官答弁)

 ○ 鉄道事業法に基づく公表制度
<根拠規定>

第22条の3 国土交通大臣は、鉄道事業者が鉄道線路又は停車場の建設又は改良を行おうとする場合において当該鉄道線路又は停車場の建設又は改良に関連する乗継円滑化措置を講ずることが経済的かつ合理的であるときその他利用者の利便の増進の程度、建設又は改良に要する費用等を考慮して特に必要があると認める場合には、鉄道事業者に対し、乗継円滑化措置を講ずべきことを勧告することができる。
2 国土交通大臣は、前項の規定による勧告をした場合において、当該勧告を受けた者が正当な理由なくその勧告に従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

<国会答弁>

現行法上、鉄道事業者が乗り継ぎ円滑化措置を講じないことによりまして、利用者の利便、その他公共の利益を阻害している事実が認められましたときには、当該事業者に対して運輸大臣は改善命令を講ずることができることになっております。
今回の改正におきましては、乗り継ぎ円滑化措置に関しまして新たに鉄道事業者間の協議を促進するための法制度を導入したわけです。これは、需給調整規制廃止後の国の関与のあり方は、事業改善命令という強権的な行政手段のみにとどまらず、できる限り事業者の自主性、主体性を尊重した法制度とすることが必要であると判断したからでございます。本制度は、今回の改正の基本スタンスでございます事業者の自主性、主体性の尊重の趣旨に沿ったものであると考えております。
また、鉄道事業者に対しましては、乗り継ぎ円滑化措置を行う努力義務にとどめた上で、協議義務、協議命令等の規定を設けることによりまして、あくまで事業者間の自主的解決を主眼としていること、運輸大臣の裁定については、乗り継ぎ円滑化措置に関する事業者間の基本的合意を前提として、費用負担等、細目的な事項について協議が調わない場合にのみ行うものであること、さらに、運輸大臣の勧告についても、費用対効果の観点から適当であると認めた場合にのみ行うこと等としているところでございます。
以上申し上げましたように、乗り継ぎ円滑化措置についての行政の関与は必要最小限のものとしておりまして、鉄道事業者の自主性、主体性を尊重した制度となっていると考えております。(平成11年4月16日第145回国会衆議院運輸委員会、小幡運輸省鉄道局長答弁)

 (注) 改正前は、改善命令を講ずることができることとされていたものを、需給調整規制を廃止し、免許制から許可制に改めたことに伴い、上記のような措置に改正された。

*1:管理者注記