下位例規への委任規定〜〜最高裁平成18年1月13日判決

法律の下位例規の定めを法律の委任の範囲を超えるとして無効とした最高裁判例としては、前回(2010年4月3日付け記事「下位例規への委任規定〜最高裁平成21年11月18日判決」)取り上げた判例のほか、(1)農地法施行令第16条に関する最高裁昭和46年1月20日判決、(2)監獄法施行規則第120条及び第124条に関する最高裁平成3年7月9日判決、(3)児童扶養手当法施行令第1条の2第3号に関する最高裁平成14年1月31日判決及び最高裁平成14年2月22日判決、(4)貸金業の規制等に関する法律施行規則第15条第2項に関する最高裁平成18年1月13日判決がある(清野正彦「東洋町議リコール署名最高裁大法廷判決の解説と全文」『ジュリスト(No.1396)』(P58)参照)。
今回取り上げるのは、(4)の判例である。
条例で「規則で定めるところにより、……」という文言を規定して、一定の事項を規則に委任することはよくあることである。それは、法令でも同様だが、最高裁平成18年1月13日判決*1では、委任された省令の規定が違法とされた。
まず、違法とされた、貸金業の規制等に関する法律(現:貸金業法)に基づく大蔵省令(現:内閣府令)の関係規定について制定時のものを次に掲げる。

貸金業の規制等に関する法律(昭和58年法律第32号)
(受取証書の交付)
第18条 貸金業者は、貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは、その都度、直ちに、大蔵省令で定めるところにより、次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。
(1) 貸金業者の商号、名称又は氏名及び住所
(2) 契約年月日
(3) 貸付けの金額(保証契約にあつては、保証に係る貸付けの金額。次条及び第20条において同じ。)
(4) 受領金額及びその利息、賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額
(5) 受領年月日
(6) 前各号に掲げるもののほか、大蔵省令で定める事項
2 (略)
貸金業の規制等に関する法律施行規則(昭和58年大蔵省令第40号)
(受取証書の交付)
第15条 法第18条第1項第6号に規定する大蔵省令で定める事項は、次に掲げる事項(金銭の貸借の媒介手数料を受領したときにあつては、第5号に掲げる事項を除く。)とする。
(1)〜(5) (略)
2 貸金業者は、法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは、当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもつて、同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。
3 (略)

違法とされたのは、法律で定めた記載事項を省令第15条第2項で、他の記載によって代えることができるとしている部分である。
この点について、判決は次のように述べている。

1 原審の判断は、次のとおりである。
施行規則15条2項は、貸金業者は、法18条1項の規定により交付すべき書面を作成するときは、当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって、同項2号所定の契約年月日の記載に代えることができる旨規定しているのであり、契約年月日の記載がなくとも、契約番号の記載により、弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を特定するのに不足することはないから、契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は、法18条1項所定の事項の記載に欠けるところはない。
2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 法18条1項が、貸金業者は、貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは、同項各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない旨を定めているのは、貸金業者の業務の適正な運営を確保し、資金需要者等の利益の保護を図るためであるから、同項の解釈にあたっては、文理を離れて緩やかな解釈をすることは許されないというべきである。   
同項柱書きは、「貸金業者は、貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは、その都度、直ちに、内閣府令で定めるところにより、次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。」と規定している。そして、同項6号に、「前各号に掲げるもののほか、内閣府令で定める事項」が掲げられている。  
同項は、その文理に照らすと、同項の規定に基づき貸金業者が貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに当該弁済をした者に対して交付すべき書面(以下「18条書面」という。)の記載事項は、同項1号から5号までに掲げる事項(以下「法定事項」という。)及び法定事項に追加して内閣府令(法施行当時は大蔵省令。後に、総理府令・大蔵省令、総理府令、内閣府令と順次改められた。)で定める事項であることを規定するとともに、18条書面の交付方法の定めについて内閣府令に委任することを規定したものと解される。したがって、18条書面の記載事項について、内閣府令により他の事項の記載をもって法定事項の記載に代えることは許されないものというべきである。
(2) 上記内閣府令に該当する施行規則15条2項は、「貸金業者は、法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは、当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって、同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。」と規定している。この規定のうち、当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって、法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は、他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから、内閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。
(3) 以上と異なる見解に立って、法18条1項2号所定の契約年月日の記載に代えて契約番号が記載された本件各受取証書は、同項所定の事項の記載に欠けるところはないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

法施行当時の文言に照らして記載すると、法第18条第1項の「大蔵省令で定めるところにより」は、貸金業者が貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに当該弁済をした者に対して交付すべき書面の交付方法の定めについて大蔵省令に委任することを規定したものであり、その書面の記載事項について、省令により他の事項の記載をもって法定事項の記載に代えることは許されないものというべきであるとの判断をしている。
「○○で定めるところにより」とする法律の規定を受けた省令でどのような事項が定められているかについて、2007年2月16日付け記事「届出に関する規定の書き方」で多少触れたことがあるが、個人的にはそのような文言を書く意味はあまりないと考えており、また書くからこのような問題が起こるともいえるだろうが、いずれにしろ、この判決は、そのような文言を書いた場合にどのように解釈されるのかという事例として参考になるのではないかと思う。
ちなみに、法定事項の記載を省令により他の事項の記載をもって代える場合の規定として、次の金融商品取引法の規定の例がある。

金融商品取引法(昭和23年法律第25号)
有価証券報告書の提出)
第24条 有価証券の発行者である会社は、その会社が発行者である有価証券(特定有価証券を除く。次の各号を除き、以下この条において同じ。)が次に掲げる有価証券のいずれかに該当する場合には、内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会社の商号、当該会社の属する企業集団及び当該会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要な事項その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「有価証券報告書」という。)を、内国会社にあつては当該事業年度経過後3月以内(やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合には、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内)、外国会社にあつては公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして政令で定める期間内に、内閣総理大臣に提出しなければならない。ただし、……。
(1)〜(4) (略)
2 前項第3号に掲げる有価証券に該当する有価証券の発行者である会社で、少額募集等につき第5条第2項に規定する事項を記載した同条第1項に規定する届出書を提出した会社のうち次の各号のいずれにも該当しない会社は、前項本文の規定により提出しなければならない有価証券報告書に、同項本文に規定する事項のうち当該会社に係るものとして内閣府令で定めるものを記載することにより、同項本文に規定する事項の記載に代えることができる。
(1)・(2) (略)
3〜15 (略)

*1:この判決は、期限の喪失約款の下での支払いにつき原則として任意性を否定することとし、利息制限法の上限を超える金利等の支払いを有効な弁済と認める「貸金業の規制等に関する法律」の規定は極めて限定された場合にしか適用されないこととなったことで有名な判決である。