制裁として用いる公表に関するメモ(5)

3 特定の行政目的を実現するためには、罰則を用いるよりも粘り強く行政指導等を行うことが適当との判断で、勧告・公表を行うこととしているもの
 ○ 障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく公表制度
<根拠規定>

(一般事業主の身体障害者又は知的障害者の雇入れに関する計画)
第46条 厚生労働大臣は、身体障害者又は知的障害者の雇用を促進するため必要があると認める場合には、その雇用する身体障害者又は知的障害者である労働者の数が法定雇用障害者数未満である事業主に対して、身体障害者又は知的障害者である労働者の数がその法定雇用障害者数以上となるようにするため、厚生労働省令で定めるところにより、身体障害者又は知的障害者の雇入れに関する計画の作成を命ずることができる。
2〜4 (略)
5 厚生労働大臣は、第1項の計画が著しく不適当であると認めるときは、当該計画を作成した事業主に対してその変更を勧告することができる。
6 厚生労働大臣は、特に必要があると認めるときは、第1項の計画を作成した事業主に対して、その適正な実施に関し、勧告をすることができる。
(一般事業主についての公表)
第47条 厚生労働大臣は、前条第1項の計画を作成した事業主が、正当な理由がなく、同条第5項又は第6項の勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。

<国会答弁>

○ 公表制度を今回法定いたしましたことも公表することそのこと自体が目的ではなくて、こういった制度をとることによりまして企業の理解を深め、この法律によりますこういった義務を履行してもらう。で、そのためには、とにかく結論として雇ってもらうことが大事なわけでございます。身体障害者問題に理解を深めて、身体障害者を一般健常者と同じようにその能力を適正に評価して雇ってもらう、こういうことが究極の目的でございますので、そのためには雇用率を定め、それに達成しないものについては採用計画をつくらせる、あるいはそれが内容が不十分であれば勧告、是正させる、なおかつどうしてもそういった努力の跡が見られない、悪質だというものについて社会的制裁という意味で公表するということでございまして、公表することそれ自体が目的じゃない。こういうことからそういった手順を踏みまして雇用率を達成してもらうような努力をしてもらう。その努力に対して役所の側もできるだけの援助をしていく。こういうことによって身体障害者の雇用を具体的に進めていくと、こういうことでございます。(昭和51年5月13日第77回国会参議院社会労働委員会、遠藤労働省職業安定局長答弁)
○ 確かに審議会等におきましても、そういう(罰則を付けるべきという)*1御議論が一部にはございました。ただ、先ほど申し上げましたように、身体障害者の雇用の問題は、そういった相互連帯、国民の理解、企業の受け入れ体制の整備ということの上に立って初めて可能なわけでございまして、この雇用義務に違反したから罰則を科するということで、通り一遍の罰則を一回科したからといって雇用が進むわけのものではございません。むしろ私どもは、企業の社会連帯責任、そういったものに期待をし、そのために必要な援助、助成措置も十分行う、それでもしなおかつ、それに対して誠意を示さないような企業に対しては、雇い入れ計画の作成命令も発しますし、その計画もつくらない、あるいはそういう努力もしないという場合には、これには罰則がございます。そういった雇い入れについての手順を踏まないものについては、罰則を科して手順を踏ませるようにしますが、雇わなかった、義務を履行しなかったからといって罰則をかけてそれで終わりというのじゃ、これはそれだけのことになってしまいます。
したがいまして、そういう罰則については、やはり大勢の意見としてはきわめて批判的で、そういうことよりもむしろ積極策に手を尽くすべきだ、こういう御意見だったわけでございます。そういうことで、幾つかの罰則も予定いたしておりますが、雇用義務を履行しなかったそのことについての罰則をかけなかったのは、そういうわけでございます。(昭和51年5月19日第77回国会衆議院社会労働委員会、遠藤労働省職業安定局長答弁)

 ○ 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律に基づく公表制度
<根拠規定>

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第29条 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
2 (略)
(公表)
第30条 厚生労働大臣は、第5条から第7条まで、第9条第1項から第3項まで、第11条第1項、第12条及び第13条第1項の規定に違反している事業主に対し、前条第1項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

<国会答弁>

今度の法律の改正によりまして、募集・採用から始まりまして定年、退職まで全部これは義務だ、差別を女性であるがゆえにしてはならない、こういうように相なりました。
したがいまして、これは結局、一つ一つの職場職場におきまして、雇用管理上そういう観念が完全に定着をいたしませんと、そのときだけ差別をすることがなかったとしても、その現象をとらえますよりは、その企業の体質全体を直していかなければこれは本法の趣旨に沿うものではないという意味合いで、非常に粘り強く助言もしようではないか、勧告もしようではないか、指導もしようではないかということで臨もう、こう思っております。先生も御承知のとおり、罰金刑というようなもので処分をいたしましても、これは新聞には、いかがでありましょうか、一般の国民にとりましては、どこの裁判所でどういうような処分が行われたか、これはつぶさには出てこないのが多かろうと思っております。
しかしながら、こういう違反行為がありますものにつきましては、新聞記者会見をやりまして、そこで全部企業名を配付いたしまして、それで言いますならば公表制度というものの実行に移してまいりたい、私はこう思っております。そうすれば、この雇用機会均等法というものの今日的意義といいますものは、これから我々も大キャンペーンをいたします、先生方もきっとこれについてあちらこちらで演説のネタにしていただけるもの、こう信じて疑いません。
そういうような雰囲気の中で、けしからない差別を行った企業名というものが新聞記者の手に入って、それが新聞の紙面に載るということになりますれば、これは非常に大勢の皆さんから、どこそこの企業はおかしいのだということで公表になったなということで、むしろその企業の社会的評価というようなものが下がり、企業の持つ言いますならば粋持といいますかプライドといいますか、そういうものもがた落ちになる。そうして、それらが数年にわたうくあの企業はどうだな、その後直ったかなというようなことで多くの目にさらされる。そうして、当該企業の中におけるところの差別を受けたというような女性職員といいますか労働者といいますかこういう皆さんも、再度のそういう差別があればどんどん婦人少年室等に申し出ていけるという雰囲気ができるのではないか。
長い目で見ますと、そのときに罰金だというよりは、企業名公表の方が本法の徹底のための手段としてはより有効だ、こう思って、あえて公表制度にして、労基法等によるところの罰金刑等々の罰則はとらないということでやってまいろう、こう思っておるわけであります。(平成9年5月7日第140回国会衆議院労働委員会、岡野労働大臣答弁)

<参考>
国会の審議において、男女雇用機会均等法においては公表制度は機能しにくいのではないかという意見も出されており、その際のやり取りは次のとおりである。

<平成9年6月10日第140回国会参議院労働委員会
武田節子君 私は基本的には、均等法では公表制度が非常に機能しにくいと思っております。すなわち、均等法の問題は、障害者雇用のように公表の対象となる行為が数字で客観的に出てくるものではなくて、公表の対象となる行為を労働省が差別と認定しなければならず、それに不服である企業が裁判に持ち込むことを考えますと、労働省も差別の認定に慎重になり、その結果、公表に至らなくなること。また、さきに述べましたとおり、公表の前段階として勧告が義務づけられていることから、勧告を受けてから改善に乗り出せばよいといった企業の開き直りも可能であるからであります。
したがって、本改正の施行状況を点検する中で公表制度のあり方も当然見直すべきと思いますが、いかがでございましょうか。
政府委員(太田芳枝君) 女性労働者に対する差別の是正に当たりましては、女性労働者がその企業に継続して勤務できるということが非常に重要であると思うわけでございまして、そういう意味で法違反の状態の速やかな改善を図るという観点で助言、指導、勧告という行政措置があるわけでございますが、そういう各段階を通じまして企業に対して粘り強く行政指導を行い、女性労働者がその企業にまた伸び伸びと勤務できる状況をつくっていくということが一番大事なのであろうというふうに思うわけでございます。
その上で、その勧告をしましても、勧告に従わない事業主に対しましては、今回の公表制度を厳正に適用いたしまして、行政指導から公表に至るまでの一連の制度を効果的に運用していきたいというふうに考えております。
また、公表制度も含めまして、改正法の施行状況につきましては随時その的確な把握に努めて、必要な検討は行ってまいりたいと思います。
武田節子君 私としましては、均等法違反は、言ってみれば憲法の両性の平等に反するものでありますから、国として社会的正義に反する行為であるという意思を明確に示すために公表制度とあわせて罰則を設ける方向で検討すべきであると思っております。基準法、安全衛生法は送検した時点で新聞発表し、公表しておりますが、いかがでしょうか、労働大臣に御答弁を求めたいと思います。
国務大臣(岡野裕君) 先生おっしゃますように、基準法はこの違反について罰則を設けておりますことは御存じのとおりであります。
しかしながら、今度新たに一歩前進をする男女雇用機会均等法の改正法案は、言うならば、職場環境づくり、その裏に社会意識変革というようなものを志しております。したがいまして、罰則によって一件上がり、これは本会議で先生にお話しした言葉と同じ言葉でありますけれども、一事不再理であります。罰金うん十万円払ったら終わりということよりは、今お話をしましたような勧告、それに基づいての企業名公表で、世間、周りの皆さんから非常な異なった眼で見られることのそのつらさ、言いますならば矜持をゆがめられるという意味でのつらさが周りから非常に大きな圧力でもってかかりますと、セクシュアルハラスメントあたりが一番そうだと思いますけれども、企業名公表によるところの是正力というようなものを私は非常に大きく評価している次第であります。
同時にまた、その衝に当たる各県の女性少年室、これの実行力といいますか、質的な意味を含めてといいますか、全部が女性でたった一人だけ男性職員がいるというような現状からして改めてまいろう、こう思っております。
いずれともあれ、そういうような考え方でこの新しい法律、もし可決いただきますならば鋭意努力をしてまいりたい、かように存じております。
(後に、セクハラは企業名公表の制度からはずれているとの岡野大臣の答弁あり)

*1:管理者注記