論理的な文章〜目的規定から

文章は、論理性がないと説得力が感じられない。例えば、最近、テレビなどで経済危機について取り上げられることが多いのだけれども、少し前になるが、1月28日のテレビ朝日系「サンデープロジェクト」に、自民党を離党した渡辺元行革大臣が出演し、その中で「今は100年に1度の危機にあるから、公務員改革をしなければならない」というようなことを述べていた。この「公務員改革」というのは自身が行革大臣だった頃に取り組んだ、いわゆる天下り禁止や渡りの禁止のことを指していると考えると、100年に1度の経済危機を解決する手法として公務員改革を結び付けるのは、どうにも無理があり、論理的ではない。公務員改革そのものについての是非はともかく、少なくとも私にはこの渡辺元大臣の発言に説得力は感じられない。
このような事例と例規を比べるのはどうかとも思うが、法律の中には、ここまで論理性を求めるのかと驚くような例もある。その一つである介護保険法の目的規定を取り上げてみたい。
まず、同法の関係規定を次に掲げる。

(目的)
第1条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。 
(定義)
第7条 (略)
2 (略)
3 この法律において「要介護者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。 
(1) 要介護状態にある65歳以上の者
(2) 要介護状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの(以下「特定疾病」という。)によって生じたものであるもの
4〜26 (略)

介護保険法第1条で「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により」という文言が記載されていることについて、次のとおり、国会において質疑及び答弁がなされている。

第140回国会衆議院厚生委員会(平成9年2月28日)
○石毛委員 介護保険法の「目的」の第1条に「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等」という文章がございます。これは、伺うところによりますと、当初原案として考えられていた部分にはなかったやに伺っております。私自身は、この「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等」というのが加わることによりまして、介護という概念がかなり医療の方にシフトしたのではないかという感想を持っております。
そこで、お尋ねしたいと思いますけれども、法案策定の過程で「加齢に伴って」、以下省略いたしますけれども、その文章が加えられたのはなぜでしょうかというのが第一点でございます。……
○江利川政府委員厚生大臣官房審議官) まず、目的規定の関係でございます。
これは法律を制定する内部の条文整理の段階で入ったものでありますが、基本的に、第一号被保険者、第二号被保険者に共通する要介護の原因というのですか、そういうものを定めておく必要がある、そういう法制上の考え方から入れたものでございます。
したがいまして、目的規定を読みますと、「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等」というのが具体的に書いてありますが、「等」というのが入っておりまして、それ「により要介護状態となり、」云々となっているわけであります。ですから、これに限ることなく、広がりはあるわけでございます。現に、その後の条文を見ていただきますと、第一号被保険者に対しましては、それ以外のものも全部、要介護の定義等を見ていただきますと、入っていることが明らかでございます。これが入ったことによって、法律的な意味での実質的な変更はございません。……
○石毛委員 私は、法律についての技術的な理解といいますか、知識は持っておりませんけれども、「等」という文言にさまざまに含まれるのでしたら、あえて「等」ということを入れる必要はどこにあるのでしょうか。要介護状態にある者という特定の仕方だけで十分ではないでしょうかということが、ただいま御答弁をいただきましたお答えの内容に対します私の率直な疑問でございます。
それからもう一つ。それでしたら、どうして第二号被保険者については、「その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの(「特定疾病」)というのが入ったのでしょうか。目的条文、第1条ですから、それを入れなければ7条等々を含めた整合性がつかないというおっしゃり方になろうかと思いますけれども、繰り返しますが、それでしたら、後半の、40歳から65歳未満者についてなぜこれが入ったのでしょうかということを重ねてお尋ねしたいと思います。これが一つです。……
○江利川政府委員 介護保険制度の対象をどのように決めるかという議論があったわけでありますが、その中で、65歳以上の要介護者と、40から65歳未満の方の中では特定の人が対象になるということに大きな枠組みを決めたわけでございまして、それ以外の若年障害者は障害者プランで対応する。一応大きな枠組みを決めたわけでございます。
この介護保険制度で対象となります40から65歳までの人というのは、典型的な例で言えば、加齢に伴って体の状態が要介護状態になっていく、そういう、いわゆる高齢者のケースと同じで、65歳以降で通常出てくるのが早く出てきたようなケースである、そういうイメージで考えているわけでございます。それを法律上は、40から65歳未満の方につきましては、「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病」によってそういう要介護状態になっている人というふうにしているわけであります。この法律第1条の「目的」は、第二号被保険者と第一号被保険者、65歳以上の人と共通する要介護の原因というものを「目的」に書こうということでこういう書き方になっている、一つの条文整理上の考え方ということでございます。ただ、これによりまして、当初から考えていた、40歳から65歳未満の人の要介護、この介護保険法案の対象者の範囲とか、あるいは65歳以降の人のこの法案の対象の範囲とかというものは、変化はありません。

「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により」がなくても、「〜その他の医療を要する者等について」の箇所で「等」という言葉が使われているため、それほど問題はないのであろうが、「要介護状態」の部分を見ると、40歳以上65歳未満の者が要介護者であるためには、介護保険法第7条第3項第2号の規定のとおり、単に要介護状態であるだけでは足りず、それが特定の原因によることが必要であるため、それを踏まえて記載したということであろう。
ここまで考えて書こうとすると、なかなか大変だと感じる。