罰金と過料(上)

罰金と過料の違いは、一般的には刑罰である罰金は、直接的に社会の法益を侵害する行為に対する制裁であるのに対し、過料は、行政上・民事上・訴訟手続上の秩序を乱す程度の行為に対する制裁であるとされている(大島稔彦『法令起案マニュアル』(P233))。
しかし、実際にどのような行為を罰金の対象とし、あるいは過料の対象とすべきかについて明確な基準はない*1
そして、単純に行為の非違性によって使い分けている例もある。例えば、田島信威『立法技術入門講座2法令の仕組みと作り方』では、次のように記載されている。

証人の不出頭という同一の行為について、民事訴訟法第277条(現:第192条)は過料を科すことを規定するとともに、同法第277条の2(現:第193条)は罰金を科すことを規定しているが、このように同一の行為について過料及び罰金の双方が規定されているときは、悪質な違反の場合には罰金を科し、そうでない場合には過料を科す趣旨と考えるべきである。
また、一の行為に対して、刑罰及び過料を科しうる場合に、刑罰を科すべきときには過料を科さない旨の規定が設けられている例がある(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第97条、医師法第76条等)。

同種の行為でありながら、法律によって罰金を科すこととしているものがあったり、過料を科すこととしているものもある。
例えば、2010年1月8日付け記事「罰則規定の表記(下)」で取り上げた、特定の事業者等であることを表す標識の掲示義務違反に対する罰則の事例を取り上げてみる。このような事例をできる限り拾い上げてみると、次のとおりである。

  • 罰金とする事例
    • 50万円以下確定拠出年金法(平成13年法律第88号)第121条第2号・第3号(第94条(確定拠出年金運営管理機関の標識)違反)、計量法(平成4年法律第51号)第173条第10号(第130条第2項(適正計量管理事業所の標識)違反)
    • 30万円以下観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する法律(平成20年法律第39号)第24条第1項第1号・第2号(第12条第2項・第3項(観光圏内限定旅行業者代理業者の標識)違反)、信託業法(平成16年法律第154号)第97条第10号・第11号(第72条(信託契約代理店の標識)違反)、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(平成12年法律第116号)第28条第3号(第14条(登録再生利用事業者の標識)違反)、農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律(平成6年法律第46号)第42条第1号(第17条第2項(農林漁業体験民宿業者の標識)違反)、不動産特定共同事業法(平成6年法律第77号)第56条第2号・第3号(第16条(不動産特定共同事業者の標識)違反)、商品投資に係る事業の規制に関する法律(平成3年法律第66号)第49条第2号・第3号(第13条(商品投資顧問業者の標識)違反)、遊漁船業の適正化に関する法律(昭和63年法律第99号)第31条第2号・第3号(第16条(遊漁船業者の標識)違反)、銀行法(昭和56年法律第59号)第63条の3第3号・第4号(第52条の40(第52条の10において準用する場合を含む。)(銀行代理業者・外国銀行代理銀行の標識)違反)、旅行業法(昭和27年法律第239号)第31条第12号・第13号(第12条の9(旅行業者等の標識)違反)、建築士法(昭和25年法律第202号)第41条第10号(第24条の5(建築士事務所の標識)違反)、国際観光ホテル整備法(昭和24年法律第279号)第53条第2号(第9条(第18条第2項において準用する場合を含む。)(登録ホテル業・登録旅館業の標識)違反)、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第205条の2第3号・第4号(第36条の2・第66条の8(金融商品取引業者等・金融商品仲介業者の標識)違反)
    • 10万円以下:積立式宅地建物販売業法(昭和46年法律第111号)第58条第6号(第39条(積立式宅地建物販売業者の標識)違反)
  • 過料とする事例
    • 100万円以下保険業法(平成7年法律第105号)第335条第4号・第5号(第272条の8第1項・第2項(少額短期保険業者の標識)違反)
    • 20万円以下:浄化槽法(昭和58年法律第43号)第67条第3号(第30条・第39条(浄化槽工事業者・浄化槽清掃業者の標識)違反)
    • 10万円以下使用済自動車の再資源化等に関する法律(平成14年法律第87号)第143条第2号(第50条(第59条において準用する場合を含む。)・第65条(第72条において準用する場合を含む。)(引取業者・フロン類回収業者・解体業者・破砕業者の標識)違反)、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(平成12年法律第104号)第53条第3号(第33条(解体工事業者の標識)違反)、マンションの管理の適正化の推進に関する法律(平成12年法律第149号)第113条第3号(第71条(マンション管理業者の標識)違反)、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)第50条(第18条(動物取扱業者の標識)違反)、建設業法(昭和24年法律第100号)第55条第3号(第40条(建設業者の標識)違反)、測量法(昭和24年法律第188号)第66条第2号(第56条の5(測量業者の標識)違反)
    • 1万円以下電気工事業の業務の適正化に関する法律(昭和45年法律第96号)第42条第4号(第25条(電気工事業者の標識)違反)

どうも罰金なら20万円以下、過料なら10万円以下とするのが相場のようであるが、保険業法のように100万円以下の過料とするのであれば、果たして罰金より程度が軽いと言えるか疑問に思ってしまう。
罰金と過料の区別について、冒頭のようなことがいえるとしても、それは同一の例規の中における比較に過ぎない感じもするのである。

*1:大島稔彦『法令起案マニュアル』(P233)では、「刑罰と過料の限界については、明確な基準はない」とされている。