「準用」とすべきか「適用」とすべきか

「準用」とは、ある事項に関する規定を、それに類似するが異なる事項について必要な変更を加えた上で当てはめることである(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P193)参照)。これに対し、「適用」とは、本来その規定が対象する事柄に当てはめるものである(前掲書(P196〜)参照)。
しかし、実際には、「準用」とすべきか、「適用」とすべきか迷うこともあるかと思う。
例えば、地方公務員法に次のような規定がある。

(この法律の適用を受ける地方公務員)
第4条 この法律の規定は、一般職に属するすべての地方公務員(以下「職員」という。)に適用する。
2  この法律の規定は、法律に特別の定がある場合を除く外、特別職に属する地方公務員には適用しない。
(人事委員会又は公平委員会の委員)
第9条の2 (略)
2〜11 (略)
12 第30条から第38条までの規定は、常勤の人事委員会の委員の服務に、第30条から第34条まで、第36条及び第37条の規定は、非常勤の人事委員会の委員及び公平委員会の委員の服務に準用する。

地方公務員法第9条の2第12項は、人事委員会の委員等について、同法の服務の規定を準用しているが、同法第4条第2項は、法律に特別の定めがあれば、当該委員等についても地方公務員が適用されることになるため、同法第9条の2第12項をこの法律の特別の定めに当たるものと考えれば、同項は本来は「適用」とすべきところ、「準用」と書いていることになる。
この点について、規定どおり「準用」でよいのか、本来は「適用」とすべきかについて、同じ学陽書房の『逐条地方公務員法』でも、橋本勇氏著作のものと鹿児島重治氏著作のものとは、見解を異にしている。
橋本・逐条では、次のとおり「準用」とされていることを前提とした記載がなされている。

地方公務員法第9条の2第12項は人事委員会の委員および公平委員会の委員について同法の一部の規定を準用することを定め、警察法第42条第1項も都道府県公安委員会の委員について地方公務員法の一部を準用するとしている。地方公務員法第4条第2項は法律によって地方公務員法が適用されることを想定しているが、適用というのは当該法律をそのまま当てはめることであり、準用というのは、実態が異なるために当該法律をそのまま当てはめることが不適当な場合に、その法律の規定に準じて取り扱うという意味であるから、これらの法律が地方公務員法を適用するとしないで、準用するとしたのは、これらの委員は自己の責任と判断に基づいて職務を行うものであるということに、上司の指揮命令に従って勤務する一般職との違いを見出したものであろう(橋本勇『新版逐条地方公務員法(第2次改訂版)』(P66))。 
本条第2項(地方公務員法第4条第2項)*1を受けて特別の定めをする法律は存在しない……(同書(P73))。

これに対し、鹿児島・逐条は、次のとおり地方公務員法第9条の2第12項は「準用」ではなく、「適用」とすべきとしている。

「法律に特別の定」があるときは、例外として本法が特別職に適用される場合がある。ここで「法律」とは、本法のみならず他の法律をも含むものである。本法による特例としては、第9条第12項(現行:第9条の2第12項。以下同じ)*2による人事委員会または公平委員会の委員に対する本法の一部の規定の適用がある。……本条第2項(地方公務員法第4条第2項)*3は、法律に特別の定めがある場合を除き本法を適用しない、すなわち、その反対解釈として特別の定めがあるときは本法が「適用」されることを予定していると考えられるので、第9条第12項が「準用」すると規定していることが適切ではなく、「適用」すると規定すべきであろう(鹿児島重治『逐条地方公務員法(第5次改定版)』(P41))。

思うに、地方公務員法第9条の2第12項が同法第4条第2項の「特別の定」に当たるかどうかについては、普通に考えると肯定することになるのではないかと感じる。この点では、私は鹿児島・逐条の考えに近いことになる。
しかし、立法技術的には、同条第1項で一般職の地方公務員について「職員」という略称を置き、その「職員」の服務を定めている以上、その服務の規定が本来適用される者は一般職の地方公務員ということになってしまうので、特別職の地方公務員である人事委員会の委員等について「適用」で書くべきではないということになる。あえて「適用」で書くのであれば、人事委員会の委員等を「職員」とみなすべきなので、次のような書き方になってしまう。

常勤の人事委員会の委員の服務については、当該委員を職員とみなして第30条から第38条までの規定を、非常勤の人事委員会の委員及び公平委員会の委員の服務については、これらの委員を職員とみなして第30条から第34条まで、第36条及び第37条の規定を、それぞれ適用する。

ただ、この書き方では、地方公務員法第9条の2が服務に関する規定より前に置いていることもあって、なんとなくしっくりこないのではないだろうか。
これに対し、「準用」とすれば、職員を人事委員会の委員等と読み替えるのは当然であるから、地方公務員法第9条の2第12項のような書き方で足りることになる。
つまり、「準用」としているのは、こうした単なる立法技術上の問題に過ぎないのではないかと思える。

*1:管理人注記

*2:管理人注記

*3:管理人注記