いわゆる「渡り政令」について
公務員制度改革:「渡り」政令に与野党から批判の声
国家公務員OBが省庁のあっせんで天下りを繰り返す「渡り」を、首相の承認で可能とした政令について、与野党から批判する声が強まっている。自民党の石原伸晃幹事長代理は19日、「党に相談しなかった手続きに瑕疵(かし)がある」として、政府に政令の撤回を申し入れた。同党内からは、渡りを禁止する議員立法の動きも出ており、政府と与党の亀裂が深まっている。
19日に国会内で開かれた政府と自民党幹部との会合で、石原氏は「(政令を)党に戻してくれ」と迫った。政令は既に閣議決定しており、河村建夫官房長官は同日午後の記者会見で「現時点で政令を見直す考えはない」と述べ、応じる考えはないことを強調した。
同党の衛藤征士郎衆院予算委員長は17日のテレビ番組で、「渡りを認めない議員立法を用意する」と述べ、渡り廃止法案を今国会に提出する考えを示した。ただ、議員立法に対しても、河村氏は「全部ひっくり返すような議員立法を作るのかどうか、かなり議論が必要になる。おいそれと即議員立法といくだろうか」と懐疑的な見方を示した。
一方、民主党も攻勢を強めている。19日の参院予算委員会では蓮舫議員が「政令を廃止するという閣議決定をすればいい」と主張。麻生太郎首相は「法律(改正国家公務員法)で3年間の天下り、渡りは認められている。政令で天下りを認めたわけではない」と述べ、改めて政令を見直す考えがないことを強調した。(毎日新聞2009年1月19日配信)
(http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090120k0000m010028000c.html)
いわゆる「渡り」について、私は肯定するわけではない。しかし、上記の記事でいわれている問題のそもそもの発端は、国家公務員法等の一部を改正する法律(平成19年法律第108号。以下「改正法」という。)による改正後の国家公務員法に規定された再就職等監視委員会の委員長及び委員が国会同意人事になっているにもかかわらず、国会において同意がなされないことによる。つまり、法律に定められた事項を遵守するために国会議員はその委員等を選任するよう努力すべきであるのに、そのようなことをしないことが問題なのであるから、一般に報道等でなされている批判は筋違いだと感じている。
ただ、そのようなことはここでは触れず、立法技術的な部分について個人的に興味を引くことがあったので、その点に限って取り上げてみることにしたい。
違法ではないかと言われているのは、職員の退職管理に関する政令附則第21条の規定であると思われるが、その規定と関係規定を次に掲げる。
職員の退職管理に関する政令(平成20年政令第389号)
附 則
(委員長等が任命されるまでの間の経過措置)
第21条 改正法の施行の日から委員会の委員長及び2名以上の委員が最初に任命されて法第18条の4……の規定並びに改正法附則第5条第2項及び第3項の規定が適用されるに至るまでの間、法第100条第5項……の規定、改正法附則第5条第4項の規定……の適用については、……改正法附則第5条第4項中「委員会が第2項の規定により委任を受けた権限に基づき行う承認(前項の規定により委任を受けた権限に基づき再就職等監察官が行う承認を含む。)」とあるのは「内閣総理大臣が第1項の規定により行う承認」と、「、委員会」とあるのは「、内閣総理大臣」と……し、第11条、第24条及び附則第17条の規定は適用しない。
2 前項の規定により読み替えて適用される法、改正法及びこの政令の規定により、内閣総理大臣がした承認その他の行為又は内閣総理大臣に対してされた承認の申請その他の行為は、委員会の委員長及び2名以上の委員が最初に任命された時以後においては、同項の規定の適用がないものとした場合における相当規定により、委員会若しくは監察官がした承認その他の行為又は委員会若しくは監察官に対してされた承認の申請その他の行為とみなす。
国家公務員法等の一部を改正する法律(平成19年法律第108号)
附 則
(他の役職員についての依頼等の規制の特例)
第5条 前条第1項に規定する政令で定める日*1までの間、公務の公正性の確保を図りつつ職員又は特定独立行政法人の役員(以下この項において「役職員」という。)の離職後の就職の援助を行うための基準として政令で定める基準に適合する場合において、政令で定める手続により内閣総理大臣の承認を得て、職員が当該承認に係る他の役職員又は役職員であった者を当該承認に係る営利企業等(営利企業及び営利企業以外の法人(国、国際機関、地方公共団体、特定独立行政法人及び地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第2項に規定する特定地方独立行政法人を除く。)をいう。以下この項及び次条において同じ。)又はその子法人(当該営利企業等に財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(株主総会その他これに準ずる機関をいう。)を支配されている法人として政令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)の地位に就かせることを目的として当該営利企業等に対し、当該役職員若しくは役職員であった者に関する情報を提供し、若しくは当該地位に関する情報の提供を依頼し、又は当該営利企業等若しくはその子法人の地位に就くことを要求し、若しくは約束するときは、第1条の規定による改正後の国家公務員法(次条において「改正後の法」という。)第106条の2の規定は、適用しない。
2 前項の規定による内閣総理大臣が承認する権限は、再就職等監視委員会(以下「委員会」という。)に委任する。
3 前項の規定により委員会に委任された権限は、政令で定めるところにより、再就職等監察官に委任することができる。
4 委員会が第2項の規定により委任を受けた権限に基づき行う承認(前項の規定により委任を受けた権限に基づき再就職等監察官が行う承認を含む。)についての行政不服審査法(昭和37年法律第160号)による不服申立ては、委員会に対して行うことができる。
(その他の経過措置の人事院規則等への委任)
第16条 附則第4条から前条までに定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)で定める。
2 (略)
改正後の国家公務員法
(他の役職員についての依頼等の規制)
第106条の2 職員は、営利企業等(営利企業及び営利企業以外の法人(国、国際機関、地方公共団体、特定独立行政法人及び地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第2項に規定する特定地方独立行政法人を除く。)をいう。以下同じ。)に対し、他の職員若しくは特定独立行政法人の役員(以下「役職員」という。)をその離職後に、若しくは役職員であつた者を、当該営利企業等若しくはその子法人(当該営利企業等に財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(株主総会その他これに準ずる機関をいう。)を支配されている法人として政令で定めるものをいう。以下同じ。)の地位に就かせることを目的として、当該役職員若しくは役職員であつた者に関する情報を提供し、若しくは当該地位に関する情報の提供を依頼し、又は当該役職員をその離職後に、若しくは役職員であつた者を、当該営利企業等若しくはその子法人の地位に就かせることを要求し、若しくは依頼してはならない。
2*2 前項の規定は、次に掲げる場合には適用しない。
(1)・(2) (略)
(3) 官民人材交流センター(以下「センター」という。)の職員が、その職務として行う場合
3・4 (略)
改正法附則第5条の関係に限っていうと、政令附則第21条第1項の規定は、私だったらまず、次のように同条第2項及び第3項は適用しないと書いて、必要な読替えを書くことを考えてしまうかもしれない。
改正法の施行の日から委員会の委員長及び2名以上の委員が最初に任命されるまでの間は、改正法附則第5条第2項及び第3項の規定は、適用しない。この場合における同条第4項の規定の適用については、同項中「委員会が第2項の規定により委任を受けた権限に基づき行う承認(前項の規定により委任を受けた権限に基づき再就職等監察官が行う承認を含む。)」とあるのは「内閣総理大臣が第1項の規定により行う承認」と、「、委員会」とあるのは「、内閣総理大臣」とする。
この書き方は、改正法が想定している再就職等監視委員会の委員等が選任されないため、それを前提とした改正法附則第5条第2項及び第3項は適用しないのだと政令で書き込むことになる。法が想定していない事実があるため、それを施行するためにはやむを得ないということで、これでも違法ということはないとは思う。ただ、政令の根拠規定が改正法附則第16条第1項であるとすると、この書き方では委任の範囲を越えているのではないかという批判は受けざるを得ないとも感じる。
しかし、政令は、そのような書き方をせず、その委員等が選任されない以上、そもそも改正法附則第5条第2項及び第3項は適用されないことは当然だという前提で、改正法を施行するために所要の読替えを書いている。もちろん、ここでも一定の解釈が含まれているので、その解釈の是非について批判することは考えられるが、現在なされている政令が法律違反だという批判はピントはずれなものであり、立案者にとっては、痛くもかゆくもない批判なのではないだろうか。