自治体等は罰則の対象となるか

行政法規において罰則を設けた場合には、併せて罰則規定を設けて法人等も処罰することとするケースが最近は多い。この法人等に国や自治体を含めることも可能なのだろうか。
例えば、補助金適正化法においては、次のとおり両罰規定を置きつつ、国や自治体については罰則規定の適用を除外する規定をおいている。

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律
32条 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定のあるものを含む。以下この項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前3条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、当該法人又は人に対し各本条の罰金刑を科する。
2 前項の規定により法人でない団体を処罰する場合においては、その代表者又は管理人が訴訟行為につきその団体を代表するほか、法人を被告人とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。
第33条 前条の規定は、国又は地方公共団体には、適用しない。
2 国又は地方公共団体において第29条から第31条までの違反行為があつたときは、その行為をした各省各庁の長その他の職員又は地方公共団体の長その他の職員に対し、各本条の刑を科する。

なぜ国や自治体について適用を除外しているかについて、次のような記載がある。

○ 補助金適正化法をみると、同法の両罰規定は、国又は地方公共団体には適用しないと書いてある。国や地方公共団体も立派な法人である。それにもかかわらず除外されているのは、国については刑罰権の主体であるので、刑罰権の主体が自らを処罰するのは自己矛盾であるという考えであろう。一方、地方公共団体のほうは刑罰権の主体ではないので、一般的には処罰の対象となりうるものの、公権力の主体であるという性格にかんがみ除いたように思われる。そうすると、この規定は、国についてはもともと除かれていることを確認的に書いたもので、地方公共団体についてはもともとは含まれるものを積極的に除いたものということになる。ところで、このように考えると、地方公共団体は一般には両罰規定の対象となるわけであるが、地方公共団体の制定した条例に両罰規定があるときは、刑罰権自体は国にあるとしても、先程の国に関する考えを推し進めると、自分の制定した条例によってその制定権者が処罰されるのは疑問となるし、また、その地方公共団体と同等以上の地方公共団体を処罰できるかどうかも疑問となる。(伊藤栄樹ほか『罰則のはなし』(古田佑記氏記載))
○ 適正化法は、補助金犯罪に関して、一般に、法人については、両罰規定を用意しつつ(32条1項)、国又は地方公共団体には、これを適用しないこととし、かわりに、行為をした「各省各庁の長その他の職員又は地方公共団体の長その他の職員に対し、各本条の刑を科する」こととしている(33条)。自治体は、行政作用をなす立場にあり、かつ、自治体に対して罰金刑を科しても、結局は、住民の負担に帰してしまうことによると言われている。(碓井光明『要説自治体財政・財務法(改訂版)』(P74〜))

上記の見解によると、自治体がその固有の資格において行う事務等について違法な行為が行われた場合には自治体等を罰則の対象とすべきでないということになるであろうが、自治体等が民間の企業等と同じ立場に立つ場合において行う事務等について違法な行為が行われた場合には自治体等を罰則の対象とすることは許容しているようにも見える。
私は、上記の「自治体に対して罰金刑を科しても、結局は、住民の負担に帰してしまうことによる」という部分に共感を覚えることもあって、どちらの場合も自治体等を処罰する意味はないのではないかと感じているのだが、後者の場合に、条例の規定上ことさら自治体等を除外する必要もないのではないかと思っている。