制裁として用いる公表に関するメモ(4)

(「2 行政処分を行うための基準設定が困難であること等により、行政処分・罰則という制度設計が困難なため、勧告・公表を行うこととしているもの」の続き)
 ○ 農業振興地域の整備に関する法律に基づく公表制度
<根拠規定>

(農用地区域以外の区域内における開発行為についての勧告等)
第15条の4 都道府県知事は、農業振興地域の区域のうち農用地区域以外の区域内において開発行為を行つている者がある場合において、その開発行為により、農用地区域内にある農用地等において土砂の流出若しくは崩壊その他の耕作若しくは養畜の業務に著しい支障を及ぼす災害を発生させ、又は農用地区域内にある農用地等に係る農業用用排水施設の有する機能に著しい支障を及ぼすことにより、農業振興地域整備計画の達成に支障を及ぼすおそれがあると認められるときは、農用地区域内にある農用地等の農業上の利用を確保するために必要な限度において、その者に対し、その事態を除去するために必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、その旨及びその勧告の内容を公表することができる。

<参考>
第15条の4(改正当時は第15条の17)は、衆議院において追加修正されたものであるが、その趣旨を次のように述べている。

修正の第5点は、第15条の17の1条を追加して、都道府県知事は、農業振興地域のうち農用地区域以外の区域内においで、農用地区域内における耕作もしくは養畜の業務または農業用用排水施設の機能に著しい支障を及ぼす等の開発行為を行う者がある場合には、その者に対し必要な措置を講ずべき旨を勧告することができるものとし、その勧告を受けた者がその勧告に従わないときはその旨及びその勧告の内容を公表することができるものとしたことであります。……
修正の第5点につきましては、改正案が農用地区域内の開発行為につき許可制度を設けておりますが、農用地区域以外の農業振興地域において規制の及ばないいわゆる白地地域でいたずらに開発行為がなされ、それによって農用地区域内の農業経営等に著しい支障を及ぼす事態が引き起こされることは無視できないのであります。しかし、これについて許可制度を取り入れる規制は、その基準設定が困難であること等を考慮し、開発行為に対し必要な措置を講ずる旨の勧告及びその勧告に従わない者には、これを公表して社会的制裁を加えることが必要であるとしての修正であります。(昭和50年3月18日第75回国会衆議院農林水産委員会、芳賀議員修正案趣旨説明)

 ○ 国土利用計画法に基づく公表制度
<根拠規定>

(土地に関する権利の移転又は設定後における利用目的等の届出)
第23条 土地売買等の契約を締結した場合には、当事者のうち当該土地売買等の契約により土地に関する権利の移転又は設定を受けることとなる者(次項において「権利取得者」という。)は、その契約を締結した日から起算して2週間以内に、次に掲げる事項を、国土交通省令で定めるところにより、当該土地が所在する市町村の長を経由して、都道府県知事に届け出なければならない。
(1)〜(7)  (略)
2・3  (略)
(土地の利用目的に関する勧告)
第24条 都道府県知事は、前条第一項の規定による届出があつた場合において、その届出に係る土地に関する権利の移転又は設定後における土地の利用目的に従つた土地利用が土地利用基本計画その他の土地利用に関する計画(国土交通省令で定めるところにより、公表されているものに限る。)に適合せず、当該土地を含む周辺の地域の適正かつ合理的な土地利用を図るために著しい支障があると認めるときは、土地利用審査会の意見を聴いて、その届出をした者に対し、その届出に係る土地の利用目的について必要な変更をすべきことを勧告することができる。
2・3 (略)
(公表)
第26条 都道府県知事は、第24条第1項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、その旨及びその勧告の内容を公表することができる。

<参考>
国土利用計画法は、規制区域内の土地取引については許可制としているが、それ以外の地域の一定の土地取引については届出制とし、その届出制に勧告・公表を組み込んでいる。その理由について、次のような審議がなされている。なお、同法は議員立法である。

<昭和49年5月8日第72回国会衆議院建設委員会>
柴田(睦)委員 次に、第5章の「土地に関する権利の移転等の届出」ということについてですが、この点については、一定面積以上の土地の権利移転について届け出をさして所要の指導をする、こういう内容になっておりますが、この届け出をさせる目的はどういうところにあるわけですか。
渡辺(武)委員 乱開発を防止する面と、それからさらに地価の安定をはかろう、こういう目的を持っております。
柴田(睦)委員 届け出があって、いま言われたような目的の面から見た場合に、これを指導によって直すということでしょうけれども、結局、最後まで聞かないということもできるようになっていると思うわけです。そういう意味から見ますと、これだけの規模の面積の土地の売買ですから、乱開発やあるいは土地利用の関係でいろいろな問題が生じることだと思いますけれども、そういう場合には、届け出よりもちゃんと許可制にして、乱開発をやられるおそれがある場合は許可をしない、それから地価の高騰をあおるような場合も許可をしないという許可制にしたほうがいいんではないか、こう思うのですが、いかがですか。
渡辺(武)委員 おっしゃるとおりなんです。しかし、先ほどあなた自身も言われましたように、指定区域内は、標準価額そのものをきめるにもたいへんな体制を実はとっていかなくちゃならぬ、これを全国一律に1、2の3でやった場合には行政能力的にも非常にまだまだ問題がある、したがってそういうような問題点のあるところから逐次やっていこう。その他一般的な土地については、まずは取引の届け出制度を設けて、そして大まかな規制措置を考えていく、必要があればやがては全国を規制するという方向で進みたい、こう考えております。
柴田(睦)委員 この届け出があったものについては、すでに先ほどから議論いたしました、「相当な価額」に照らして適正を欠くかどうかということが検討されることになっているわけで、その点についてはもう価格をきめておくということだと思うのですけれども、いまの御説明によりますと、価格をきめるのがむずかしいからということのようであったのですが、その点はいかがですか。
渡辺(武)委員 御質問の意味がよくわかりませんが、いわば規制区域を指定いたしますと、その告示の日をもって時価の大体7、80%の地価というものの算定業務、いろいろなたくさんの業務が出てくるわけですね。それを全国一ぺんにやった場合にはたいへんな行政上の作業が出てくる、したがって行政能力的に不可能であろうということがまず考えられるわけでございます。したがって、その他の白地地区においては、まずは届け出によってそういう動向を把握をしていこう。届け出をされなければ何もその動態がわからないわけですから、届け出によってその動態を把握し、ほんとうにさらに強固な措置が必要であると考えるならば、それはそれによってまた対応していかなくてはいけない。
御承知のように、わが国の土地政策としては一番新しい法律でございまして、これに対応していくためには、またわれわれが予想せざるいろいろな問題が出てくると思います。私どもはそれにはそのように時宜に適した対応をしていかなくてはならない。いまから頭の中でいろいろ起きるであろうことを想定をしてすべてを網羅するといいわけですけれども、それは頭の中の作業でございまして、そう適切なものとは言いがたい面もあろうかと思います。そういう面では、やはり届け出制度というような制度の中で全体の動態を把握しながら、さらに強固な規制が必要だという事態が出てまいりますならば、それに対応した法律の修正なりいろいろな面が考えられていくのではないか、かように考えております。

 ○ 大規模小売店舗立地法に基づく公表制度
<根拠規定>

都道府県の勧告等)
第9条 都道府県は、前条第7項の規定による届出又は通知の内容が、同条第4項の規定により都道府県が述べた意見を適正に反映しておらず、当該届出又は通知に係る大規模小売店舖の周辺の地域の生活環境に著しい悪影響を及ぼす事態の発生を回避することが困難であると認めるときは、市町村の意見を聴き、及び指針を勘案しつつ、当該届出又は通知がなされた日から2月以内に限り、理由を付して、第5条第1項又は第6条第2項の規定による届出をした者に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 (略)
3 都道府県は、第1項の規定による勧告をしたときは、当該勧告を市町村に通知するとともに、通商産業省令で定めるところにより、当該勧告の内容を公告しなければならない。
4 都道府県から第1項の規定による勧告を受けた者は、当該勧告を踏まえ、都道府県に、必要な変更に係る届出を行うものとする。
5・6 (略)
7 都道府県は、第1項の規定による勧告をした場合において、当該勧告に係る届出をした者が、正当な理由がなく、当該勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができる。

<国会答弁>

勧告、公表という措置だけで十分かという御指摘でございます。私ども、小売業というものの特性、つまり地域に密着した産業であるということを考えますと、やはりその地域の民意というものを都道府県知事なり政令指定都市の市長さんがお集めになり、その上に立って御意見を述べられ、そして出店計画の変更を求める、それに対して応じないというような場合には勧告もされる、しかしそれにも応じない、公表もされる、それでも平然としている。このような事態というのは、小売業の特性からいきまして競争力に大変影響を与えるのではないかと思います。その意味において、相当程度の実効性がこの勧告、公表制度についてあり得るのではないかと思っておるわけでございます。
今既に先生もお触れになった点でございますが、本法で対応しようとする措置の内容というのは、例えば環境問題一つとりましても、騒音や廃棄物や道路交通といったようなもろもろの既存の規制法というものが存在をしている上に、実は大型店出店に当たってはそうした既存の規制では十分でないと申しましょうか、それでは地域の住民の方々が満足されない、なおその生活環境が乱されるという問題が残るということで、一種の上乗せ的な規制をこの法律により行うことによりまして対応しようと、こういうことでございます。
そのために、出店者に対して自主的な対応を求めようということでございます。そうなりますと、一律の規制というよりはかなり、出店側の対応がどうであるか、また出店する場所がどういう状況であり、その周辺がどうなっているか、さまざまな事情が存在するであろうと思っております。その意味において、対応すべき内容というのもケースにより大変幅の広いことになりましょうし、具体的な対応策についていえば、実情に応じたかなり柔軟な対応が必要だろうということでございます。
確かに、現行の大店法には命令、罰則という規定が置かれておるわけでございます。大店立地法を御提案申し上げるに当たりまして、命令、罰則のない法案として御提案しておるわけでございますけれども、その意味では、命令をする以上、罰則という担保が要る、これはセットとして必然だろうと思います。そういう罰則が科し得るということになりますと、ある県ではその内容が罰則の対象になるけれども、隣の県ではならないというようなことになるのは不適切であろう。そうなりますと、御指摘のようにかなり構成要件を厳格なものにしないといげない。構成要件を厳格にするということは、逆に言うと結果としてもろもろの調整をすると申しましょうか、あるいは議論をする、大型店のサイドにいろいろと配慮して対応してもらわなければならない事項の範囲が限定されてくる、そういう問題があるということを私ども議論いたしました。
一つの選択の問題ではあるわけでございますが、できるだけ幅広い項目について地域の事情に応じて柔軟に対応できるシステムというものを用意した方がいいだろうということで、勧告、公表ということをもっても相当程度の実効性が期待できるということで、今回このような御提案をさせていただいているということでございます。(平成10年5月12日第142回国会参議院経済・産業委員会、岩田通商産業大臣官房商務流通審議官)

 (注) 勧告・公表を用いることとしたのは、自主的な対応を促すという理由もあり
<参考>
旧法が命令・罰則という手法を採っていたのに対し、新法では勧告・公表としてことについて、実効性があるのかといった点の指摘が多くなされている。これに対し、手法としては、次のように勧告に対して一定のアクションを求めることとすることで、この法律の勧告の持つ意味が大きいのだという趣旨の答弁がされている。

最大限どのような法的な手当てがこの法律の中でできるかということでいろいろと検討いたしました。
その結果、この法律に基づきます勧告というのは、まさに公正で透明な手続を経て民意を反映した意見というものが出されて、それを実現するために勧告というものは行われるわけでございますので、出店者というものは都道府県等から出されます意見、こういうものを尊重して対応することが強く望まれるものと考えております。
そういう意味におきまして、本法案の9条4項におきまして、「都道府県から」「勧告を受けた者は、当該勧告を踏まえ、都道府県に、必要な変更に係る届出を行うものとする。」という規定を置いております。全く異例とは申しませんけれども、通常の勧告、公表制度のような場合、勧告ができるという規定で普通終わりますけれども、勧告を受けた者がどう対応すべきかということを「必要な変更に係る届出を行うものとする。」という規定を置かせていただきまして、ある種強い方向性を持って勧告に対しまして対応するということを規定いたしておるところでございます。その意味で、こうした勧告というものが重たい意味を持つということの趣旨を、今後私ども、この法案を成立させていただきました暁には、広く関係者に対して周知徹底をし、同時にその運用状況についてしっかりと注視していきたい、このように考えておるところでございます。(平成10年5月12日第142回国会参議院経済・産業委員会、岩田通商産業大臣官房商務流通審議官)