飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について(4)

4 まとめ
 (1) 2つの判決における判断の相違点
裁判官がどのような思考経路をたどって判断するのかということは、裁判官ではない私が軽々に言うことはできないのだが、論点ごとに結論を決めた後に結論を決めるのではなく、裁判の過程を通じてある程度直感的に結論を決めた後に、その結論に沿って理由を組み立てている面があることは否定できないと思う。
2つの判決における結論は、一見すると飲酒運転に対し厳格な懲戒処分を科すことに理解を示しているように見えるが、実際にはそれに起因して事故を起こしたりしない限り、免職までは行き過ぎであると考えた上で、処分を取り消すというという結論を前提として個々の論点についての理由付けを行っているのではないかと思う。そうした意味では、その理由付けは、結論を導くためにいわば都合のよいものとすることになってくるから、2つの判決では異なっているところがある。
まず、どの程度のアルコールが検出されると免職とする程の非違性があるかという点についてである。佐賀地裁平成20年12月12日判決(「飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について(2)」参照。以下「佐賀判決」という。)では、刑罰法規に触れる呼気1リットル中0.15mg以上を基準にしている。これに対し、神戸地裁平成20年10月8日判決(「飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について(3)」参照。以下「神戸判決」という。)では、呼気1リットル中0.15mg程度では、まだその程度の非違性はないとしている。この点は、処分の根幹に関わる部分といってもよいのであろうが、2つの判決で見解に相違がある。
そして、懲戒処分の指針に対する考え方についてである。神戸判決における判断では、指針の当否についての判断をせず、その意味では、指針に対してそれ程配慮はしていない。他方、佐賀判決では、神戸判決のように指針に対する当否の判断をしないのであれば、あえて指針を限定解釈しなくても、処分を取り消すべきとの結論を導くことができたと思うが、そのような解釈をしたということは、指針をある程度尊重していることになる。
このように、現在は、飲酒運転の非違性や懲戒処分の指針に対する考え方などの判断について、共通した考え方というものはなく、区々である状況ということが言えるだろう。このことから、裁判所は、行政が裁量権を逸脱しているかという点について判断しているというよりも、自らの見解に基づき判断しているように感じられるのである。