「努めなければならない」と「しなければならない」

洋々亭さんのサイトで、「努めなければならない」と「しなければならない」という用語について議論されていましたが、私が例規審査をしていたときに、これらの用語の使い方について感じていたことを記してみます。
一般的に、「努めなければならない」という用語を用いた規定は、訓示規定であり、「しなければならない」という用語を用いた規定は、義務規定であるとされています。そして、義務規定に違反する行為に対しては罰則を科する旨の規定が多いとされています(田島信威『最新法令の読解法(三訂版)』(P151参照))。
しかし、「しなければならない」という用語を用いた場合であっても、その規定に違反する行為に対して罰則等を設けなかったときは、効果の面では訓示規定と同様になります。
そうすると、そのような場合には「しなければならない」と書かれているため、その規定を遵守しなければならないと考えた人が結果的に損をする、つまり正直者が馬鹿を見るような結果となることも考えられるので、そのような用い方はあまりよろしくないのではないかと感じていました。
つまり、どうしても守って欲しいと考えるのであれば、「しなければならない」と書いた上で罰則等で担保し、そこまでするつもりがないのであれば、「努めなければならない」と書くのが適当ではないかと思っていました。
もちろん、上記は、規定の対象が一般住民の場合のことです。行政機関等を対象とする場合には、一般的には罰則等を設けないわけですが、書き方としては「しなければならない」とし、この場合は、罰則はないけれども義務規定と考えるべきでしょう。
なお、行政機関等に対し義務付けをするときに、「するものとする」と書く場合もあります。このことについて、田島信威『最新法令用語の基礎知識(三訂版)』(P99)には、次のように書かれています。

これらの場合(行政機関に対して一定の行為を義務付けるような場合に「するものとする」という用語を使うとき)*1には、「しなければならない」という意味に近いが、そこには若干のゆとりがもたせてあって、断定的に拘束するというよりは、取扱いの原則や方針を宣言するといったニュアンスがこめられている。義務を課する相手方が行政機関である場合には、原則を示せばそれに従って行動することが期待されるので、やんわりと「……するものとする」という形で義務付けを表現するのである。
もちろん、行政機関をはっきりと義務付けする必要がある場合には、「しなければならない」と明記する。

しかし、上記の使い分けの基準は、明確ではありません。
私は、形式的な基準としては、例えば条例で行政機関等に対する義務付けの規定を置く場合に、自治体の機関(市長や知事)を対象とするときには「しなければならない」とし、自治体そのもの(市や県)を対象とするときには「するものとする」とするのがよいのではないかと感じていました。つまり、条例で行政機関に対して義務付ける場合は、はっきりと書いた方がよい場合が多いだろうけれど、それが自治体の場合は、「しなければならない」とすると自分で自分に義務を課すようなことになって違和感があるので、「するものとする」として、そのようなことをしないということを確認的に示すのだと考えるのがよいのではないかということです。

*1:管理人注記