公文書館の設置等の権限

今回は、宇賀克也教授が、『ジュリスト(No.1393)』に掲載した「公文書管理法の制定を受けた地方公共団体の対応」という論文に関連して、公文書館の設置・管理の権限と公文書の管理の権限が、どの執行機関に属するかということを取り上げる。
1 公文書館の設置・管理の権限
公文書館の設置・管理は、どの執行機関の権限に属するかということについて、2007年4月29日付け記事「自治体の組織(2)〜執行機関(その1)」で、首長の権限であり、教育委員会の権限ではないと記載した。
ところで、上記論文(P28)には、一見すると、この記載と考え方を異にしているように思える記述がある。それは、戸田市が教育長決裁で設置している戸田アーカイブズ・センターを公文書館であるとしつつ、教育長決裁で設置されていることに関する次の記述である。

戸田市戸田市アーカイブズ・センターを教育長決裁で設置したのは、同センターが郷土博物館に属する施設であり、郷土博物館は戸田市立郷土博物館条例で設置されており、同条例施行規則17条による教育長への委任がなされているからと思われる(平成21年6月4日戸田市教育長決裁1条は、同条例施行規則の委任に基づくことを明示している)。

しかし、上記記述は、公文書館の設置・管理は、そもそも教育委員会の権限と考えているわけではなく、本来的には首長の権限であることを前提にしているものと思われる。その意味で、上記記事と考え方が異なるものではないであろう。
2 公文書の管理の権限
公文書を管理する権限が、どの執行機関に属するかについては、現用文書は、事務の執行に必要なものであるから、それを管理する権限は、当該文書に係る事務を所管する執行機関が有することは当然である。
他方、非現用文書を管理する権限は、地方自治法第149条第8号が公文書類の保管を首長の権限としていることから、一義的には首長の権限であるといえるだろう。
ところで、上記論文(P28)は、熊本県宇土市では非現用文書の管理を教育委員会が行っていることについて、次のように記載している。

わが国で最初の文書管理条例を制定した熊本県宇土市の場合、保存期間が満了した文書であっても、教育委員会が市史編纂のため保存の必要があると認めるときは、市長に当該文書の引継ぎを求めることができ(宇土市文書管理条例25条1項)、この求めがあったときは、法令等により廃棄しなければならないとされている場合等特別の理由がある場合を除き、その求めに応じることとされている(同条2項)。そして、教育委員会は、市長が引継ぎを受けた文書について、歴史的資料としての価値を評価し、市史編纂のために引き続き保存する必要があるか否かを決定し(同条3項)、保存が決定した文書については、教育委員会が管理することになる(同条4項)。すなわち、教育委員会が非現用文書の管理を行っているのである。このように非現用の歴史公文書等を管理する機関は、公文書館である必要は必ずしもない……。地方公共団体においても、……教育委員会等に公文書館機能を担わせて、公文書管理法制の整備を先行させるべきであろう。

この記述は、教育委員会が非現用文書の管理を行うことを肯定的に捉えているが、これは、歴史的資料としての価値がある文書であることを前提としている面もあるからであろう。
もちろん、委任等により非現用文書の管理を教育委員会の権限とすることができることは、当然である。