「設置する」と「置く」(下)

吉国一郎ほか『法令用語辞典(第9次改訂版)』(P473)における「設置」という用語の記載で、次のようなものがある*1

ある施設又は制度を法律上の存在として設ける行為をいう。……この意味の「設置」と同じ意味で、単に「設ける」又は「置く」という表現が用いられることも多い。例えば、「官房及び局を置く」……「財務省に、国税庁を置く」……「普通地方公共団体に会計管理者1人を置く」……「保健所、警察署その他の行政機関を設けるものとする」……等の用例があるが、比較的規模の小さい機関又は特定の職員などの場合に用いられることが多い。要するに、語感による使い分けであるといえよう。

今回は、「設置する」と「置く」を語感により使い分けているような例を中心に取り上げる。
1 国家公務員制度改革基本法の例

国家公務員制度改革基本法(平成20年法律第68号)
(目的)
第1条 この法律は、行政の運営を担う国家公務員に関する制度を社会経済情勢の変化に対応したものとすることが喫緊の課題であることにかんがみ、国民全体の奉仕者である国家公務員について、一人一人の職員が、その能力を高めつつ、国民の立場に立ち、責任を自覚し、誇りを持って職務を遂行することとするため、国家公務員制度改革について、その基本理念及び基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、国家公務員制度改革推進本部設置することにより、これを総合的に推進することを目的とする。
国家公務員制度改革推進本部の設置)
第13条 国家公務員制度改革を総合的かつ集中的に推進するため、内閣に、国家公務員制度改革推進本部(以下「本部」という。)を置く

国家公務員制度改革推進本部について、第13条は「置く」が用いられているが、第1条は「設置する」が用いられている。このように、目的規定で、その設置を手段として書くような場合には、「設置する」が用いられることが多いようである。
2 郵政民営化法の例

郵政民営化法(平成17年法律第97号)
郵政民営化の推進及び監視に関する組織の設置)
第9条 準備期間(附則第1条第1号に掲げる規定の施行の日から平成19年9月30日までの期間をいう。以下同じ。)及び移行期間における郵政民営化を推進するとともに、その状況を監視するため、政府に、郵政民営化推進本部及び郵政民営化委員会を設置するものとする。
(設置)
第10条 内閣に、郵政民営化推進本部(以下「本部」という。)を置く
(設置)
第18条 本部に、郵政民営化委員会(以下「民営化委員会」という。)を置く

郵政民営化推進本部及び郵政民営化委員会について、設置の根拠規定は、第10条及び第18条であり、第9条は、政府にこれらの組織の設置を義務付けている規定であるという違いから、後者のような場合には「設置する」を用いるということなのだろうか。まあ、これこそ単に語感の問題だけなのかもしれない。
3 各省設置法における省の設置規定

総務省設置法(平成11年法律第91号)
(設置)
第2条 国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第3条第2項の規定に基づいて、総務省設置する

前掲書の記載によれば、省は規模が大きな機関であるから「設置する」が用いられている例ということになろうが、国家行政組織法第3条第2項を受けている関係で、「設置する」とされているのかもしれない。
4 売春防止法の例

売春防止法(昭和31年法律第118号)
(婦人相談所)
第34条 都道府県は、婦人相談所を設置しなければならない
2 (略)
3 婦人相談所に、所長その他所要の職員を置く
4 婦人相談所には、要保護女子を一時保護する施設を設けなければならない
5 (略)

婦人相談所は、前回(「『設置する』と『置く』(上)」)触れたように、施設的なものといえるので、第1項で「設置しなければならない」とされている。
そして、職員については、第3項で「置く」とされているのだが、第4項で一時保護施設については「設けなければならない」とされている。一時保護施設は、施設的なものであるため、「設置しなければならない」でもよいと思うのだが、第1項と「設置」がかぶるのが嫌だったのだろうか。まあ、これも語感による使い分けということだろうか。

*1:この『法令用語辞典』も、前回(「『設置する』と『置く』(上)」)取り上げた『法律用語辞典』も、ともに内閣法制局関係者の執筆によるものだが、微妙に書きぶりが違うのも興味深い。