制裁として用いる公表に関するメモ(3)

2 行政処分を行うための基準設定が困難であること等により、行政処分・罰則という制度設計が困難なため、勧告・公表を行うこととしているもの
 ○ 中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業の事業活動の調整に関する法律に基づく公表制度
<根拠規定>

(調整の申出)
第6条 中小企業団体は、大企業者が当該中小企業団体の構成員の資格に係る特定の事業と同種の事業につき事業の開始又は拡大をすることが当該中小企業団体の構成員たる相当数の中小企業者が現に供給している物品又は役務に対する需要の減少をもたらすことによりこれらの中小企業者の経営の安定に著しい悪影響を及ぼす事態が生ずるおそれがあると認めるときは、主務省令で定めるところにより、主務大臣に対し、次条第1項の規定による勧告をするよう申し出ることができる。
2〜4 (略)
(調整勧告)
第7条 主務大臣は、前条第1項の規定による申出があつた場合において、当該申出をした中小企業団体及び当該申出に係る大企業者の間において同項に規定する事態の発生を回避することが困難であり、かつ、当該事態の発生を回避することにより中小企業の事業活動の機会を適正に確保する必要があると認められるときは、中小企業政策審議会の意見を聴いて、当該大企業者に対し、当該事業の開始若しくは拡大の時期を繰り下げ、又は当該事業の規模を縮小すべきことを勧告することができる。
2 前項の規定による勧告の内容は、前条第一項に規定する事態の発生を回避するために必要な限度を超えないものであり、かつ、一般消費者及び関連事業者の利益を不当に害するおそれがないものでなければならない。
3 主務大臣は、第1項の規定による勧告をした場合において、大企業者がその勧告に従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
4・5 (略)
(一時停止勧告)
第9条 主務大臣は、第6条第1項の規定による申出に係る大企業者が当該申出に係る事業の開始又は拡大についての計画を実施することにより第7条第1項に規定する措置を執らせることが著しく困難となる事態が生ずると認めるときは、中小企業政策審議会の意見を聴いて、当該大企業者に対し、同項の規定による勧告が行われるまでの間の応急の措置として六月以内の期間を定めて、当該事態の発生を回避するために必要な限度を超えない範囲内において、当該計画の実施を一時停止すべきことを勧告することができる。この場合において、当該期間内に同項の規定による勧告をすることができない特別の事情があると認められるときは、中小企業政策審議会の意見を聴いて、6月を超えない範囲内において当該期間を延長することを妨げない。
2 第7条第3項の規定は、前項の規定による勧告に準用する。
(指導)
第10条 主務大臣は、第7条第1項の規定による勧告をするときは、中小企業政策審議会の意見を聴いて、当該勧告に係る第6条第1項の規定による申出をした中小企業団体に対し、当該勧告に係る事業と同種の事業に係る中小企業の競争力の強化及び一般消費者の利益の増進のために当該中小企業団体の構成員たる中小企業者が講ずべき設備の近代化、技術の向上、事業の共同化その他のその事業活動の改善のための方策を示して必要な指導を行うものとする。
(調整命令)
第11条 主務大臣は、第7条第1項の規定による勧告を受けた大企業者が、同条第3項の規定によりその勧告に従わなかつた旨を公表された後において、なお正当な理由がなくてその勧告に係る措置を執らなかつた場合において、第6条第1項に規定する事態が生ずることにより同項の規定による申出をした中小企業団体の構成員たる中小企業者の相当部分の事業の継続が著しく困難となるおそれがあると認められるときは、中小企業政策審議会の意見を聴いて、当該大企業者に対し、当該勧告に係る措置を執るべきことを命ずることができる。
2・3 (略)
(罰則)
第16条 第11条第1項の規定による命令に違反した者は、300万円以下の罰金に処する。
第18条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前2条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の刑を科する。

<国会答弁>

私ども、大企業の進出問題についてはたくさんのケースを手がけまして、その都度苦労をしてまいりましたが、私はいま振り返ってみまして、過去の行政指導はやはりそれなりの成果を上げてきたのではないかと思っております。一つのケースにつきまして大企業に中小企業の実情を話し、そしてある程度の自制を求めるという場合に、大企業の方々は大体その意を了としてしかるべき調整に応じてもらったと思っております。
……もちろん、これからもいろいろな問題が出てまいります。しかし、そういうような場合に対してどういうルールで対処するかということは審議会でも非常に議論の的になった点でございます。率直に申しますと、命令、罰則という強い規制を望む声が私どもの耳にも入っておりますものの、もし命令、罰則というようなことになりますと、一つは競争政策上のいろいろむずかしい理念の問題もございますが、正直に申しますと、命令を出すということになりますと発動要件を非常に限定的に書かざるを得ないと、法律上そういうふうに私どもは理解をいたしておりますし、さらに、その前提となる勧告自体の発動要件も制約をされてきます。
したがって、私どもは、これからいろいろのケースが起こってきます場合に、余り限定的な勧告、命令というやり方よりは、むしろ広く弾力的な活用のできる勧告という方式の方が事態をおさめるためには機動的に、また効果的に使えるのではないかという気持ちでいまおるところでございます。こういった点がまた同時に審議会の議論におけるおおむねの方向ではないかと理解をいたしております。(昭和52年4月21日第80回国会衆議院商工委員会・岸田中小企業庁長官答弁)

<参考>
第11条第1項の命令及び罰則は、衆議院において追加修正されたものであるが、その衆議院及びその後の参議院において、次のようなやり取りがされている。

<昭和52年4月26日第80回国会衆議院商工委員会>
安田委員 この中小企業の分野法の政府案は、7条の「調整勧告」にしても、9条の「一時停止勧告」にしても、まず勧告をして、そして勧告に従わない場合は公表するというふうにとどまっているわけでありまして、これでは実効性がないのではないかと思いますし、また、この法案と同様の立法目的を持っておる他の法律と比較しても緩やかになっておるというふうに考えられますけれども、これはまことに納得しがたいことであります。
そこで、まず次の点について伺いたいわけでありますが、一つは、大企業が勧告に従わなかった場合、その公表は制裁と解するのかどうか。もし制裁と解しなければ、これは制裁措置が何らついていないということになりますし、もし制裁であると解すれば、これはこの法案と同様の立法趣旨、すなわち大規模な小売店舗の活動を調整することによって中小小売業者の事業活動の機会を適正に確保するためのいわゆる大店法でも、その10条の勧告では、勧告に従うか否かを問わずに公表することになっておりますし、このような規定は、中小企業団体の組織に関する法律の30条の4の3項にも、中小企業等協同組合法の9条の2の2の3項にもありますけれども、これはおのおの中小業者の事業活動の機会を適正に確保するために、トラブルが起きた場合に調整をする、あるいは「調停」という言葉を使って調停案が示される、そのときにその調停案をのむかのまないかということと関係なく「公表することができる。」という規定がそれぞれあるわけであります。
ですから、このような同じような立法目的を持った法律でも「公表」というのがございまして、この場合には従わなかったからどうというふうには書いてございません。
この点を比較してみますと、この提案されている分野法の場合の「公表」というのは制裁という意味が実際はないのじゃないかというふうにも考えられますけれども、その点についてどうかということをお伺いしたいわけであります。
岸田政府委員(中小企業庁長官) 私どもは、この御提案申し上げております法律に基づく「公表」は制裁措置であるという理解をいたしておるところでございます。従来、紛争につきまして、通産省がその問題に立ち入ってその解決に努め、そして大企業の進出について調整を図ったという事例がいろいろございますが、その運用の結果を見ましても、大体まず勧告の段階で十分大企業はそれにこたえて事業活動の調整を行うという経験を持っておりますので、勧告で相当の効果を上げ得るし、それに従わないときの違反の公表ということがさらに加われば制裁的意味は一層強まるだろうと思っておるところでございます。
お話の中に大規模店舗法で公表しておるではないかという点がございましたが、大規模店舗法の場合には、大規模店舗のいろいろの営業活動についての実質的な内容の調整を図る、そのことを一般の方々に周知徹底を図りませんとかえって買い物のときに混乱を招く、こういうことを配慮しての公表でございまして、この場合には制裁的な意味というよりは周知徹底を図るという意味での公表でございます。同じ「公表」でも趣旨が異なっておるというふうに理解をいたしておるところでございます。
安田委員 そうしますと、先ほど挙げました中小企業団体の組織に関する法律や中小企業等協同組合法の当該規定を見ますと、これは調停案の勧告になっているわけですね。それを公表することができる。のまなかった場合はどうとかこうとかじゃなくて、調停案を示して、しかも公表するという、こういう条文があるわけです。
ですから、大店法の場合には第三者との関係で周知徹底ということがあるかもしれませんけれども、中小企業団体の組織に関する法律や中小企業等協同組合法の場合の「公表」ということになりますと、調停案ですから、第三者、つまり買い物客や何かに周知徹底させるという必要はないのではないか。これは先ほど申し上げましたように、同じように中小企業の事業活動の機会を確保するためトラブルが起きたときに調停をするという同じような条文ですね。これについても「公表」ということがあるわけですから、公表ということそれ自体に制裁的意味があるかどうかということはきわめて疑問ではなかろうか。ただ、法文の形式上何々に従わなかった場合は何々すると書いてあるからそれは制裁なんだというふうにとることはできないのであって、制裁措置である以上は、その措置自体が制裁的役割り、つまり制裁を受ける者にとって不利益な内容でなければならないのじゃないか。そうしますと、この中小企業団体の組織に関する法律や何かの調停案の提示とそれの公表ということを考えますと、これは公表自体が制裁だということは言えないのじゃないかというふうに考えるわけですが、いかがでしょうか。
岸田政府委員 公表に至りますまでに、実は中小企業団体から調整の申し出があり、その申し出に従って調査が行われ、そしてその調査を受けて中小企業調整審議会において関係当事者の意見を十分徴して一つの公正妥当なる調整の方向が見出される。これは従来の行政指導におきまして話し合いの結果としてまとめられた調停案と比べますと実質的には法律の裏づけがあるということと、さらに審議会において慎重審議されたものであるという意味合いにおきまして相当権威のある調整勧告であるということが言えるだろうと思います。
先ほど申しましたように、調整勧告が行われましたならば当然常識的にはそれが守られるということが期待されますし、私どもも当然そうであろうと思っておるところでございます。それに追いかけて公表ができておりますのは、その勧告にすら従わなかったということを公表するわけでございまして、いわば大企業の進出について、社会的に見てもまた経済的に見ても公正妥当な意見を出されたにもかかわらずそれに従わずに勝手なことをするという、そういう企業である旨の公表でございます。
こういった意味合いの公表ということになりますれば、単なる事実の公表と違いまして、いわば社会的にも指弾をされることになるわけでございまして、制裁的な意味合いというものは十分あり得るだろうと私どもは思っておるところでございます。
安田委員 公表自体が制裁だというふうにお考だになる点についてはわれわれとしてはどうも承服しかねるわけですが、仮に公表されること自体が大企業にとって不愉快なことかもしれませんが、しかし、この程度のことではとうてい制裁措置とは言えないと思うわけです。というのは、いま長官もおっしゃいましたように、勧告自体が相当権威のあるもので、普通はそれに従うのが常識だ。ところが、そうなりますと、この勧告にさえ従わないようなお行儀の悪い企業ということが前提ですね。ですから、勧告というものが非常に権威が高くて、勧告に従うのが常識だということを強調されればされるほど、それを無視するようなお行儀の悪い大企業に対して、公表は不愉快かもしれないけれども、その程度で一体制裁と言えるのかということがますます疑問になってくるわけです。
お行儀のいい企業で、大体勧告を受けただけで素直に従うだろうという程度の遵法精神といいますか、それがある企業なら公表されるだけでも不愉快かもしれませんけれども、勧告に権威があると言えば言うほどこれをも無視するというような企業に対して一体公表で抑止力があるのかどうかということになると、これはきわめて疑問であると言わざるを得ない。ですから、制裁だと仮にしても、これは抑止力にほとんど欠けておると言わざるを得ないんじゃないかと思います。
まして、前回の委員会でも答弁された中で、旭硝子の例などを挙げて、従来の勧告でも相当な効果があったという意味のことを同僚委員に対して答弁されておりますが、仮にそうだとすれば、いままで効果を上げてきたはずの勧告にさえも従わないというお行儀の悪い大企業に対する制裁なんだから、公表程度で実効性があると考えるのは余りにも楽観的ではなかろうか。勧告自体がそれほど意に介するほどのこともない軽いものだというならば、勧告に従わなかったら次に公表とだんだんエスカレートしていくということは考えられますけれども、勧告自体がそんなに権威のあるものであれば、ますますそれを無視する大企業には公表程度では抑止力はないんではないかと言わざるを得ないのですが、その点はどうでしょうか。
岸田政府委員 世の中にはいろいろな人がいるもので、罰金を払ったって何ということはないやと思う人もいたとすれば、これはどういう制裁措置を講じても問題は解決しないわけでございますが、ただ、私どもは最近の新聞等を見ておりまして思うのですが、天下周知の事実として、これは社会的に一応公正妥当だと認められたルールに対してルール破りをしたというような形で公表されることは、その企業のイメージを相当強く傷つけるだけではなくて、やはりその会社の営業等にもいろいろの反響を巻き起こす一つの大きなきっかけになるのではないかと思っておるわけでございます。私どもは、実質的には公表というのは相当強い制裁効果を持ったものだと理解をいたしております。
先生のお話のように、公表ではなまぬるい、もっと強い命令、罰則をというような御意見は確かに中小企業団体の中にもございますし、私どももいろいろ議論をしたところでございます。ただ、こういった大企業の進出に伴う中小企業の打撃をどう食いとめるかということについて一般的なルールをつくります場合には、もしその事態が一つ一つ予見でき、そしてそれに伴う被害の程度が一つ一つ立証できるものであるならばそれを防止するために必要な手段というものも一つ一つ明らかになってまいるわけでございますが、どういう業種へどういう形で出てくるかわからない、いわば一般法としてのルールづくりをしようということになりますと、強く規制をするということにもおのずから限界があるのではないかと思っておるところでございます。
特に、これを命令という形で強い規制をかけますと、御承知のとおり、命令を発動するためにはその要件を確実に明記し、また、命令の内容も一つ一つ明らかにしておきませんと法的な安定性に対して阻害をするおそれが予想されるわけでございます。したがいまして、仮に命令を書くといたしましても、非常に限られた形の命令ということにならざるを得ないのではないかと私どもは思っておるところでございます。
したがいまして、今後予想される万般の事態に対して機動的に対応するという意味からいたしますと、命令にこだわりましてその前提となる勧告自体も窮屈な形になる、あるいは後ろにそういうものがあるだけに一層その運用が慎重になってくるというような事態を考えますよりは、むしろ勧告というものがかなり機動的に使えるような形の方が実際に問題をおさめる上では実効があるのではないかという、こういった基本的な気持ちからいま御提案申し上げましたような法律的な形をとることにいたした経緯でございます。
<昭和52年5月17日第80回国会参議院商工委員会>
森下昭司君 昨年末に提出をされました中小企業政策審議会、この「意見具申」の内容は対立いたしまして、規制対象業種の指定は行わない。それから小売業は対象としない。大企業の進出に関して紛争が生じた場合に、関係中小企業団体の申し出によって主務大臣が調整措置を講ずる。第四に、調整措置の内容は、進出大企業に対し、事業計画の縮小あるいは一時停止等の勧告とし、従わなかった場合は公表するものとし、主務大臣の命令及び違反者に対する罰則は含まないようにするというものでありましたが、この程度では規制内容も緩やかでありますし、中小企業者の保護に実効を期し得ないということで、衆議院段階におきまして事前調整あるいは命令、罰則規定が加えられたのではないかと私は思うのでありますが、この中小企業政策審議会の「意見具申」の内容について、政府として本法案をつくるに当たってどういうお考え方をお持ちになっておるのか、この点をひとつお尋ねいたしたいと思います。
政府委員(岸田文武君) ……私ども立案をいたしますときにはこの答申の線を基本的には尊重いたしながら、その後私どもなりに各界の意見をお伺いしました結果も取り入れて作成したのが政府の当初御提出申し上げました原案になっておる次第でございます。
……お話の中にございました命令、勧告の問題につきましては、いまの経済情勢のもとで本当に実効のある、また弾力的な運用をするためには、むしろ勧告段階でとどめることによって実効が上げ得られ得るというふうに一応私どもも考えた次第でございます。ただ、御承知のように、衆議院におきましていろいろ御議論がございました中で、特に命令、罰則の問題につきましては、単なる勧告では法律上の担保が不十分である、大方の場合は政府の言うように勧告、公表によって実効が上げられるにしても、やはり最後に伝家の宝刀というものが用意されている方が一層勧告自身も生きて発動できるのではないか、こういういわば私どもの議論を超えた高度の政治的な御判断が各党から強く出されましたことを受けまして、国会の修正が行われ、また政府としてもそれをお受けをするということになった次第でございます。
以上の経過を振り返って見ますと、私どもは中小企業政策審議会の答申の基本的な考え方というのは、私どもなりにやはりいまでも生きておるというふうに考えますものの、なおその運用をさらに実効あらしめるための手段の面におきまして、命令、罰則という、より強い手段をとるべきであるということが一歩そこを、審議会の答申を踏み出たものであると、かような理解が一応適切なのではないかと思っておるところでございます。……
森下昭司君 私は、本法案の目的は、まず第一に、大企業の進出に対しまして中小企業の事業分野を実質的に確保するということ。第二は、大企業の進出によって生じた紛争を調整するというこの2つの考え方があるわけでありますが、中小企業政策審議会の「意見具申」は、中小企業者の調整の申し出は、現実に大企業の進出が行われて紛争が生じた場合に限られている。あるいはまた、調整措置も主務大臣の勧告及び公表にとどまっていたため、明らかに紛争の調整を目的にしていたと考えられるわけであります。政府案においては、事前調査でありまするとか、あるいは調整規定というものが入れられ、さらに衆議院の修正で、いま申し上げたように命令、罰則規定等が盛り込まれたわけであります。いわば中小企業の事業分野を実質的に確保するという性格が衆議院の修正によって強まったと私は考えるべきではないだろうかと思うのであります。したがって、中小企業政策審議会が、たとえば「勧告措置によって十分所期の目的は達し得るものと考えられる。」「勧告及びその違反についての公表を以て対処すべきものと考える。」というようなこの「意見具申」の考え方からまいりますれば、衆議院の私は修正によりまして法案の性格そのものが非常に強化をされた、中小企業の分野を確保するという、実質的に確保するというふうに強化をされた。いわば法案の性格が変わったというふうに考えられるのではないだろうかと思うのでありまして、重ねてこの点についてのお考えをお尋ねいたします。
政府委員(岸田文武君) 命令、罰則の問題につきましては、これはいまの業種指定の問題と並びまして大きな議論の焦点になったことでございますが、やはり審議会の議論におきましては、一方では中小企業者の側から非常に強い規制をぜひとっていただきたいという要請があったのに対しまして、他方では、消費者側からはそのような強い規制をとることは結果としては消費者の利益に反するから、なるべくソフトな規制、むしろ率直に言えば法律がなくても何とかやれるのではないかと、こういう意見がございまして、この両方の意見を何とか一つの答申に取りまとめるべく苦心を重ねて得た結論が、先ほど申しましたように勧告、公表という手段になったわけでございまして、それを命令、罰則というような形に高めますことは、確かに審議会の答申から言いますと一歩前進ということに理解されるわけでございます。しかしながら、これも審議会の答申の方向についていわば逆行するものではなくて、まあより補強するという意味合いで私どもは理解をすれば、答申とそう矛盾なく理解する道もあるのではないかと思っておるところでございます。率直に申しまして、私どもは、具体的なケースが起こってまいりました場合に、やはり現実には実情を聞いて、そして審議会の意見を聞き、そして勧告によって実効のある調整を図っていくというのが、たとえ衆議院で立法が行われましても基本ではないかと思っておるところでございます。その基本となるべき勧告というものを一層重みのある勧告にするために、やはり後ろに命令、罰則というような条文のあることが有効であろう、こういう理解のもとに衆議院におきまして修正が行われたと、こう理解をしていきたいという気持ちで受け取っておるところでございます。
森下昭司君 いろいろお話がございましたが、私は、まあ前の答弁で長官が言われました、政治的判断によって修正が加えられたというふうの方がやはり正直な話じゃないだろうかと思うのでありまして、まあ一歩前進であることは間違いないと思います。そういう点で私は、やはり政治的判断によって修正が行われたという前提はあるにいたしましても、調整を目的といたしました提案の趣旨からまいりますれば、調整措置に関しまして命令、罰則規定を加えたということは、より強い性格をあらわしたわけでありまして、法案の性格自体が私は変わったのではないだろうかという見解を持つものであります。また仮に、いま長官からお話がございましたように、いろいろとより補強されたものであるという理解をすればいいというような考え方に立った場合に、この中小企業政策審議会におきまして硬軟両様の意見があったようでございますが、それを取りまとめるためにこうせざるを得なかったというようなことは、やはり私は一つの政府案を提出するに当たりまして、審議会の意見は意見とし、そしてそれに先ほどの答弁にありましたように、各界の意見をさらに聞いたということでありまするから、実質的に中小企業の分野を確保するためにはどうすべきかという観点から政府原案が国会に提出されるのが望ましかった。つまり、衆議院段階におきまする言うならば修正を受けなくってもいいように政府原案をつくるべきではなかったかという見解を持つものであります。
逆に言えば、中小企業政策審議会のいわゆる「意見具申」などが実態にそぐわないために、つまり硬軟両様という妥協をいたしますために実態を無視して「意見具申」が行われたのではないだろうかという危惧を持つものであります。そういう点について、私は、この中小企業政策審議会におきまする「意見具申」というものは、単なる硬軟両様の意見を取りまとめるための具申であったのか、それとも中小企業の分野を確保するという今日までの実態、経緯等を踏まえてこの「意見具申」がなされたのか、この点についてどう政府は受けとめるのか重ねてお尋ねをいたします。
政府委員(岸田文武君) 御議論の点は、特に命令、罰則の点に集中をしておるのではないかと思うわけでございまして、命令、罰則を入れなかった審議会における経緯は先ほど御説明いたしましたとおりでございますが、結論として整理をいたしてみますと、背景としては次のような点が挙げられるのではないかと思います。
一つは、自由経済体制におけるルールづくりということになりますと、これはやっぱり強ければ強いほどいいというふうに簡単に言い切れないものがあるという点が第一の点でございます。
それから第二の点は、仮に命令、罰則という強い規制を行いますと、やはりそれを発動するための要件というものが非常に厳密に法律の中に書き込まれなければいけませんし、また発動の態様というものも法律の中できっちり限定をされざるを得ないということが第二の問題かと思っております。私どもはそのように限定的に命令を使うというような形よりは、むしろ実をとって、弾力的な勧告、公表というものができるようにする方が、今後いろいろなケースが起こってくる場合に、かえって実効のある調整ができるのではないかと考えた点が第二の点でございます。
またさらに、第三につけ加えますれば、従来たくさんのケースを手がけてまいりましたが、いわば行政指導段階におきましてほとんどのケースが一応の解決を見ておるという実績がございますし、特に新しい法律ができまして、正式に法律上の取り扱いによって審議会の議を経、そして法律上の裏づけのある主務大臣の勧告が行われる、こういう体制になりますと、いまの世の中であれば、大企業としてもそれを押してわがままを言うというようなことは恐らく社会的な常識としてほとんど考えにくいことではないかと、こういった実態判断が第三の理由に挙げられるかと思うわけでございます。
以上のような三つの理由から詰めてみますと、命令、罰則という手段をとることをいたさなかったわけでございますが、衆議院の御議論は、そのような議論自体はわからないわけではないが、しかし、命令、罰則というものが最後の伝家の宝刀として用意されている方が、勧告という手段が一層強くなるということ自体は否定できないであろうと、こういった点が特に各党から一致して御議論が出てまいりまして、そのようなことであれば、私どもは伝家の宝刀なくしてもやれるということに対して、むしろあった方が有利であろう、こういうような見方の相違が最後に残った問題ではないかと思っておるところでございます。正直に申しまして、先ほど申し上げましたように高度の政治的な御判断ということから、やはり伝家の宝刀があった方がよかろうということが各党御一致の意見でございましたので、私どもとしてはそれはお受けをするということで今後適切な運用を図ってまいりたいと思っておるところでございます。