制裁として用いる公表に関するメモ(7)

5 対象が私的な契約であるため、勧告・公表を行うこととしているもの
 ○ 酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律に基づく公表制度
<根拠規定>

(紛争のあつせん又は調停)
第20条 都道府県知事は、生乳等取引契約に係る紛争につき、その当事者の双方又は一方から政令で定めるところによりあっせん又は調停の申請があつた場合には、すみやかに、あっせん又は調停を行うものとする。
第21条 都道府県知事は、前条の調停を行う場合には、その紛争の当事者から意見を聞いて、紛争の解決に必要な調停案を作成しなければならない。
2〜4 (略)
第22条 都道府県知事は、前条第1項の調停案を作成したときは、これを当事者に示してその受諾を勧告するものとする。
第23条 都道府県知事は、当事者の一方又は双方が前条の規定による勧告に係る調停案を受諾することを拒否した場合において、生乳等の公正な取引を促進するため必要があると認めるときは、調停の経過及び調停案を公表することができる。

<国会答弁>

19条で斡旋案が成立いたしまして、それを両当事者が受諾いたしました場合は、この協定書が即両当事者の契約を結んだことというふうになるわけでございます。それから不成立に終りました場合には、斡旋でございますから、事の性質上強制力もございません。面当事者に拒否権があると申しますか、強制力のない紛争の解決方法なんでございますが、その場合には斡旋委員が行いました斡旋のやり方なり、内容なりが果して公正なものとして納得されるかどうか、又当事者の拒否したことが、条理上当然のこととして受入れられるかどうかといつたようなことにつきまして、輿論と申しましようか、第三者の批判を仰ぐという意味におきまして、その交渉の斡旋の経過と斡旋委員が作りました協定案というものを公表することができるようにいたしたわけであります。それによりまして、今申しましたような斡旋の公平、中立性を確保いたしますると同時に、拒否することの社会的な反響と申しますか、そういつたことを問うという機会を作りまして、強制力のない斡旋に多少のそういつた輿論の批判といつたようなものを期待いたしたわけでございます。(昭和29年4月30日第19回国会参議院農林委員会、昌谷農林省畜産局経済課長答弁)

 ○ 分収林特別措置法に基づく公表制度
<根拠規定>

(分収林契約に係る募集又は途中募集の届出)
第5条 分収林契約に係る募集又は途中募集をする者は、農林水産省令で定めるところにより、当該募集又は途中募集に係る申込みの期間の開始する日の2月前までに、次に掲げる事項を当該分収林契約に係る土地を管轄する都道府県知事に届け出なければならない。
(1)〜(14)  (略)
2 前項の規定による届出をした者が当該募集又は途中募集に係る申込みの期間の開始する日の前日までの間において当該届出に係る事項を変更しようとするときは、農林水産省令で定めるところにより、あらかじめ、同項の都道府県知事にその旨を届け出なければならない。
(変更勧告)
第6条 都道府県知事は、前条第1項又は第2項の規定による届出があつた場合において、当該届出に係る事項からみて、適正な造林若しくは育林が行われないおそれがあると認めるとき、又は造林費負担者若しくは育林費負担者の正当な利益を害するおそれがあると認めるときは、当該募集又は途中募集に係る申込みの期間の開始する日の前日までの間に限り、当該届出をした者に対し、当該届出に係る事項を変更すべき旨を勧告することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による勧告をした場合において、勧告を受けた者がこれに従つていないと認めるときは、その旨を公表することができる。

<国会答弁>

分収育林契約は、御承知のとおり、これは私的な契約でございますが、本来的には当事者相互間でやらなければならぬ、また、そういう責任があるわけでございますけれども、いまお話しのとおり、これからの分収育林を進めるに当たりましては、広く都市の方々と一緒になりまして緑づくりをするということに相なりますと、やはり応募者は森林のある地域から離れている、そういう実態にあるわけでございまして、そういう方々が森林の価格を見積もるというふうなことはなかなかできない点がございます。それから、募集いたしまして、分収林契約をするという場合には、当然のことながら、契約条項等がぴしっと決まっていなければいかぬわけでございますが、それについては、変更というような問題についてはなかなか実質的には応募者の方々ができないわけでございます。また、一度契約いたしますと、これは長期にわたる契約でございますので、それなりの確固としたものがなければなりません。同時に、これは契約しますと林木を共有するということになりますので、それからの脱退という問題はなかなか困難である。さらには、契約いたします場合に、それから先の保育、育林の経費と申しますのは前払い形態をとるというようなことに相なるわけでございます。そうしますと、前払いした金額に応じた適正な森林施業ができるかどうかということが大変重要になってくるわけでございますので、そういう側面から見てまいりますと、やはり適正な契約を締結するということと、間違いないその履行を確保するということが大事でございますので、そういう面で一定の行政指導のルートに乗せていくということが必要でございます。
そこで、いま先生御指摘のとおり、まず契約事項については事前に届け出をしてもらいまして、その届け出事項がよいか悪いかということをチェックする。さらには、もし不適当となればそれを変更勧告をするとか、また勧告に従わない場合には公表するとか、さらには、届け出した事項について今度は実際に遵守するように勧告するとか、さらにまた、適時報告を徴収するというふうな、そういう権限を実は付与しておるわけでございます。これはいずれも森林の施業方法を適正にするということと、やはり費用を出していただくいわゆる費用負担者の正当な権利を保護するというたてまえから、この権限を適正に行ってもらいまして、間違いのない分収方式による育林を進めてまいりたい、こういう趣旨でございます。(昭和58年3月30日第98回国会衆議院農林水産委員会、秋山林野庁長官答弁)

 ○ 中小小売商業振興法に基づく公表制度
<根拠規定>

(特定連鎖化事業の運営の適正化)
第11条 連鎖化事業であつて、当該連鎖化事業に係る約款に、加盟者に特定の商標、商号その他の表示を使用させる旨及び加盟者から加盟に際し加盟金、保証金その他の金銭を徴収する旨の定めがあるもの(以下「特定連鎖化事業」という。)を行う者は、当該特定連鎖化事業に加盟しようとする者と契約を締結しようとするときは、経済産業省令で定めるところにより、あらかじめ、その者に対し、次の事項を記載した書面を交付し、その記載事項について説明をしなければならない。
(1)〜(6) (略)
2 (略)
第12条 主務大臣は、特定連鎖化事業を行なう者が前条第1項の規定に従つていないと認めるときは、その者に対し、同項の規定に従うべきことを勧告することができる。
2 主務大臣は、前項の規定による勧告をした場合において、特定連鎖化事業を行なう者がその勧告に従つていないと認めるときは、その旨を公表することができる。

<参考>
 第12条第2項の公表は、衆議院において追加修正されたものであるが、その際の審議等について、次のようなやり取りがされている。

<昭和48年6月6日第71回国会衆議院商工委員会>
中村(重)委員 ‥‥最後にお答えにありました特定連鎖化事業、いわゆるフランチャイズ事業、これの運営の適正化の問題でございますが、これに対しましては11条に、いろいろとこの条件が1項の1号から6号まであります。この「規定に従うべきことを勧告することができる。」というのが12条にあります。先ほど午前中に佐野委員からも指摘をいたしておりましたが、やはりこの勧告だけではだめなんだ。勧告に従わなかった場合は公表するといったようなこと、あるいはその他の処罰規定といったようなものが必要ではないかと考えますが、その点の見解はいかがですか。
森口政府委員(中小企業庁次長) 特定連鎖化契約自体、これは商業者と商業者との契約であります。私どもは、実態を見ますと、ともすると契約のときに契約条件が明らかでなかったり、あるいは不当にフランチャイザーのほうに有利な条件の契約がかわされることがあるということを聞いておるわけでございますので、契約に際してあらかじめ条件を明示し、また、これを商業者たる中小企業者が完全に了解した上で契約を結ぶということの必要のために、いろいろな契約条件について明示あるいは書面の交付義務を課しておるわけでございます。したがって、これはいわば商取引の関係のことでございますから、やはり罰則というような強い威嚇的手段でこれを担保するということは適当ではない。特にフランチャイズ事業というのは、本法でまだようやく始まりかけた制度でございます。フランチャイズ事業そのものは、中小企業者の面から見ましていろいろ有用な面もございますし、その健全な発達をはかるという点から見ましても、これをいま罰則をもってその点を強制するということは妥当ではないというような考え方でおるわけでございます。したがいまして、こういうものにつきまして、不当なときには大臣から勧告をするというような制度にとどめたような次第でございます。
中村(重)委員 考え方はわかりました。私どもは、勧告だけでは不十分である、罰則等の適用というものまではいかないにいたしましても、少なくとも勧告に従わない者は公表するというのでなければ、ほんとうの効果を発揮することはできない、そのように考えるわけであります。それは修正等の態度をもって臨みたいと考えております。