新旧対照表の分かりやすさとは(上)

新旧対照表は、例規の規定のどこが変わるか、またその規定がどのように変わるのかといった観点からみると、改め文よりも分かりやすいということは否定できない。
しかし、そのことから直ちに改正方式まで新旧対照表方式に改めべきということになるのであろうか。
そこで、まずその分かりやすさが具体的にどのような有用性があるのか、議員と住民とに分けて考えてみることとし、そのことから分かりやすさを理由として新旧対照表方式を導入することの是非について考えてみることにしたい。
1 議員にとっての新旧対照表の有用性
法律や条例を審議する場においては、新旧対照表が活用されている例もあり、その意味で議員にとっては、新旧対照表に一定の有用性があることは否定できないであろう。
まず、国の取扱いについてだが、内閣提出の法律案の場合、次のように新旧対照表が資料として作成されている。

内閣提出法律案の場合は、「提案理由説明」を作成し、これを閣議資料にも用いられるいわゆる5点セット(法律案(条文)、理由、要綱、新旧対照条文、参照条文)に加えて綴り込んだ冊子*1を作成して国会審議の便宜に供する。(大森政輔ほか『立法学講義』(P169)(榊正剛氏執筆))

そして、新旧対照表は、実際に国会の審議に用いられることもあるようである。
やや古い例であるが、政府からの説明が新旧対照表を用いて逐条的になされることもあり*2、また、新旧対照表の提出要求がなされている例もある*3*4
なお、議員提出の法案で、新旧対照表の提出に関し、次のようなやり取りがされている例もある。

○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。 
 きょうは自民党が提案をしております政治資金規正法改正法案を中心にして質問をしたいと思います。
 最初に、提案者を代表する塩川委員にお聞きしたいのです。
 自民党の改正法案では、政治資金規正法第1条「目的」についても改正しております。現行法の改正される部分と自民党がお出しになっております改正法第1条のところをちょっと読みますので、聞いてみてください。現行政治資金規正法第1条の一部です。「この法律は、」「政治団体の届出並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の収支の公開及び授受の規正その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もって民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする。」
 ところで、自民党から出ている規正法一部改正法案、最初です。「第1条中「並びに政治団体及び公職の候補者」を「、政治団体」に、「公開及び」を「公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の」に改める。」こういう文章ですね。法改正でありますから、非常に技術的であり、わかりにくいと思うのですが、率直に言って、この改正法の文章だけを読んで、どこがどう変わるのかわかるでしょうか。
○塩川議員 ちょっとそれだけ聞いたらわかりませんな。
○木島委員 わからないで当然だと思うのですね。本当に改正法の1条を理解するためには、現行法の全文、そしてどこがどう変わるかの、かわって新しくつくられる改正法案の全文、これを両方きちっと読んで、そして全文の意味を正しく体して初めてわかるわけであります。必ず改正法には新旧対照表が、閣法の場合につけられるのは当然なんですね。
 端的にいいまして、ここは何が変わるかというと、公職の候補者、これは政治家と読みかえてもいいかと思います、公職の候補者についての公開ということが削除されてしまった、削除されるということに尽きるわけです。現行法第1条では、公職の候補者いわゆる政治家についての公開の規定が入るわけですが、それが落とされたわけです。なぜ落とされたかといいますと、自民党の提案理由によりますと、今改正法によりまして候補者いわゆる政治家の指定団体、それから保有金、この制度がなくなるから、候補者個人いわゆる政治家は政治資金を原則としては手にすることはないから公開も必要ないんだ、そういう理念からこの1条の条文を変えてしまった、変えたわけだと推察をするわけであります。そういう解説をつけないとこの1条の改正はわからない。
 私は理事会で、委員長初め自民党提案者に対して、新旧対照表は実質的な質疑をやるにも必要だということで再三求めているわけでありますが、いまだに新旧対照表を提案なされようとしません。まことにこれは不当な態度だと思いますので、引き続き、委員長におかれましては、提案者から新旧対照表を提出されますように求めたいと思うわけであります。
(第126回国会衆議院政治改革に関する調査特別委員会第11号・平成5年4月26日)

*1:この冊子は、「白表紙」と呼ばれているようである(山本庸幸『実務立法演習』(P454)参照)。

*2:第24回国会参議院社会労働委員会第14号(昭和31年3月9日、第15回国会衆議院大蔵委員会第24号(昭和28年2月10日)ほか

*3:第15回国会参議院大蔵委員会第27号(昭和28年3月3日)ほか

*4:このような事実があるということは、かつては必ず新旧対照表が資料として提出されていたわけではないのであろう。