平成22年度における子ども手当の支給に関する法律案

ネットで批判的に取り上げられている「平成22年度における子ども手当の支給に関する法律案」について、私が感じていることを記載してみる。
1 子ども手当のうち児童手当相当分については、そのままの財源とすること等について
話題の第4章の規定を次に掲げる。

第4章 児童手当法との関係
(児童手当等受給資格者に対する子ども手当の支給の基本的認識)
第19条 第21条に規定する児童手当等受給資格者に対する子ども手当に関しては、前2章に定めるもののほか、当該子ども手当の額のうち児童手当法の規定により支給する児童手当その他給付の額に相当する部分が同法の規定により支給する児童手当その他給付であるという基本的認識の下に、この章に定めるところによる。
(受給資格者における児童手当法の適用)
第20条 受給資格者のうち児童手当法第6条第1項に規定する受給資格者(同法第5条第1項の規定により児童手当が支給されない者を含む。)に該当する者に支給する子ども手当については、当該子ども手当の額のうち同法の規定によりこれらの者に対して支給されるべき児童手当の額(同法第5条第1項の規定により児童手当が支給されない者については、同項の規定の適用がないとしたならば支給されるべき児童手当の額とする。)に相当する部分を、同法の規定により支給する児童手当とみなして、同法第18条(第4項を除く。)、第20条から第22条まで、第23条(第2項を除く。)、第24条から第25条まで及び第30条の規定を適用する。
2 受給資格者のうち児童手当法附則第7条第4項第1号に規定する小学校修了前特例給付受給資格者(同条第2項の規定により同条第1項の給付が支給されない者を含む。)に該当する者に支給する子ども手当については、当該子ども手当の額のうち同条第1項の規定によりこれらの者に対して支給されるべき給付の額(同条第2項の規定により同条第1項の給付が支給されない者については、同条第2項の規定の適用がないとしたならば支給されるべき同条第1項の給付の額とする。)に相当する部分を、同法の規定により支給する同条第1項の給付とみなして、同条第5項において準用する同法第18条第2項及び第3項並びに第30条並びに同法附則第7条第8項の規定を適用する。
3 前2項の場合において、児童手当法の規定の適用に関し必要な技術的読替えその他必要な事項は、政令で定める。
(平成22年4月から平成23年3月までの月分の児童手当等の支給に係る特例)
第21条 児童手当法第6条第1項に規定する受給資格者又は同法附則第6条第1項の給付の支給要件に該当する者、同法附則第7条第4項第1号に規定する小学校修了前特例給付受給資格者若しくは同法附則第8条第1項の給付の支給要件に該当する者(以下この条において「児童手当等受給資格者」という。)に対する、平成22年4月から平成23年3月までの月分の児童手当又は当該期間の月分の同法附則第6条第1項、第7条第1項若しくは第8条第1項の給付(以下この条及び附則第3条において「特例給付等」という。)については、当該児童手当等受給資格者は、児童手当又は特例給付等の支給要件に該当しないものとみなす。
  (以下略)

私は、法案を見るまでは、児童手当を受給している者で、引き続き子ども手当を受給する者の場合、児童手当と子ども手当が併給される形にするのではないかと思っていた。つまり、児童手当として1万円受給している者で、平成22年4月以降に同じ子ども1人分として1万3千円を受給される者の場合、1万円は依然として児童手当であり、子ども手当は3千円(1万3千円―1万円)となるのではないかと思っていた。しかし、第21条で児童手当の支給要件に該当しないものとみなしており、あくまでも全額(この例であれば1万3千円)が子ども手当として支給されることになる。
他方、その財源として児童手当相当分については、特に企業が児童手当拠出金として負担している部分があるためなのだろうが、あくまでも児童手当と言いたいらしい。それが第19条の「基本的認識」という言葉になっているのだろう。
この「基本的認識」という言葉に批判的な意見が多く、私も違和感を持ったのだが、それは、子ども手当の財源がどうなっているかは、それを受給する一般の人にとってみれば関係がないことなので、一般的な感覚としておかしく感じるということなのではないだろうか。しかし、児童手当拠出金を納める企業の理解を得るために、この法案を立案するに当たっての「基本的認識」をあえて書いているのだと考えれば、それ程違和感はなく、まあお好きにどうぞといったところだろうか。
ただ、第19条で児童手当に相当する部分は児童手当であるといいながら、第21条で児童手当の支給要件に該当しないと書かれると、矛盾以外の何物でもないと思ってしまう。第21条が、児童手当の支給要件に該当しないという書き方をし、端的にそれを支給しないと書いていないのは、一方で支給しないとしながら、他方でその費用負担によるというのはあまりにもおかしいではないかということを考慮しての表現なのだろうか。そうだとしても、あまりうまくはいっていないように感じる。
うまくいっていないのは、次の第3章の費用の規定も同じである。

第3章 費用
子ども手当の支給に要する費用の負担)
第17条 子ども手当の支給に要する費用(第20条第1項又は第2項の規定に基づき児童手当法(昭和46年法律第73号)の規定により支給する児童手当又は同法附則第7条第1項の給付とみなされる部分の支給に要する費用を除く。次項において同じ。)については、国が負担する。
2・3 (略)
(市町村に対する交付)
第18条 政府は、政令で定めるところにより、市町村に対し、市町村長が第7条第1項の規定により支給する子ども手当の支給に要する費用のうち、次の各号に掲げる費用の区分に応じ、当該各号に定める割合に相当する額を交付する。
(各号略)
2 (略)

第17条は児童手当相当分については相手にしていないのに、第18条は児童手当相当分も含めたものを対象にしており、整合がとれていない。
では、どう書けばいいかというと、正直良い案が思い浮かばない。ネックになっているのは、所得要件により児童手当を受給できない者に対する子ども手当についても、児童手当相当分については、児童手当と同様な費用負担とすることにしていることである(第20条)。それがなければ、つまりその部分について全額国庫負担であれば、児童手当法の附則に、同法の受給資格者に支給された平成22年4月から平成23年3月分までの月分の子ども手当の額うち児童手当に相当する額の部分については児童手当とみなす旨の規定を書けば、それだけで十分のように思うのだが。
2 その他
基本的にこの法案は児童手当法を真似ているのだが、児童手当法ではうまく書いてあるのに、次の第1条と第2条は、微妙に表現等を替えた結果、おかしな表現になってしまっている。

(趣旨)
第1条 この法律は、次代の社会をになう子どもの健やかな育ちを支援するために、平成22年度における子ども手当の支給について必要な事項を定めるものとする。
(受給者の責務)
第2条 子ども手当の支給を受けた者は、前条の支給の趣旨にかんがみ、これをその趣旨に従って用いなければならない。

第2条の前条の支給の趣旨というのは、第1条で言っている「次代の社会を担う子どもの健やかな育ちを支援すること」になるのだろう。そうすると、第2条は、その趣旨、すなわち「〜を支援するという趣旨に従って子ども手当を用いなければならない」ということになり、おかしな表現となる。
このおかしさは、支援という言葉は、支援する相手、すなわち支給してくれる人がいることを前提としているが、手当を実際に用いる際に支給してくれる人は関係がないことからくるものではないだろうか。
ちなみに、児童手当法の第1条と第2条は、次のようになっている。

(目的)
第1条 この法律は、児童を養育している者に児童手当を支給することにより、家庭における生活の安定に寄与するとともに、次代の社会をになう児童の健全な育成及び資質の向上に資することを目的とする。
(受給者の責務)
第2条 児童手当の支給を受けた者は、児童手当が前条の目的を達成するために支給されるものである趣旨にかんがみ、これをその趣旨に従つて用いなければならない。

児童手当法の第1条は、「資する」という言葉を使っている。法案の第1条が「支援」という言葉にしているのは、語感を考えてのことではないかと思うが、語感を気にしなければ、同条を「〜子どもの健やかな育ちに資するために〜」とすれば足りる。
そもそも、これは、児童手当法で「健全な育成」としている部分を「健やかな育ち」としたことからくるものである。あまり違いがないように思うが、何かこだわりがあるのだろう。
こんなふうに見てくると、結果としてこの法案がそのまま可決されたとしても、あまり参考にしてはいけない法律の一つになってしまう。この法案は、閣法であるとはいえ、その文言にも政治的な意図があるのであろう。そうだとすれば、言葉をもてあそぶことが政治主導なのかと感じてしまう。