新旧対照表の分かりやすさとは(中)

(「1 議員にとっての新旧対照表の有用性」の続き)
次に、自治体における取扱いであるが、新旧対照表を資料として議会に提出している自治体もあるということはよく耳にすることである。他方、議会に提出していない自治体も相当数あるであろう。
条例案について、ある程度逐条審査をするのであれば、新旧対照表というものは必要になってくると思う。しかし、現実には、議会に提出していないのであれば逐条審査は行われていないのであろうし、提出している自治体であっても、単なる参考資料として提出しているだけであって、必ずしも新旧対照表を用いて逐条審査を行っているとは言えないだろう。実際問題として、自治体の場合は、議会の会期がそれ程長くないのが一般的であるため、なかなか逐条審査を行うということは難しいようにも思う。
ちなみに私の自治体では、新旧対照表を議会に正式な資料としては提出していない。新旧対照表については、条例案提出の決裁前に例規審査委員会を開催しているが、その際の資料には原則として提出することになっている。そして、例規審査委員会の資料は、参考として議会事務局にも渡すことが慣例となっているので、新旧対照表が議員にわたっていることもあるのかもしれない(実はその辺りのことは、確認したことがない)。しかし、議案としては、改め文のみである。そして、委員会審議の際には、条例案の概要を1枚程度のペーパーにまとめ、それを資料として提出し、それに基づいて説明するのが通常である。
一般的な傾向として、例規の案の説明等をしようとする場合には、文字ばかりの資料より、図表等の入った資料が好まれるような状況にあるのではないだろうか。国においても、国会審議の便宜等に供されるいわゆる「白表紙」には、「ポンチ絵」と呼ばれる図表等が入れられることもあるようであるが(山本庸幸『実務立法演習』(P454)参照)、それもその傾向を表しているということができるだろう。
このような状況の良し悪しは別として、こうした傾向からすると、現実としては議員にとっての新旧対照表の有用性もそれ程大きいものとはいえないであろう。
もちろん、議員から新旧対照表の提出要求があることもあるであろうし、その場合はもちろん提出すべきであろうが、所詮参考資料程度の位置付けで十分ではないだろうか。
2 住民にとっての新旧対照表の有用性
私は、住民にとって新旧対照表の有用性はほとんどないのではないかと思っている。
もちろん、住民にとっても改め文よりも新旧対照表のほうが分かりやすいことは事実であろう。しかし、そもそも例規自体が難解であり、住民に対しては、例規に関心を持たれていないということが一般的であろうから、新旧対照表があろうがなかろうが関係がないというのが実際のところなのではないか。
もちろん、このような状況は適当ではなく、例規を分かりやすいものにし、住民に関心を持ってもらうように努めることが重要であるが、そのためには、例規の改正方法を改めるよりも、例規自体を平易なものにすることや、ほとんど目にされることのない公報への登載や掲示板への掲示といった条例等の公布の方法を改めるのが先ではないかと感じる。
実際には、条例等の広報は、各戸に配布する広報誌などで分かりやすく説明がなされていると思う。もちろん、それが十分とは言えないだろうが、現状としてはその程度でもやむを得ないのではないだろうか。いずれにしろ、住民にとって新旧対照表云々ということは、時期尚早なのではないかと感じている。