都道府県条例に市町村の責務を規定することについて

今回は、多少脱線してtihoujitiさん(http://d.hatena.ne.jp/tihoujiti/20080228)とjoho_triangleさん(http://d.hatena.ne.jp/joho_triangle/20080228)が取り上げていた、福井県地産地消の推進に関する条例で市町村の責務的な規定を入れていることについて記載してみます。
まず、そこで取り上げられていた条例の該当規定を、県の責務規定と併せて次に掲げる。

福井県地産地消の推進に関する条例 
(県の責務)
第4条 県は、前条に定める基本理念にのっとり、市町、生産者、事業者および県民と連携し、地産地消の推進に関する施策を総合的かつ計画的に実施するものとする。 
(市町の役割)
第5条 市町は、県、生産者、事業者および住民と協力しながら、地域の実情に応じた地産地消の推進に積極的に取り組むよう努めるものとする。

都道府県条例に市町村の責務を規定することについては、自治体に対する関与の法定主義(地方自治法第245条の2)の規定に関連して問題となるのであろうが、おそらく、努力義務的な規定振りであっても適当でないとする見解が多いだろう。実際、市町村の責務規定を分権の際にすべて削った県*1もあったように聞いている。
そのような整理まではしていない県もあることは事実であるが、それは、責務規定というものは訓示的なものであるから、違法とまでは言えないだろうというような考え方によっているのであろう。ただ、その場合でも、分権後にあえて市町村の責務規定を設けることについては、意味が違うとして問題視する見解もあるようである*2
しかし、特に市町村の責務規定を整理していない場合には、それを設けないこととすることの説明に苦慮し、関係者の理解を得られないこともあるのであろう。その場合の取扱いとしては、分権前の事例であるが、東京都の環境基本条例における市町村の責務規定に関する次の例が参考になると思う。

最終的には、市町村の責務を「市町村は、環境の保全を図るため、その区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」と規定することとした。しかし、その内容は、実は既に環境基本法地方公共団体の責務として定められているものの引写しであり、都の条例で特に新たな責務を定めたものではないのである。単に法律による責務を確認したにすぎない規定とすることによって、環境問題としての「わかりやすさ」だけを確保してみたのである。
泉本和秀「自治体での立法の実際と工夫」松尾浩也ほか『立法の平易化』(P97) *3

そこで、上記の福井県の条例を見ると、第5条の見出しを「責務」とせずに「役割」としているのも、苦慮してのものかもしれないが、規定振りを見ると「努める」としているとはいえ、通常の責務規定と同じような形になっているため、結果としてあまり意味はないのではないかと思う。
それに、法律では、見出しを「役割」とする場合には、住民等の責務的なものを書くときに用いられることが多いようであり、書き振りも次の食品安全基本法のように「〜役割を果たすものとする」(観光立国推進基本法では、次のように「果たすよう努めるものとする」としているが)というようにしているようである。

食品安全基本法
(消費者の役割)
第9条 消費者は、食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるとともに、食品の安全性の確保に関する施策について意見を表明するように努めることによって、食品の安全性の確保に積極的な役割を果たすものとする。
観光立国推進基本法
(住民の役割)
第5条 住民は、観光立国の意義に対する理解を深め、魅力ある観光地の形成に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。

上記の福井県の条例の場合、地産地消について市町村が果たす役割としてある程度一般的な考え方があるのであれば、それを確認的に「〜に取り組む責務を有するものとする」といった形で書くことも可能だろうが、果たしてそのように言えるかどうか。
私は、上記条例第5条のような規定も、適切ではないとは言え、違法とまでは言えないとは思っているが、例規審査担当としては、条例第5条は書かないこととして、第4条の「市町、生産者、事業者および県民と連携し」を強調する意味で、次のように同条第2項として書くことで、言外に市町村も一定の役割を負ってもらうというように考えるてもらうのがよろしいのではないかと感じる。

2 県は、前項の施策に当たっては、市町、生産者、事業者および県民と連携するものとする。*4

*1:たしか三重県がそうであったと思う。

*2:ある著名な学者の方がそのようなことを言っていたという話を聞いたことがあるが、又聞きの話でもあり、そのお名前を出すことは差し控えることとする。

*3:この論文は、分権前に書かれたものであるが、その当時でも、地方自治法上、県の条例で市町村の事務について定めることができると規定されているのは、市町村の行政事務についての統制条例のみであり、他の場合は市町村の事務処理を規制することは適当でないという考え方に基づいている。

*4:最近は、よく「協働」という言葉が使われるので、「連携」に代えてそのような言葉を使うことも考えられる。ただし、法令のレベルでは、「協働」という言葉はほとんど使われていないようである。