非常勤の行政委員の報酬が月額制であることについて
行政委員の報酬、「月額制」ダメ 滋賀県に差し止め命令
滋賀県が労働、収用、選挙管理の各行政委員会の委員に支払う報酬をめぐり、毎月定額を支給するのは地方自治法に違反するとして、滋賀弁護士会の吉原稔弁護士(68)が、県に報酬を支払わないように求めた訴訟の判決が22日、大津地裁であった。石原稚也(ちがや)裁判長は「勤務実態を前提とする限り、月額報酬を支給する規定は法の趣旨に反し、効力を有しない。支出は違法だ」として、県が委員に報酬を支出しないよう命じた。
報酬は地方自治法が「勤務日数に応じて支給する」と定めるが「条例で特別の定め」ができるというただし書きもある。滋賀県によると、労働委と選挙管理委はすべての都道府県が条例による月額制で、収用委でも日額制を採用する4県をのぞいて月額制。吉原弁護士は判決後、「是正すれば全国の地方自治体で約100億円の経費削減になる。すべての自治体が判決確定を待たずに日額制にし、違法で無駄な支出をやめるべきだ」と述べた。
吉原弁護士は地方自治法のただし書きについて「非常勤の報酬をむやみに月額にしてよいとは規定していない」と主張した。
一方、県は「条例化に特段の制限は課されていない」と反論。委員の仕事についても「単なる会議出席で報酬を定めるべきものではない」と主張していた。(朝日新聞2009年1月22日配信)
(http://www.asahi.com/national/update/0122/OSK200901220048.html)
1週間ほど経っていますが、この問題について少し触れてみたいと思います。
関係する地方自治法の規定は、次のとおりである。
第203条の2 普通地方公共団体は、その委員会の委員、非常勤の監査委員その他の委員、自治紛争処理委員、審査会、審議会及び調査会等の委員その他の構成員、専門委員、投票管理者、開票管理者、選挙長、投票立会人、開票立会人及び選挙立会人その他普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。)に対し、報酬を支給しなければならない。
2*1 前項の職員に対する報酬は、その勤務日数に応じてこれを支給する。ただし、条例で特別の定めをした場合は、この限りでない。
3・4 (略)
この規定だけみると、上記の判決における考え方がなぜ出てくるのか疑問なのだが、松本英昭『新版逐条地方自治法(第4次改訂版)』(P655)では、次のように記載されている*2。
議会議員以外の第1項の者に対する報酬の支給は勤務日数に応じてこれを支給する。このことは非常勤職員に対する報酬が常勤職員に対する給料と異なり、いわゆる生活給たる意味は全く有せず、純粋に勤務に対する反対給付としての性格のみをもつものであり、したがつて、それは勤務量、すわわち、具体的には勤務日数に応じて支給されるべきものであるとする原則を明らかにしたのである。しかし、実際問題としては、非常勤職員の中にも勤務の実態が常勤職員とほとんど同様になされなければならないものがあり、その報酬も月額或いは年額をもつて支給することがより適当であるものも少なくなく、常にこの原則を貫くことが困難な場合も考えられるので、ただし書を設け、条例で特別の定めをすれば勤務日数によらないことができるものとされている。
この記載をそのまま鵜呑みにすれば、確かに判決で出された考え方になるのだろう。しかし、この記載自体、やや荒っぽい考え方のように感じる。
地方自治法第203条の2の規定は平成20年法律第69号により改正されているが、改正前(改正前は203条)は、次のように、議会の議員の報酬についても同一の条で記載されている*3。
第203条 普通地方公共団体は、その議会の議員、委員会の委員、非常勤の監査委員その他の委員、自治紛争処理委員、審査会、審議会及び調査会等の委員その他の構成員、専門委員、投票管理者、開票管理者、選挙長、投票立会人、開票立会人及び選挙立会人その他普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。)に対し、報酬を支給しなければならない。
2 前項の職員の中議会の議員以外の者に対する報酬は、その勤務日数に応じてこれを支給する。但し、条例で特別の定めをした場合は、この限りでない。
3・4 (略)
第2項では、議員を除外しているが、これについて前掲書(P655)では、次のように記載している。
議会の議員について除外しているのは、国会議員との均衡も考慮されたものと考えられる。国会議員は以前から歳費の制度であり、地方議会の議員についてもおおむね同様の考え方で報酬が支給されてきているところも少なくないという実態が考慮されたためである。
つまり、議員については、勤務量云々ではなく、国会議員に準じて制度設計しているということであり、前掲書の基準も絶対的なものではないということになる。
思うに、前掲書は、一口に非常勤職員といっても、業務内容や負うべき責任がそれぞれ異なるにもかかわらず、まとめて説明してしまっていることに無理があるように感じる。勤務量=勤務日数という考え方は、投票立会人のような者には当てはまるだろうが、そうした者と附属機関である審議会の委員などとは一緒にできないだろうし、ましてや執行機関である行政委員会の委員とはまったく性格が違うと考えるべきだろう。
そして、審議会などは、行政の隠れ蓑的に使われているとの批判があるが、前掲書の考え方は、その会議に来ているだけが仕事なのだという考え方で、まさしくこの批判が当てはまるような考え方を前提としているように感じてしまう。実情はいろいろであり、一般論としてはいえない面もあるが、少なくとも私は、会議に来ていればいいという感覚の委員には、お目にかかったことはない。
今回の判決は、非常勤職員の報酬を月額制から日額制に改めようと考えているのであれば、追い風とすればいいだろうし、そうでなければ、実態をきちんと説明できるようにしておく必要はあるだろうが、それほど気にする必要はないのではないかというのが私の考えである。
余談だが、裁判官は、行政法をあまり知らないということはよく耳にするが、かつて最高裁判所判事を務められた園部逸夫氏は、その著書で次のように述べておられる。
殊に地方裁判所の裁判官の少ないところでは、大体3人の合議体と1人の単独裁判官でようやく民事部を構成しているという状態で、行政訴訟を扱うのは3人の合議体のうちの左陪席が起案をしていますが、この左陪席は、大抵修習を終えたばかりの新任判事補でして、行政事件というのを見たこともないのは当然ですが、行政法も勉強したことがない。今から判事室にある書物で勉強しますということになるわけです。(園部逸夫『最高裁判所十年』(P350))
上記は2001年の著作だが、現在でも多分に当てはまる面はあるのではないだろうか。