法令で委任された事項を定める例規〜消防法第9条の2第2項(3)

(「ある自治体の条例について考える」の続き)
2 条例第29条の2(政令第5条の6に対応)

(住宅用防災機器)
第29条の2 住宅……の関係者(住宅の所有者、管理者又は占有者をいう。)は、次条及び第29条の4に定める基準にしたがつて、次の各号のいずれかの住宅用防災機器を設置し、及び維持しなければならない。
(1) 住宅用防災警報器……
(2) 住宅用防災報知設備……

政令第5条の6をほぼそのまま書いているが、結論から言うと不要な規定である。
法第9条の2第1項は「関係者は、『住宅用防災機器(政令で定めるものをいう。)』の設置及び維持に関する基準に従って、〜しなければならない」とし、その基準を同条第2項で条例に委任しているのである。しかし、条例第29条の2が書いているのは、設置しなければいけない住宅用防災機器の種類であって、基準ではない。
つまり、条例への委任の根拠規定は法第9条の2第2項であり、「政令で定める基準に従い条例で定める」とされているのだが、その政令で定める基準は、第5条の7と第5条の8で定められている。これに対し、政令第5条の6は、法第9条の2第1項の「政令で定める」を受けて規定されているものであり、これに関して条例で委任している部分はないのである。
このように法令による委任事項を定める場合には、単純かつ形式的に法令を見ていけば、おのずと何を条例で書かなければいけないかということは判断できるのである。
もちろん、この規定があっても、何が問題があるわけではないが、法令の下請けの例規は、その法令と併せて読むものである以上、このような余事記載は原則として書くべきではないだろう。
なお、余談だが、法第9条の2を見ていて気になったが、同条は、

第9条の2  ……関係者は、次項の規定による住宅用防災機器……の設置及び維持に関する基準に従つて、住宅用防災機器を設置し、及び維持しなければならない。
2 住宅用防災機器の設置及び維持に関する基準その他住宅における火災の予防のために必要な事項は、政令で定める基準に従い市町村条例で定める。

とされているが、

第9条の2  ……関係者は、住宅用防災機器……の設置及び維持に関する基準に従つて、住宅用防災機器を設置し、及び維持しなければならない。
2 前項の住宅用防災機器の設置及び維持に関する基準その他住宅における火災の予防のために必要な事項は、政令で定める基準に従い市町村条例で定める。

としてもよさそうである。第1項だけ見た場合に、「○○の基準」というだけではよく分からないので、「次項の規定による」としたのであろうか。
3 条例第29条の3

(住宅用防災警報器の設置及び維持に関する基準)
第29条の3 住宅用防災警報器は、次に掲げる住宅の部分(第2号から第5号までに掲げる住宅の部分にあつては、令別表第1(5)項ロに掲げる防火対象物又は(16)項に掲げる防火対象物の住宅の用途に供される部分のうち、専ら居住の用に供されるべき住宅の部分以外の部分であつて、廊下、階段、エレベーター、エレベーターホール、機械室、管理事務所その他入居者の共同の福祉のために必要な共用部分を除く。)に設けること。
(1) (略)
(2) 前号に掲げる住宅の部分が存する階(避難階……を除く。)から直下階に通ずる階段(屋外に設けられたものを除く。以下この条において同じ。)の上端
(3) 前2号に掲げるもののほか、第1号に掲げる住宅の部分が存する階(避難階から上方に数えた階数が2以上である階に限る。)から下方に数えた階数が2である階に直上階から通ずる階段の下端(当該階段の上端に住宅用防災警報器が設置されている場合を除く。)
(4) 第1号及び第2号に掲げるもののほか、第1号に掲げる住宅の部分が避難階のみに存する場合であつて、居室が存する最上階(避難階から上方に数えた階数が2以上である階に限る。)から直下階に通ずる階段の上端
(5) 前4号の規定により住宅用防災警報器が設置される階以外の階のうち、床面積が7平方メートル以上である居室が5以上存する階(この号において「当該階」という。)の次に掲げるいずれかの住宅の部分
ア〜ウ (略)
2 住宅用防災警報器は、天井又は壁の屋内に面する部分(天井のない場合にあつては、屋根又は壁の屋内に面する部分。この項において同じ。)の次のいずれかの位置に設けること。
(1) 壁又ははりから0.6メートル以上離れた天井の屋内に面する部分
(2) 天井から下方0.15メートル以上0.5メートル以内の位置にある壁の屋内に面する部分
3 住宅用防災警報器は、換気口等の空気吹出し口から、1.5メートル以上離れた位置に設けること。
4 住宅用防災警報器は、次の表の左欄に掲げる住宅の部分の区分に応じ、同表の右欄に掲げる種別のものを設けること。(表略)
5 住宅用防災警報器は、住宅用防災警報器等規格省令に定める技術上の規格に適合するものでなければならない。
6 住宅用防災警報器は、前5項に定めるもののほか、次に掲げる基準により設置し、及び維持しなければならない。
(1) 電源に電池を用いる住宅用防災警報器にあつては、当該住宅用防災警報器を有効に作動できる電圧の下限値となつた旨が表示され、又は音響により伝達された場合は、適切に電池を交換すること。
(2) 電源に電池以外から供給される電力を用いる住宅用防災警報器にあつては、正常に電力が供給されていること。
(3) 電源に電池以外から供給される電力を用いる住宅用防災警報器の電源は、分電盤との間に開閉器が設けられていない配線からとること。
(4) 電源に用いる配線は、電気工作物に係る法令の規定によること。
(5) 自動試験機能(住宅用防災警報器等規格省令第2条第5号に規定するものをいう。次号において同じ。)を有しない住宅用防災警報器にあつては、交換期限が経過しないよう、適切に住宅用防災警報器を交換すること。
(6) 自動試験機能を有する住宅用防災警報器にあつては、機能の異常が表示され、又は音響により伝達された場合は、適切に住宅用防災警報器を交換すること

 (1) 第1項(政令第5条の7第1項、省令第4条に対応)
  ア 政令別表第1の(16)項の引用は、同表(16)項とする必要がある(省令もミスだと思われる)。
  イ 「の上端」は削る(1(3)(「法令で委任された事項を定める例規〜消防法第9条の2第2項(2)」)参照)。
  ウ 第3号及び第4号で「○○に掲げるもののほか」としている。政令第5条の7第1項第1号ハが「イ又はロに掲げるもののほか」と書いているのを真似たのだと思うが、これは各号等で一定の事項を列挙した場合に、その末号等で一部を下位規範に委任するときの定番の書き方ある。したがって、第1号と第2号で記載した事項と重なっている部分がなければ、こうした文言は不要である。こういった部分は、原課にきちんと確認してもらう部分だと思うが、私が素人目で見る限りでは、重なりはない感じである。
  エ 第5号の「前4号」は「前各号」である。
 (2) 第2項(省令第7条第2号に対応)
  ア 別条とする。なお、省令第7条第1号は、条例では第1項第2号で併せて整理していたが、ここで書くこととする。いずれも、1(3)(「法令で委任された事項を定める例規〜消防法第9条の2第2項(2)」)参照
  イ 柱書きの「この項」の前には「以下」が必要(省令第7条第2号柱書きの部分もミスだと思われる)。なお、「以下」と書くかどうかについて、上田章ほか『条例規則の読み方・つくり方』(P255)では、「以下」と書く場合と書かない場合を例示した後、次のように記載されている。

これらの用例をみると、表現上「以下この……」と続く場合と、意味的に、「ここから」という内容を含む場合に限って、「以下〜」とするのが原則であることがわかる。

 (3) 第3項(省令第7条第3号に対応)
別項にする必要がないので、(2)とまとめて書く。
 (4) 第4項(省令第7条第4号に対応)
(3)と同じ。
 (5) 第5項
これも不要の規定である。
この「住宅用防災警報器等規格省令」は、「住宅用防災警報器及び住宅用防災報知設備に係る技術上の規格を定める省令」の略称として用いているものだが*1、この省令は、政令第5条の6の「総務省令で定める技術上の規格」であるため、条例第29条の2と同様、書かずもがなの規定である。
 (6) 第6項(省令第7条第5号から第10号までに対応)
(3)と同じ。

*1:条例の引用では、省略している部分にある