未公布の法律の引用の可否

条例において未公布の法律を引用し、当該法律の法律番号を空白としたまま公布した後に、当該法律が成立し、公布された場合に、その法律番号をどのように補完するかについて、洋々亭さんのサイト(http://www.hi-ho.ne.jp/tomita/yybbs/)で議論されているが、私は、通常の自治体であれば、空白の法律番号を補完するということ以前に、そもそも未公布の法律を引用することが想定できないのではないかと考えている。
法律のレベルでは、未公布の法律を引用することは多くあるわけだが、そのことに関する国会答弁として次のようなものがある。

私ども各国会に法案を出します場合に、いろいろな政策目的からいろいろな法案を出しまして、その中で関連性がある場合がかなりございます。そういう場合におきまして、本件の御質問の場合ですと、銀行法はいま全部改正の法案を出しておるわけでございますが、その場合にどういう措置をとるかと申しますと、私どもとしては、先に閣議決定をいたしますものについては、それを前提といたしまして次の一部改正法案の作業をするということになります。したがいまして、今回もそういう考え方で商法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律案につきましても御指摘の条文をつくったわけでございます。(昭和56年5月12日第94回国会衆議院法務委員会・関内閣法制局第二部長答弁)

自治体においてこの考え方をそのまま当てはめることができるのは、ある条例の規定中に引用された条例が未公布のため、その条例番号を空白とした場合であって、公布する段階で引用された条例が未公布のようなときである。
そして、引用された条例がその後に公布された場合には、次のように引用された未公布の法律がその後公布されたため、空白の法律番号を補完する場合に官報の正誤欄に次のように掲載がなされることに準じて、同様の扱いをすればよいのであろう(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P26)参照)。

平成16年3月31日(号外特第5号)公布法律第14号所得税法等の一部を改正する法律中、第1条(所得税法の一部改正)中の第224条の4の追加規定、第3条(登録免許税法の一部改正)中の別表第1第24号の2の追加規定及び附則第1条第5号中「信託業法(平成16年法律第  号)」は、平成16年12月3日信託業法の公布により「信託業法(平成16年法律第154号)」となった。(平成16年12月21日第4000号)

では、条例において、未公布の法律を引用する場合があり得るのだろうか。
法律の場合に上記の扱いが許されるのは、空白の部分が引用された法律の法律番号を示すことは明白であり、立法者の意思が確定しているからであるとしている(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P27)参照)。他方、引用した未公布の法律が廃案となり、その後の国会で再提出された場合には、先に公布された法律の改正を行うこととされているが、この場合には上記のように解することができないからだとしている(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P27〜)参照)。しかし、私は、実質的には両者にあまり違いはないように感じられ、そのように考えると同様に官報の正誤欄で対応することとしてもよいのだろう。しかし、そのようにしないのは、むしろ容易に空白の法律番号を改めることができるからではないかと思う。
そうすると、例えば年度末の税法の改正に基づく税条例の改正について、専決処分で対応するのでなく、あくまでも議会の議決を経ようとするのであれば、税法が国会で可決されることを前提として未公布の法律を引用して自治体の議会へ提出して議決されたが、公布の時点でなお引用された法律が公布されていなければ、法律番号を空白のまま公布せざるを得ないし、その後法律が公布されれば、その法律番号を補完する方法としては、上記の方法以外に適当なものは考えられないであろう。
しかし、専決処分で対応するのであれば、税法が公布されたが、それが施行されるまでに条例改正を行うには時間的余裕がないことをもって、地方自治法第179条第1項の「特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかである」ものと判断するのであろうから、その場合には、形式的には未公布の法律を引用するということがあり得ないことになる。
したがって、通常専決処分という手段を用いる自治体においては、未公布の法律を引用することがほとんど想定できないのではないだろうか。