飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について〜最高裁判決が出された事例(上)

2009年10月2日付け記事「飲酒運転に係る懲戒免職処分を取り消す判例について〜最高裁判決」で触れた最高裁の判決文を拝見することができたので(市ホームページ参照)、改めて取り上げることにする。
最高裁が上告を棄却している理由は、次のとおりである。

民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、理由の不備をいうものと解されるが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。

民事訴訟法において認められている最高裁への上告理由は、憲法違反と重大な手続違反とされ(民訴法第312条第1項・第2項)、従来認められていた法令違反は、現在では認められていない。そのため、今回の最高裁判決では実質的な判断がなされていないので、これを実務においてどの程度尊重すべきなのかについて記載するほどの知識を私は有していないので、そうした点はひとまず置いておいて、ここでは高裁の判決(大阪高裁平成21年4月24日判決)を少し詳しく見てみることにする。
高裁の判決文を見ても、今のところ処分を取り消すべきとする判断に否定的である私の考え方は基本的には変わっていないのであるが、第一審よりも丁寧に判断しており、それなりに納得できる部分もある。そこで、今回は、高裁判決の中で処分取消との判断がもっともだと考えられる点を中心に取り上げてみたい。
1 処分者の主張が適当であったか
判決後に次のような処分者である市長のコメントが出されている(上記市ホームページ参照)。

今回の最高裁での上告棄却の決定により、職員の飲酒運転にかかる処分に関して、酒気帯び運転かつ交通事故等の他の違反を伴わないものについては、免職処分は重すぎるとの司法判断が確定したことになる。
原告から訴訟が提起されて以降、加西市は、本件訴訟が加西市のみならず全国の自治体運営や企業経営にも大きな影響を及ぼす重大なテーマであるとの判断から、最高裁まで争って司法の最終判断を確認することとしたものである。
そもそも、平成18年に福岡市、姫路市などで公務員の飲酒運転による死亡事故が多発して以降、飲酒運転撲滅に国を挙げて取り組んでいる最中であり、それ以降も飲酒運転は依然として後を絶たない状況にある。
飲酒運転防止をはじめ交通安全は国民の悲願であり、今回の判決は、そのような時代の要請や世間の感覚からはズレた判決ではないかと正直受け止めている。

裁判においても、上記のような主張をしていたことは、判決文からもうかがえるのであるが、判決は、第一審よりも他の自治体の例をかなり丁寧に引用し、他の自治体の飲酒運転に対する処分が懲戒免職であることが決して一般的ではないことを述べており、結局「あなたは、全国で飲酒運転をすると懲戒免職とするのが趨勢だというけれども、そうじゃないでしょう」と言っているように感じる。
行政事件における当事者の主張の適否が裁判の結果にどの程度影響を及ぼすものなのかはよく分からないが、こうした判決を見ると、裁判における処分者の争い方が適切だったのか疑問があるところである。
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