続・新旧対照表方式(2)〜メリット・デメリット(その2)

新旧対照表方式のメリットを取り上げる前に、そのデメリットについて取り上げてみたい。
1 分量が多くなることについて
新旧対照表方式に関する国会における答弁については「新旧対照表方式(下)」で記載しているが、そこでは分量が多くなることが一番問題とされている。
この分量の問題は、条例における議案の段階では、どの自治体も議会に対する参考資料として配布するためなど新旧対照表を何らかの形で作成していると思われるので、議案の部分の分量のみを問題としても仕方がないであろう。
問題となるのは、条例等の公布の段階であり、それらを公報への掲載によって行っている場合においてだけになると思う*1
この公報への掲載についても、インターネットの方法によるのであれば、分量の多さはあまり問題にならないのではないかと思う。ちなみに、現在では次のようにインターネットによる方法でも問題ないものとされている。

公告式条例では、一般的には、「条例の公布は、市公報に掲載してこれを行う。」と規定されており、公報によって、広く住民一般に周知される方法がとられている。
一方で、IT社会となり、各家庭におけるパソコンの普及が一般的になってきている今日、住民の利便性向上と業務効率化の観点から、公告式条例の規定を改正して、条例の公布をインターネットの市のホームページに公示するという方法も、公告式条例に基づく、条例公布の手続方法である以上、直ちに違法となることはないものと考えられる。特に、各行政分野において、電子媒体を利用した各種申請手続やサービス提供が行われている今日、条例公布の手続をホームページで行うことも時代の趨勢であると考えられる。
なお、条例、規則を一般住民の知り得る状態におくという公布の意義を踏まえる必要があることから、市庁舎等に条例、規則の閲覧コーナーを設置する等インターネットを利用することができなくとも条例、規則を知ることのできる手段を確保した上で、ホームページに公示するという方法の導入を図ることが必要と考えられる。(『Q&A実務地方自治法―行政・財務―(P323〜)』)*2

例えば、香川県では平成19年1月1日から新旧対象表方式を導入しているが、併せて県報の電子化を行っており(香川県発表資料によると、岩手県愛媛県も県報の電子化を行っているとのことである)、理にかなったやり方であろう。
しかし、紙ベースで公報を発行する場合には、やはり重要な問題として残ってしまうのだが、この場合には、一部従来方式を残すことも考えられる*3。例えば、内閣法制局第一部長である山本庸幸氏は、『実務立法技術』で新旧対照表方式について肯定的な見解を述べられており、上記国会答弁における中央省庁等改革のような場合は「例外として従来方式を残す必要があるだろう」(P402)とされており、島田・論文によると鳥取県でも同様の扱いがなされているようである。
このように問題はあるものの、分量の問題は、従来方式と比較した場合の話であって、所詮程度問題であるとしか言えないのではないかと感じている。
2 新旧対照表に掲げた規定のすべてをチェックしなければいけないのか
新旧対照表方式については、新旧対照表に掲げた規定については改正に関係ない部分もチェックする必要があり、かえって事務が大変になるのではないかという意見を聞くことがある*4
しかし、現在新旧対照表方式を導入している自治体は、何らかの改め文を置くこととするのが一般的であり、そうすると「新旧対照表方式(下)」でも触れたように、改正がある条全体が新しい規定に置き換わると考えるのではなく、あくまでも改正する部分のみが置き換わると考えていることになるので、改正に関係ない部分は余事記載だと割り切るのであれば、仮にその部分に誤りがあったとしても問題はないことになるだろう。
3 その他
その他、上記国会答弁では、新旧対照表方式には、条項の移動が十分の表現できないなど技術上問題もあるとしている。これについては、追々触れていくが、私は、看過することができない程の支障はないのではないかと感じている。
以上により、私には、新旧対照表方式を否定する程の理由は見出せない*5
では、新旧対照表方式のメリットはどの程度あるのか、つまり慣例として定着している従来を改める程のメリットが本当にあるのかであるが、その点については次回取り上げる。

*1:掲示場への掲示による場合には、その分量をことさら問題にする必要はないように思う。

*2:同書は、以前は「公告式条例では、一般的には、「条例の公布は、市公報に掲載してこれを行う。」と規定されており、公報によって、広く住民一般に周知される方法がとられている。この場合、住民の利便性向上と業務効率化の観点から、公告式条例の規定を改正して、条例の公布をインターネットの市のホームページに公示するのであれば、公告式条例に基づく、条例公布の手続方法である以上、直ちに違法となることはないが、広く住民一般に周知される方法という点では、法の趣旨からも不適当であると考えられる。IT社会となり、各家庭におけるパソコンの普及が一般的になってきても、全ての市民がパソコンを利用しているとは考えられず、またインターネットへの接続等その導入費用等を含めて考えると、結果として、条例公布の状況を知り得る状態が、一部の市民に限定されてしまうおそれが強い。特に、条例、規則を一般住民の知り得る状態におくという法の趣旨が、条例公布の手続方法により阻害されることは、適切な公布の方法とはいい難いものである。広く住民一般に周知されること、さらには住民の利便性向上のためには、公告式条例に基づく、市公報への登載とは別に、いわゆる広報活動、PR活動としてのインターネットによる周知徹底を行うことが望ましいものと考えられる」として、違法ではないが不適当であるとしていた。

*3:どのような場合に従来方式によるのか、その基準が問題となるが、そのような基準が明確にされていない事項は従来方式にも見られるところである。

*4:この問題については、ほとんどの自治体でデータベース化がなされており、新旧対照表の作成機能もあるので問題ないとする考え方もある。私は、このような考え方は問題があると思っているが、ここでは触れない。

*5:まあ簡単に見出せるのであれば、導入する自治体もないのだろうが。