全部改正等で削除条等を設けることの是非

洋々亭さんのサイト(http://www.hi-ho.ne.jp/tomita/yybbs/)で、次のような投稿がなされているのを拝見しました。

条例は、よく条例(例)が示されていますが、今までのものが条例(例)と異なっているので、何らかの機会で、全部改正、又は新規で制定しようと考えています。この際、条例(例)の中に「削除」の条がある場合、やはり全部改正、又は新規で制定する際、新たな条文中に「削除」があるとおかしいのでしょうか。

投稿に対する意見を見ると、どうも否定的な意見が主のようです。
しかし、刑法や民法を口語化した際には、事実上全部改正であるのに、削除条や枝条を残しています。その理由として、例えば刑法の場合については、松尾浩也ほか『立法の平易化』(P290)に掲載されている座談会において、津野修内閣法制次長(当時)と松尾浩也教授が次のような議論をされています。

津野 ……これは法律実務家の方がたからもご要望があったようですが、従来の条文が、何条には何が書いてあるというところを改めて勉強し直さなくていいといいますか、適用経済ですかね、法律を適用してその人たちが現実に使用する場合に非常に効率性がいいといいますか、非常にやりやすいという面があったこともそれなりの意義があると思うのですが。
松尾 お話の通り、判例などもたくさん蓄積されてきておりますし、その中でいちいち第何条というのが引用されているわけですから、変わってしまいますと、それはかなり混乱を生ずると思います。それで少しわがままを通させていただいて、「削除」も残しましたし、枝番号の条文もそのままにしました。

民法の場合は、刑法ほど完全に旧法と条文が一致しているわけではありませんが、基本的な考え方は同様なのでしょう。
もちろん、条例等の場合は、こうした事情があることはあまり考えられません。そして、上記投稿にあるように、国等が示す条例例と合わせるために削除条等を設けることはその本質からはずれていることも事実でしょう。しかし、現実にはその条例例を参考に改正等を行うことを考えると、それと異なっていると作業効率が大きく違ってくるのは事実でしょう。場合によっては、正確性に問題が出てくることも考えられます。したがって、理想論はともかくとして、実質的に全部改正のような場合に削除条等を設けるべきではないとかたくなに主張する必要もないのではないかと私は思っています。
ただ、形式的に全部改正又は新規制定の方法をとった場合に、削除条等があるのはどうかと思います。上記の刑法や民法の改正で一部改正の方法がとられてように、一部改正で行うくらいの頑張りは見せるべきではないでしょうか。