新旧対照表の分かりやすさとは(下)

3 分かりやすさを理由として新旧対照表方式を導入することの是非
例規の一部改正の方法として新旧対照表方式を導入することに関する私の考え方は、あえて否定も肯定もするものではないが、これは以前と変わっていない(2008年3月1日付け記事「続・新旧対照表方式(3)〜メリット・デメリット(その3)」参照)。
しかし、分かりやすさという観点のみで導入しようとするのであれば、これまで記載したとおり、新旧対照表に格別の有用性があるとは考えられないので、賛同しかねる面がある。単純に分かりやすいから例規の改正方式を新旧対照表方式にするのだというのは、何か恩着せがましいところを感じる。
ただし、分かりやすさということを直接の目的にするのでなく、分かりやすさゆえに、一定の意図を持って導入しようとするのであれば、それはそれで一つの考え方ではあると思う。
例えば、初めて新旧対照表方式を導入した鳥取県における当時の片山善博知事の考え方は以前取り上げたことがあるが(2008年1月19日付け記事「新旧対照表方式(上)」参照)、その著書『市民社会地方自治』(P46)にも記載があるので、改めてそちらの方を引用する。

それまでの税条例を含めた条例の改正は、改正の際に『「……」を「……」に改める』とする一部改正方式によっていた。この改正方式は改正する部分を特定できる利点はあるものの、その内容は実にわかりにくく、改正案を議会に提出しても議員がそれを理解しないまま可決し、県公報にそのまま掲載されるのを通例としていた。しかし、自治の主人公である住民やその代表である議員が理解もしなければ一瞥もしないようなやり方でよいのかと疑問に思い、2000年から従来の改正方式を一変させることとしたのである。
それは、実に簡単なやり方で、条例の改正前と改正後の条文を左右に対比させる改正方式であり、これが改正本文としてそのまま県公報にも掲載されるのである。そうすることで、条例のどの条文のどの部分が改正されたかが一目瞭然となり、議員も条例改正文をよく見るようになったのである。また、条例改正などの法制執務の作業は、一部の特殊な専門的知識を持っている人の職人芸のような領域とみなされていたが、改正方式の変更により誰もが法制執務に近づくことを可能とした。

上記によると、鳥取県における新旧対照表方式の導入は、議員の審議の便宜を一つの理由としていたことがうかがえる。片山前知事は、議会改革の必要性についても持論として有していたため(前掲書(P119〜)参照)、あえてこのような改正方式を導入するということを考えたのではないだろうか。
つまり、議案そのものに関心を持たせ、ひいては議員自身も条例の立案ができるようにということまで想定して導入するというのであれば、それは一つの考え方だとは思う。
しかし、私は、現状としては、なお改正方式まで新旧対照表方式に改める必要性というものは感じられない。議員が自ら立案することを考えるのであれば、それを機関として補佐すればいいのではないかと思ってしまう。やはり、今後、新旧対照表方式の導入が進むのであれば、建前はともかく、本音は分かりやすさということとは別の理由によるのではないかと感じている。