「法制執務詳解」の改訂に際して

やや時機を逸した感がありますが、「法制執務詳解」の改定版が発刊されたので、同書について触れることとします。
法制執務に関連した書籍で私が個人的に好きなものを挙げろと言われれば、法制執務研究会「新訂ワークブック法制執務」、大島稔彦「法令起案マニュアル」、長谷川彰一「改訂法令解釈の基礎」の3冊を挙げます。
なぜこの3冊かということについては、ここでは深く触れませんが(なお、「ワークブック法制執務」に関しては、2007年12月7日付け記事同月22日付け記事で取り上げたことがあります)、自治体においても、法律・政令の立案を参考とするのであれば、やはり法制局(「法令起案マニュアルは、参議院法制局)の経験者の執筆による書籍の方がよいと思うのが一つの理由です。
さらに、私の場合、法制執務の知識については、最初はOJTで得た部分が大きかったため、理解するためというよりも、辞書的なものを求める傾向があったのだと思います。
逆に言うと、書籍を中心にして法制執務を学ぼうとするのであれば、これらの書籍は、あまり適当ではないのかもしれません。むしろ、「ワークブック法制執務」と「法令起案マニュアル」に代えて「法制執務詳解」を用いた方が理解しやすいと思います。
私が「法制執務詳解」がよいと思う点は、ある事項を説明するために、できるだけ多くの事例を紹介している点です。例えば、一部改正の例規で施行日を書き分ける場合の改正規定の捉え方について、同書は15事例ほど挙げていますが(P184〜)、このような記載をしているものは、他にはあまり見たことがありません*1
ただし、事例を多く挙げている分、ローカルルールが結構含まれているので、その点は注意が必要だと思います。例えば、上記の改正規定の特定について、同書は、別表○○の項の次に△△の項を追加する改正規定について、「別表に△△の項を加える改正規定」という特定の仕方をしています(P186)。しかし、法令では、「別表○○の項の次に次のように加える改正規定」とする例(別表の号の例であるが、所得税法等の一部を改正する法律(平成17年法律第21号)附則第1条第2号イ参照)や「別表○○の項の次に1項を加える改正規定」とする例(国立国会図書館法の一部を改正する法律(平成20年法律第20号)附則参照)もあり、必ずしも統一はされていません。ちなみに、これらはどれも一長一短があるかと思いますが、一般的な改正規定の捉え方のルールからすると、私は「別表○○の項の次に次のように加える改正規定」とするのがよいのではないかと思っています。なお、余談ですが、国際捜査共助法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律(平成16年法律第89号)は、第1条で国際捜査共助法本則の末尾に第3章と第4章を加えており、この改正規定を「第1条中国際捜査共助法に第3章と第4章を加える改正規定」としており、これは上記の同書の考え方に近いということができるでしょう。しかし、私は「第1条中国際捜査共助法本則に2章を加える改正規定」とする方が素直だと思います。
さらに、記述が一環していない部分もあります。例えば、以前、語句の改めと条の移動が混在する場合にどこで文章を区切るかについて取り上げたことがありましたが(2006年10月14日付け記事「条を移動させる改正を行う場合の改め文の区切り方」)、これも法令では統一的な扱いはされていません。しかし、同書(P342〜)では、次のようにすることとして、併せて注意書きをしています。

例1
 (略) 
第9条中「……」の次に「……」を加え、「……」を削り、同条を第8条とし、第10条を第9条とする。
 (略)
* 例1において第10条を第9条とする繰上げは、第10条中に字句の改正がなく単に繰り上げるだけであるから、これをわざわざ条単位で独立させ一つの改正規定で処理する必要はない。このような場合には、第9条の改正に続けることとされている。

この考え方自体には、特に反対するものではないのですが、同書(P318〜)には次のような記載例もあります。

例 
第6条を削る。 
第5条中「……」を「……」に改め、同条を第6条とし、第4条の次に次の1条を加える。 
(……)
第5条 …… 
第8条中「……」を「……」に改め、同条を第9条とする。 
第7条を第8条とし、同条の前に次の1条を加える。 
(……)
第7条 ……

上記の注意書きからすると、第7条を第8条とし、同条の前に1条を加える改正規定は、その前の改正規定と併せて「第8条中「……」を「……」に改め、同条を第9条とし、第7条を第8条とし、同条の前に次の1条を加える。」とすべきではないでしょうか。
しかし、このような点に気をつけると、同書は、事例を紹介するだけではなく著者の意見が多く記載されているので、理解に資する部分も多いと思います。
そして、なにより著者は自治体関係者であり、自治体職員を対象に書かれているということは、同書の大きな魅力でしょう。
同書のはしがきに「本書はそろそろフェードアウトしようと思うことも多い」とありますが、まだまだ改訂を重ねて欲しいものです。

*1:現在は入手できませんが、「立法技術入門講座」は詳細な記載がされていたという印象があります。