飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について(5・最終)

(「4 まとめ」の続き)
 (2) 2つの判決に共通する判断に対する疑問
2つの判決は、懲戒処分というものは、その処分に係る行為の道路交通法等における罰則の重さに比例すべきという考え方にとらわれているようである。もちろん、そのような面があることは否定できないが、懲戒処分と刑罰の違いも考慮する必要がある。つまり、懲戒処分は公務員としてふさわしくない行為を行った者に科されるもので、社会秩序の維持を目的とする刑罰とは性格が異なる面もあるのである。
私は、法令遵守義務を負う公務員が、故意に法律違反の行為を行い、それが他者の命を奪う可能性があるのであれば、そもそも弁解の余地はないのではないかと思う。飲酒運転の危険性が問題となっている今日においてその行為は、例えば公衆の集まる場所で刃物を振り回す行為とどれほど違うというのであろうか。
この2つの判決で、私が被処分者に同情する部分をあえて探すと、飲酒後直ちに車を運転するのでなく、2の判決では30分の仮眠をとっており、3の判決では30〜40分程度雑談した後に運転したことであるが、これらを判決ではあまり考慮していないというのも不思議である*1
いずれにしろ、飲酒運転をした者を懲戒免職とすることが社会観念上著しく妥当性を欠くとは、私には到底思えない。
また、2つの判決とも、人事院の指針や他の自治体の処分状況などが事実認定に挙げられており、そうした動向も判決に影響を及ぼしているようである。確かに、処分者の立場としては、こうした状況等は考慮するであろうが、裁判所が他の自治体で処分事例がないから適当でないとする判決には、どうも疑問が残る。
これまでは、行政訴訟は殊更行政に有利な判決が出ることに批判がなされており、確かにその批判自体もっともな面はある。しかし、最近は行政が敗訴する例も目に付くようになっているが、これらの判決には、ものの本質を理解せず、世論に迎合しているように見られるものはある。そして、今回取り上げた2つの判決も、説得力を感じず、したがって、特に意識することはないように感じるのである。
ある者が職員であることについて責任を負うのは任命権者であるわけで、裁判所が責任を負うわけではない。最高裁判決が「平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができない」といっていることは、そのことを示しているのではないかと思う。
裁判所に限らず、私は審査する立場にあるものは、謙虚でなければならないと思っている。そういった意味では、裁判所として懲戒処分はこのように考えるのだという考え方が強く出すぎているように感じるのである。

*1:kei-zuさんが紹介されているが(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20090313)、最近出された津地裁判決は、この点を考慮しているようである。この判決についても、また機会があれば取り上げたい。